運命の7秒 (Seven Seconds) 

放送局: Netflix 

プレミア放送日: 2/23/2018 (Fri)  

製作: KMFフィルムズ、フィルムトライブ、FOX 21 TVステュディオス 

製作総指揮: ヴィーナ・サド、ギャビン・オコーナー、ロウレンス・ベンダー 

出演: ボー・ナップ (ピーター・ジャブロンスキ)、デイヴィッド・ライオンズ (マイク・「ディー」・ディアンジェロ)、クレア-ホープ・アシティ (K. J. ハーパー)、マイケル・モーズリー (ジョー・リナルディ)、レジーナ・キング (ラトリス・バトラー)、ミシェル・ヴェンティミリア (マリー・ジャブロンスキ)、ラッセル・ホーンズビー (アイゼア・バトラー)                    

  

物語: まだ雪の積もるジャージー・シティのリバティ・パークで、クルマを運転していた白人刑事のピーターがちょっと道から注意をそらしたその一瞬に、何かを撥ねる。クルマから降りたピーターは、そこにクルマの下敷きになった自転車を見る。乗っていた者は雪塚の向こう側まで跳ね飛ばされており、ピーターは自分の目で確認する気もなく、事故処理のために同僚を呼ぶ。上司のディーは撥ねられたのは黒人少年であることを見てとると、ピーターを家に帰らせる。白人警官による黒人の差別虐待が問題視され全米各地で暴動が頻発している現在、これを公けにすることはまずかった。ピーターには身重の妻マリーがいたが、自分が起こした罪の重さに耐え切れず自首しようとするが、時既に遅く、事態は既にピーター一人が罪を被って終わるだけの事件ではなくなっていた‥‥ 


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Seven Seconds


運命の7秒  ★★★

このサイトでは、わざわざ私が書かなくても基本的に世界同時提供のNetflix作品について書く必要はないと思っているのだが、それでも、どうしてもこれだけは書きたいと思うものもある。3年前のウォショウスキ姉弟の「センス・エイト (Sense 8)」もそうだったし、一昨年のバズ・ラーマンの「ゲットダウン (The Get Down)」もそうだ。日頃気になるフィルムメイカーが作る先品は、やはりどうしても外せない。 

  

「運命の7秒」の場合は、作り手ではなく、その舞台が気になった。現在私が住んでいるのはマンハッタンからハドソン・リヴァーを挟んで対岸のジャージー・シティというところなのだが、川を一本またいだだけで、TVや映画では嫌というほど目にする機会のあるマンハッタンとは異なり、ほぼそういうメディアに映ったり紹介される機会はない。特に都会というわけでもないから、それもわかる。 

  

一方ジャージー・シティは、人種の入り乱れている町だ。もっと小さな、駅前みたいな単位では、クイーンズのジャクソン・ハイツも人種入り乱れているなという印象を受けるが、市や郡のような何十万人もの住人単位では、ジャージー・シティがニューヨーク地域だけではなく、全米でも1、2を争う多人種シティとなる。 

  

そのジャージー・シティで事件が起きる。多人種で構成されている街で、白人の刑事が黒人の少年をクルマで撥ねてしまう。人種の入り乱れている街だ、そういう事件もあり得るだろう。しかしタイミングが悪かった。全米のあらゆるところで白人コップの黒人虐待が問題となっているこの時期、一見単なる事件でも市井の人々はそうは見ない。またかと思われ、市民の突き上げを食らって上級職のクビが飛びかねない。それで事故った刑事の上司は、事故を揉み消そうとする。別の犯人を仕立て上げるが、むろんそれは事態を悪化させこそすれ、なんの解決にもならなかった。実は少年はまだ息があり、数時間後、飼い主と共に散歩に来たイヌに発見され、意識不明のまま病院に運ばれる‥‥いうのが話の発端だ。 

 

予告編で星条旗がはためいているシーンを見た時から、おおっと思ったのだ。これ、見覚えがある、リバティ・パークだろ、何度も自由の女神が画面に映るところからして、間違いない。リバティ・パークは、自由の女神の後ろ姿を眺めるように、ハドソン・リヴァーのニュージャージー側の水辺沿いにあるパークだ。どうやら舞台がニュージャージーなのは間違いないようだが、本当に私の住むジャージー・シティが舞台だった。 

 

これがマンハッタンなら、一応地元とはいえ腐るほどスクリーンやTV画面で見ているので特には気にもしないが、本当に自分が住んでいる場所、身近な場所が舞台だと、興奮してしまうのだった。かつてトビー・マグワイア版の「スパイダー-マン (Spider-Man)」が公開された時、もう少しカメラがパンすれば、私が住んでいるアパート・ビルが映ったのにと、興奮したのを思い出した。 

 

このリバティ・パークに隣接するゴルフ場が、現在PGAのフェデックス・カップのプレイオフのザ・バークレイズでよく舞台となるリバティ・ナショナルだ。ゴルフ好き・映画好きなら、バークレイズと「運命の7秒」に映る自由の女神のアングルが同じであることに気づくはず。 

 

ジャージー・シティの今年の冬は、例年に較べて特に寒いというわけではなかったが、いかんせん冬が長かった。いつになったら暖かくなるのかと思っていたら、春を飛び越えていきなりぽかぽかと初夏の陽気になってしまった。雪は例年並みか少し多いくらいという感じだった。「運命の7秒」を見ると、冬は雪に埋もれる街という印象を受けるが、現実にはあんなに雪ばかりということはない。意図的に雪の多い時期を選び、時には雪を足して撮っているものと思う。そういう心身凍えそうな雰囲気を演出して、人種間の軋轢に楔を入れる効果を倍増させようというわけだ。 

 

一方、私が住んでいるアパート・ビルは、5世帯が入っている3階建てなのだが、考えたら、現在私たち夫婦が住んでいるユニット以外は、住んでいるのは全部白人だ。実はこれまでは、いかにもジャージー・シティらしく人種の入り乱れたビルだった。1階は黒人家庭、2階の隣りはインド人、頭上の3階は中国系男性とアルメニア人女性のカップル、そのお隣りはアラブ系の男性が二人でシェアしていた。それがいつの間にやら子供ができて手狭になったからとかそれぞれの事情で引っ越して行った結果、たまたまこの10年で初めて、我々夫婦以外は皆白人になっている。 

 

こないだ、 日中、私が部屋にいた時、ビルに制服警官が来たことがある。ジャージー・シティ・ポリスだというので階下まで降りて行ってドアを開けてやったら、現在3階で白人女性二人が シェアしている部屋に行って話を聞いていた。ウェルフェア、つまり福祉関係という男性も一緒だったので、いったいなんなんだと思って、「Is everything OK?」と訊いたら、「Everything is OK」と、いかにも横柄にお前には用がないという感じで追い払われた。 

 

警官というのはサーヴィス業ではないので、人に丁寧に接していたら逆に仕事に支障があるというのはわかる。一方それでは市民の協力が得られないので、地域に密着した警察を、なんてスローガンが定期的に立ち上がっても来る。要するに警官刑事も人の子なので、仕事と地域、上司と市民との間に挟まれて大変なのだった。「運命の7秒」で、炎上を怖れたディーが咄嗟に事件を揉み消そうとするのもわからないではない。 

 

ところで番組タイトルの「運命の7秒 -- セヴン・セカンズ」という意味だが、意味がわからず、たぶん見てみればわかるだろうと思っていたのだが、プレミア・エピソードを見た後でもやっぱりわからない。ピーターが少年を撥ねる時7秒間道路から目を離したとか、撥ねた後、7秒間で悪い方の決断をしてしまったとかと思っていたのだが、そうではない。カップルを7分間クローゼットに閉じ込める「セヴン・ミニッツ・イン・ヘヴン」というゲームはあり、その延長でか「セヴン・セカンズ」という言い方もするようだが、結局その7秒間で人の本性が出るという意味だったのだろうか。 

 

出演者で印象に残るのは、たぶん彼女こそが主人公の検察官K.J.に扮するクレア-ホープ・アシティと、轢かれた少年の母に扮するレジーナ・キング。アシティは昨年、同様の人種間軋轢ドラマのFOXの「運命の銃弾 (Shots Fired)」に出ていたし、キングも同様のABCの人種間ドラマ「アメリカン・クライム (American Crime)」に出て、見事エミー賞を獲得している。ヘンな言い方だが、二人共、旬の人種間軋轢ドラマを代表する女優だ。 



追記

上で番組タイトルの意味をもないこうでもないとあれこれ推測したが、後で調べてみて、やはり事故った直後に悪い方の判断をしてしまった7秒間を意味しているとのことだった。しかし、実際に7秒間という感じはしなかったが。どうも解せん。












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