Serenity


セレニティ: 平穏の海  (2019年1月)

まったくとんだ食わせものに当たってしまった。なんとはなしに今週はアクションが見たいなと思って探していて見つけた「セレニティ」、主演はマシュウ・マコノヒーとアン・ハサウェイ、共演はジェイソン・クラークとジャイモン・フンスー、そしてダイアン・レインと、なかなかのメンツが揃っている。演出は「クローズド・サーキット (Closed Circuit)」のスティーヴン・ナイトだ。 

 

確か「クローズド・サーキット」の時も、特に見たい作品があるわけではなく、何かアクションでもみたいな気持ちで、たまたまほとんどなんの宣伝もなく埋もれていた「クローズド・サーキット」を偶然見つけて見に行ったという記憶がある。英国人で、ハリウッド王道アクションというわけではないナイト作品は、いかにも英国的な捻りが強く、それも私好みでもある。しかもナイトは昨年、アクションとしては意外な拾い物だった「蜘蛛の巣を払う女 (The Girl in the Spider's Web)」の脚本も書いている。「セレニティ」も行けるかもしれない。 

 

という私の読みは、もろくも崩れ去る。「クローズド・サーキット」は、間口を広げ過ぎて話の醍醐味が拡散してしまったという印象があったのだが、実は「セレニティ」は、「クローズド・サーキット」に輪をかけてそうだ。というか、話が拡散どころか瓦解してしまっているという印象が強い。 

 

話は、幻のマグロを仕留めるために執念を燃やす漁師のベイカー (マコノヒー) が主人公で、最初、スティーヴン・スピルバーグの「ジョーズ (Jaws)」かアーネスト・ヘミングウェイの「老人と海」のような話かと想像する。軍人上がりで現在では金もなく、ほとんどヒモのような生活をしているベイカーの元に、元妻のカレン (ハサウェイ) が現れる辺りから話がきな臭くなる。実はカレンは現夫のフランク (クラーク) から暴力を受けているだけでなく、その矛先はベイカーの息子でもあるパトリックにも向かっていた。カレンはベイカーに、フランクを沖に連れ出してそこで事故に見せかけて殺してくれと持ちかける。どうやらアクションはアクションでも、どちらかというとフェム・ファタールものに近い作品であったようだ。 

 

という判断も、すぐに覆される。どうやらベイカーはテレパシーに近い感覚で息子のパトリックと結ばれているようで、離れていてもパトリックの気持ちを感得できるらしい。何やら話が胡散臭くなってきた。それに、話になんの貢献もなく、ただベイカーを探し回り、場をかき乱すだけのセールス・エージェントの存在が、これまた話を混乱させる。お前はいったい何者だ? いずれにしても、パトリックが窮地にいると理解したベイカーは、カレンの話に乗る。 

 

そして話は怒涛の何がなんだかよくわからないアンクライマクティックなクライマックスへと向かうのだが、なんだ、それ、的な印象を免れ得ない。本当に最初からこの脚本が通って映画化されたのか、途中から何らかの理由で大幅に手を入れざるを得なくなり、結果としてこんな作品ができ上がってしまったのか、本当に、まさか、それはないだろうとしか思えない。ほとんど夢オチと言うか、反則じゃないのか? というか、たとえ夢オチでも、そこに至るまで説得力をもって描き込まれていれば、それはそれで納得する。そうじゃないから憤る。 

 

マコノヒーとハサウェイというダブル・オスカー俳優が揃っていてこれか。道理で何やら今回のハサウェイ、なんか投げやりみたいな気がすると思ったが、途中から作品が瓦解して行くのに気づいてしまったからかもしれない。その点、作品が破綻しようがしまいが自分の世界で行動するマコノヒーは、さすがというか一筋縄では行かない奴だ。 

 

先々週だか、こちらは完全にトンデモ系SFであるのが明らかだったキアヌ・リーヴス主演の「レプリカズ (Replicas)」を見ようとして果たせなかったツケ、というか期待を、今回熨斗をつけて倍返しされたような「セレニティ」、当然の如く批評家からも散々コケにされ、翌週には劇場から消えていた。これを映画館で公開時に見たというのは、もしかしたら後々自慢できるかもしれない。 











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とある漁師町で、ジャスティスと呼ばれる伝説的なマグロを釣り上げることに魅入られたベイカー (マシュウ・マコノヒー) は、ジャスティスが絡むと釣り人のガイドという仕事を忘れて自分が釣り上げようとして、客を逃がす有り様だった。金がないベイカーは、ほとんどヒモのような生活で、近くに住むコンスタンス (ダイアン・レイン) から小金を貰って生活していた。そこへ元妻のカレン (アン・ハサウェイ) が現れる。カレンは金なら唸るほど持っているフランク (ジェイソン・クラーク) と再婚していたが、フランクはカレンと、ベイカーの息子でもあるパトリックを虐待していた。カレンはベイカーに、フランクを沖に連れ出して事故に見せかけて殺してくれるよう頼む‥‥ 


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