Secret in Their Eyes


シークレット・イン・ゼア・アイズ  (2015年11月)

いや、もう、ちょっと、この映画、滅多にない経験をさせてくれた。ジュリア・ロバーツが娘を殺されて悲嘆にくれる検察調査官ということで、自分のチャーム・ポイントを封印して新境地に挑んでんだな、共演がキウェテル・イジョフォーにニコール・キッドマンか、ロバーツとキッドマンの共演ってこれまであったっけ、いずれにしてもこれは興味をそそられる、と劇場に足を運んだ。


ロバーツが演じるのは娘を何者かに殺された検察調査官ジェスで、犯人と思しき者をいったんは捕らえるが、その男がタレコミ屋として検察の重要な情報源として守られていたために釈放され、その後姿を消す。男が犯人だったと確信しているジェスの同僚レイ (イジョフォー) は、その後、職を辞して男の行方を突き止めることだけに執念を燃やす。そして13年後、その執念は実り、ついに男を見つけ出したと確信したレイは、かつての上司であるクレア (キッドマン) に事件の再調査を求めるが‥‥


とまあ、書いていて特に何か不思議でもおかしいことがあるわけでもない。単純に、ストーリーは続いていく。ついに発見した標的を逃さんと、レイと、行動を共にするバンピー (ディーン・ノリス) は獲物をサッカー・スタジアムに追い詰める。空撮から始まってスタジアムに降りていく1シーン1ショットのシーンは、お、そういや確か、こういう演出を見たことがあるな、確かアルゼンチン映画の「瞳の奥の秘密」だったっけ、しかし似ているというより、これは完全にパクっているな。それともオマージュと言うべきか。



(注) 以下、結末に触れてます。


そしてさらに話は進み、終章、郊外の古びた家にジェスを訪れたレイは、そこに姿をくらませていた男が牢に閉じ込められているのを発見する。ジェスは十何年もの間、一人で男に罰を与え続けていたのだ。そしてその瞬間、私も理解した。これは「瞳の奥の秘密」のパクリなんかじゃなく、「瞳の奥の秘密」そのものだ。これは「瞳の奥の秘密」のリメイクだ。2時間近く見ていて、この瞬間までまったく気づかなかった。気づいた時には、あと3分で映画は終わろうとしている。思わずスクリーンを見ながら、あああ、と叫びそうになった。なんてこった、リメイクだったのか。


その瞬間にこれまた遅まきながら気づいたのだが、映画のタイトルは「Secret in Their Eyes」、「瞳の奥の秘密」の英タイトルは「The Secret in Their Eyes」だ。この数年の間に「Secret」がありふれてしまったので定冠詞がなくなってしまったのか、なんて戯れ言はさておき、「Secret in Their Eyes」なんて、あまりにもありふれているというか、尋常過ぎるタイトルなので、似たようなのがあるのは当たり前だと思い込んでおり、「Secret in Their Eyes」と現前に出されても、過去同じタイトルの作品を見ているということにまったく思いが及ばなかった。これはトリックは堂々と目の前で行われると逆に気づかないという、ミステリやマジックのミスリーディングの手口を応用したもの‥‥であるわけがないか。


とはいえ弁明すると、基本的な骨格は同じとはいえ、その他の部分を見ると、これがリメイクとは気づかないほどかなり変更されている。まず第一にオリジナルでジェスと同じキャラクターは男性で、妻が殺されたことになっている。娘を殺されたシングル・マザーと妻を殺された夫という立場は、どっちも大切に思う者を殺された被害者という共通点はあっても、子を思う親と恋愛関係にある夫婦とでは、微妙に気持ちは違うだろう。


レイ役はオリジナルでは引退間近の官吏ベンヤミンが、過去の迷宮入りした事件を追想するという構成だ。今回のレイは、十何年もの間、事件の犯人を一時も忘れることなく執拗に追い続ける。そして何よりも異なるのが、オリジナルではベンヤミンが職場で思いを寄せる女性上司との関係が横糸になっており、身分の異なる恋と、自分の気持ちを隠してきたベンヤミンと上司との恋愛が、映画の肝だった。


今回のレイは上司に当たる女性検察官のクレアに恋愛感情を持つことは持つが、それが重要なポイントになったり話に貢献するようなことはほとんどない。オリジナルで最後にベンヤミンが爆発させる感情は上司に対しての愛の告白だが、レイが最後に見せる行動は、ジェスに拳銃を渡し、裏庭に墓穴を掘ることという、オリジナルとはほとんど対極的な印象を受けるものだ。そのため、オリジナルがある種満たされた前向きな印象で終わるのに対し、今回は結局誰にも救いは訪れず、ずっと後ろ向きのままという印象で終わる。本当にこんなんでいいのか?










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2002年。LAの検察の調査部で働くレイ (キウェテル・イジョフォー) とジェス (ジュリア・ロバーツ) は、若い女性の死体発見の知らせを受けて現場検証に赴く。被害者の女性はジェスの娘のキャロラインだった。レイは仕事仲間で行った屋外パーティの写真から、常にキャロラインに視線を走らせていた若い男マージン (ジョー・コール) に疑惑を抱く。彼の家に忍び込んで証拠と思えるコミック・ブックを発見するが、むろん正式な令状もなく盗み出したものが証拠になるわけもない。釈放せざるを得なかったが、取り調べ室で検察官のクレア (ニコール・キッドマン) がマージンを挑発して暴れさせ、逮捕するが、しかしマージンは実は検察の情報屋であり、結局は釈放されてしまい、マージンはその後消息を絶つ。13年後、レイは職を辞し、どこかに潜伏しているに違いないマージンを見つけ出し、キャラロインの仇を討ち、ジェスの力になることだけを誓って、毎日を調査に費やしていた。そしてついに、マージンを発見する‥‥


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