Scrappers    スクラッパーズ

放送局: スパイク (Spike)

プレミア放送日:  8/3/2010 (Tue) 22:00-22:30-23:00

製作: フーシック・フォールズ・プロダクションズ、オキシモロン・エンタテインメント

製作総指揮: マイケル・ワイス、アンディ・ワイス、ジョージ・ヴァーシュドールティム・ダフィ、シャロン・レヴィ、ジェフ・サヴァイアノ

出演: フランク・フィディリオ (フランキー・ヌーツ)、サルヴァトーレ・ヴァッサリオ (サル・ザ・バーバー)、ミモ・サラディノ、ディノ・ミニニ


内容: ニューヨーク、ブルックリンの廃品回収業者に密着するリアリティ・ショウ。


_______________________________________________________________




















ニューヨークに来てからわりと驚かされたことの一つに、結構皆、道端に捨ててあるものを物色するというのがある。捨てられてあるゴミを矯めつ眇めつして持って帰る者が結構いるのだ。堂々とゴミを持っていく。スーツやドレスを着ている者までそういう行為をするわけではないが、大半は路肩になにやらまだ使えるものが捨て置かれていたりすると、素通りしない。


意図的に捨ててあるものではなく、ほんのちょっと置いてあるだけと思われるものでも、それが天下の往来だったりすると、堂々と持っていく。私もある時、折りたたみ椅子を車にたてかけておいたまま忘れ、30分くらいしてあっと思いだして戻った時には、既にもうなかったという経験がある。車の屋根の上に地図を置き忘れ、ほんの3分くらいで戻った時も、既にもうなくなっていた。忘れた者が悪いという発想だろう。教訓: 忘れものをしたらそれはもう戻ってこない。


ニューヨークのクイーンズからニュージャージーに引っ越してからも、基本的に同じだ。引っ越して新しく物を買ったりしたために結構不要のものが出たが、それを路肩に出しておくと、特別な業者や市に連絡して引き取りを頼むことなく、綺麗さっぱりなくなっていく。ちょっとペイントが剥げかかっただけのTVスタンドなんて、まだゴミに出してすらなく、玄関を開けて外に出そうとしていただけなのに、それ、捨てるのかと訊かれ、後で取りに来るからそこに置いといてくれと言われたこともある。時には、さすがにこれを持っていく者はいまいという明らかに壊れたプリンタですらなくなっていたことがあった。


しかし最近のベッドバグ -- いわゆる南京虫。トコジラミともいわれるらしい -- 蔓延騒動で、そういう天然リサイクル好きのニューヨーカーの美徳? も影が薄れ、捨てられているものにはすぐには手を出さないという風潮になりつつあるようだ。ベッドバグは非常に手強く、やられると家財道具一式捨てざるを得なくなったり、引っ越さざるを得なくなるくらい悩まされたりそうで、さすがにその可能性を考えると、道端に捨ててあるものを簡単に持ち帰ることはできないだろう。


一方、そういう道端に捨てられているものに目を光らせている専門の業者もいる。スパイクTVの新番組「スクラッパーズ」がとらえるのは、そういう者たちだ。むろん彼らは常にちまちまと車で街を流しながら出物を物色しているわけではなく、また、メタル専門であり、冷蔵庫は回収しても家具をピックアップするわけではない。とはいえ、こういう者たちもいるから、道端に捨て置かれている大型ゴミやどう見ても産業廃棄物が、ゴミの収集日でもないのにいつの間にやらなくなっているんだろう。


「スクラッパーズ」は、ニューヨークのブルックリンを根城にビジネスをしている3組のスクラップ業者をとらえる。業者といっても2-3人一組のチームで、それぞれがバンを一台所有しているだけだ。フランキー・ヌーツは3代続いているという代々のスクラッパーで、ジョー・ポサとダレンというパートナーがいる。サル・ザ・バーバーは元々はフランキーのところで働いていたところを独立し、今はグレッグと一緒に商売している。ミモとディノはこぢんまりと商売していて、時々乞われるとフランキーを手伝ってやったりしている。


零細の彼らは大きな事務所やスクラップ場を所有しているわけではなく、あの手この手で手に入れたメタル・スクラップを、大手業者に売りさばくことで糊口を凌いでいる。それらは建設現場から出た大量の資材であることもあれば、友人知人の自宅から出た少しばかりの建材や電化製品のこともある。かなり成り行き任せのように見え、気楽な商売のようだが、それで食っていかなければならないとなると、明日の見えないこの商売は、普通の人にとってはかなりのストレスになるのは間違いなかろう。まず普通の神経の持ち主には勤まらないと思う。


実際、スクラッパーズの面々は、それぞれかなりのキャラクターだ。肝が据わっているというか明日のことを憂えないキリギリスというか。どちらかというと教育をあまり受けていないタイプで、全員もう口の悪いことといったらない。しゃべらせると、単語3つにつき一回は放送禁止用語が挟まってそれを消すビープ音が重なるという具合だ。HBOの「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」だって放送禁止用語が挟まる頻度はかなりのものだったが、これはあんな程度じゃない。たぶん、現在放送されている全番組中、最も放送禁止用語を発する頻度が高い番組だろう。


表現がめちゃくちゃスランギッシュな上、さらに生まれてからこの方ブルックリンから一歩も外に出たことはないのではないかという、生っ粋の下町のブルックリン訛りでもある。おかげで最初、聞き取りに手間取った。ただし、スラングをこれだけしゃべってくれる番組というのは他にほとんどないため、実はこの番組、生きた英語教材としてはかなり有効だ。彼らがしゃべっていることがちゃんと聞き取れるなら、アメリカ中どこに行っても英語で苦労はしないだろう。


彼らは、ほとんどが呆れるくらい短気だ。番組第1回では、フランキーが伝手をたどって工事現場から出た大量の廃材の回収を任せられる。しかしフランキーに回収を許可した現場の責任者は高圧的で、恩着せがましい態度がフランキーはどうしても気に入らない。それで責任者も、どうした、仕事が欲しいのか欲しくないのかと詰め寄ると、フランキーはさらに態度を硬化させるという感じで、パートナーのジョーがその場をとりなしてなんとか場を収めるが、よくこんな短気で商売続けていられるよなと思う。あるいは、だからこそスクラッパーが天職になるのか。


廃材をバンに突っ込む時も、とにかく手当たり次第に車の中に投げ込むという感じで、当然整理がついてないからすぐ廃材が荷台から溢れ出しそうになるのを、頭に来てまた放送禁止用語を連発しながら力づくで押し込んでいる。彼らの仕事に要領とか生産性とか合理化という言葉はない。自分たちの思うように仕事が運ばなかったら、力づくで思うように捻じ曲げるだけだ。


サルは知人宅から冷蔵庫を回収するのだが、その家の階段が狭くて簡単に冷蔵庫が下ろせないので、これまた切れる。指を挟んで血を出してプッツンして冷蔵庫にパンチ入れて当たりまくる。こいつら、ガキの頃は喧嘩しまくっただろうなあ。


一方で、全員が全員こんな癇癪持ちだと、はっきり言って商売は成り立たない。そのため、うまい具合にそれをとりなしたり相殺したりする人間が周りにいる。フランキーの場合はジョーがその役を受け持っているし、サルの相棒のグレッグはほとんど口を利かず黙々と仕事するというタイプだ。傑作なのがダレンで、フランキーという筋金入りの短気な男を前に、まったく悪びれずに飄々と仕事をする。というか、平気で寝過ごして仕事をぶっちぎる。


話をさせると女のことばかりで、車で移動中に助手席でプレイボーイを熱心に眺めている。さすがにフランキーが、おい、今はそんな雑誌読むのはよせ、と咎めると、なぜダメなのかその理由がまったくわからないという風なのだ。当然フランキーはダレンに対して頭に来るが、勝手に激昂しておきながら数分後には自分からダレンに対して俺はお前を許すよ、なんて自分一人で完結している。よくもまあこんなコンビができ上がったものだ。


この番組、彼らの仕事ぶりをとらえるため当然彼らにくっついて町のあちこちを走り回るため、なかなか面白いブルックリンの下町の観光案内にもなっている。イースト・リヴァーを挟んですぐ目と鼻の先はマンハッタンなのだが、そうではなく、比較的低層家屋の立ち並ぶ、下町情緒溢れる古いニューヨークという感じの、人の生活の匂いのする町並みが背景だ。


現在HBOが放送している「ボアード・トゥ・デス (Bored to Death)」は、同じブルックリンでもマンハッタン寄りのパーク・スロープ、あるいはダンボ (Dumbo: Down Under the Manhattan Bridge Overpass) と呼ばれる高級住宅街、人気スポットを舞台としている。「スクラッパーズ」は、そういうスノッブさとは無縁の土着の魅力が売りと言える。「ボアード・トゥ・デス」が金を払わないと見られない、ペイTVのHBOで提供され、「スクラッパーズ」がベイシック・ケーブル・チャンネルの中でも最も男臭い、プロレスやスポーツ、格闘技中継中心のスパイクTVで放送されているのも納得だ。両方見るとブルックリン通になれること間違いなし。








< previous                                    HOME

 

Scrappers


スクラッパーズ   ★★1/2

 
inserted by FC2 system