Savages


野蛮なやつら (サヴェジス)  (2012年7月)

高校以来の友人であるチョン (テイラー・キッチュ) とベン (アーロン・ジョンソン) は 、カリフォルニアでマリファナ栽培ビジネスを展開し、大きな利益を得ていた。主にビジネスの面はベンが担当、元ネイヴィ・SEALのチョンが、いざという時の対応に当たっていた。二人は共にオー (ブレイク・ライヴリー) を愛しており、3人の蜜月はいつまでも続くように思われた。しかしメキシコの犯罪カルテルがその潤沢なビジネスに目をつけ、強引に共同関係を迫ってくる。ベンとチョンは、抱き込んでいた政府エージェントのデニス (ジョン・トラヴォルタ) に事態改善を図るよう頼むが、しかしカルテルは強硬に進展を迫り、ボスのエレナ (サルマ・ハイエック) は凶暴な手下のラド (ベニシオ・デル・トロ) を差し向け、オーを誘拐しようとする‥‥


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あれ、と思ってしまった。今週はエイブラム・リンカーンが実はヴァンパイア・ハンターだったという、あまりにも奇想天外でちょっと興味を惹かれていた「リンカーン/秘密の書 (Abraham Lincoln: Vampire Hunter)」を見に行こうと思っていたら、公開3週目にして既に劇場から消えていた。人気グラフィック・ノヴェルの映像化だそうで、なるほどさすがにここまで奇想天外な設定は映画オリジナルというより原作があるわけか、いずれにしてもこれだけ常軌を逸した設定だと好奇心を刺激するなと思っていたのに、世間一般の人はそうでもなかったようだ。2週間しか持たなかったのか。


それで見に行ったのが第2チョイスの「サヴェジス」だ。オリヴァー・ストーンの新作で、前作の「ウォール・ストリート (Wall Street: Money Never Sleeps)」も、地元作品でもあり見るつもりでいたのに見てないのはタイミングの問題で、その時公開していた他の作品の方にわずかに惹かれていたからだ。


「ウォール・ストリート」が公開された2010年9月末に私が見ていたのは、「ミレニアム2 火と戯れる女 (The Girl Who Played With Fire)」「ザ・タウン (The Town)」「ソーシャル・ネットワーク (The Social Network)」「モールス (Let Me In)」「ヒアアフター (Hereafter)」で、それらを見ているうちに「ウォール・ストリート」は劇場から消えた。今週は「ウォール・ストリート」見に行けるかな、と思いつつ、うーん、やっぱり第2候補で来週だな、しかしヤバいな、そろそろ劇場から消えるかもしれないと思っているうちに実際に劇場から消えた。今同じ作品が公開されてもまったく同じ選択をするのは間違いなく、我ながらなかなかいい趣味をしていると思ったのだが、なるほど、そういうことだったか。


考えると、ストーン作品は「ウォール・ストリート」の前の「ブッシュ (W.)」も、「ワールド・トレード・センター (World Trade Center)」も見てないし、それ以外にも見ていない作品が結構ある。これだけ名が知られているアメリカの監督で、これだけ見ていない作品があるのは、ストーンくらいだ。「ワールド・トレード・センター」の場合、まったくそういうドキュドラマを見る気分になれなかったし、要するに、なんかいつもタイミングが悪い。そういう相性の監督って時たまいる。今回は、「リンカーン」がもし上映中ならたぶん見ることもなかっただろう「サヴェジス」を見ることになったのだから、関係は改善されつつあると言えるか。


「サヴェジス」は、カリフォルニアでマリファナ・ビジネスを展開する若い男女3人がメキシコのギャング・カルテルに巻き込まれていくという話で、話そのものよりも感触として最も近いのは、そのヴァイオレンスの挟まり具合いから言って、ストーン得意のポリティカル・ドラマ系ではなく、「ナチュラル・ボーン・キラーズ (Natural Born Killers)」だろう。とはいえ、公開当時はそのヴァイオレンス描写が話題になった「ナチュラル・ボーン・キラーズ」も、そのヴァイオレンスなんて実はもうほとんど覚えていない。それよりやはり、北野武やクエンティン・タランティーノのヴァイオレンスの方がよほど記憶に残っている。


今回のヴァイオレンスのほとんどを一人で担っているのは、頭よりも手が先に出るタイプのギャング、ラドを演じているベニシオ・デル・トロで、さすがにあの顔でヴァイオレンスに走ると、結構怖い。ヴァイオレンスそのものより、デル・トロの顔の方が怖くて記憶に残る。


主人公の3人を演じるのは、大学出のベンにアーロン・ジョンソン、武闘派のチョンにテイラー・キッチュ、二人の共通の恋人、オー (オフィーリア) にブレイク・ライヴリーという布陣。キッチュは先頃、史上最大の失敗作と烙印を捺されたディズニーの「ジョン・カーター」でタイトル・ロールを演じたばかり。と思いきや間髪を入れず「バトルシップ (Battleship)」公開、そして「サヴェジス」と、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。


紅一点のオーを演じるライヴリーも、最近名前をよく聞く。元々CWのプライムタイム・ソープの「ゴシップ・ガール (Gossip Girl)」で出てきたが、「タウン」にも出ていた。オーはベンとチョンの二人の共通の恋人で、二人と交互にセックスして愛を交わす。先頃ショウタイムで始まったドキュメンタリー・リアリティの「ポリアモリー (Polyamory)」も、3人で紡ぐセックス・ライフをとらえる番組で、一対一の関係にとらわれない恋愛関係というのは、最近の流行りか。


話はオーの視点から語られるところを見ると、男二人女一人の関係でも、力関係は対等というよりも、ほとんど女が関係の軸だ。一方のメキシカン・ギャングも、ボスは女性のエレナ (サルマ・ハイエック) だ。さらにそのエレナも一人娘のマグダの顔色を終始窺っており、ご機嫌とりに余念がないなど、実は話は女性を中心に回っている。最も大きな話のプロットは、誘拐されたオーの奪回のためにベンとチョンがほとんど負けを覚悟の大博打に出るというものだ。


主人公たちは非合法ビジネスを展開しており、その上婚姻的な常識から見ても逸脱しており、ごく一般的な見地からは、感情移入しやすくはないと思われる。どんなにベンが優しい心の持ち主だろうと、非合法にマリファナを流通させたら、不幸な目に遭う人間が確実に増えるくらいの想像力は持ってしかるべきで、そのビジネスで得た利益を社会に還元するというは本末転倒だ。


とはいっても見た目はいいし、彼らが動き回るのを見る分にはなんの文句もない。たぶん若い頃ドラッグに溺れたというストーンの経験が大きく反映しているんだろう。アンチ・ヒーローというほど悪どくもなく、こういうスタンスは今風で、むしろなんでこういう主人公がこれまであんまりいなかったのだろうとも思える。社会のシステムから見れば従来の主人公の造型からはやや逸脱していると思うが、だからといって私自身は特に気にならない。



(注) 以下、クライマックスの展開に触れてます。


気になるのは話の作り方そのものであって、つまり、たった今目の前で展開したものが、想像だったというのはやめろーっ、っと、これはもう声を大にして言いたい。そんなのをクライマックスに持ってくるなーっ! ああ、フラストレーション溜まる。見ていてイマイチ甘いなと思ったのは確かだが、しかし、本当に夢オチにするなーっ! 思わず座席にへたり込んだぞ、私は。要するにこれだ、これだよ、ストーンとはイマイチ合わないと思っていた理由の一つだ。あれなくしてなんでそのままクライマックスになだれ込む、じゃダメだったんだ。別にそのことが話そのものにもなんの貢献もしていない。過剰なサーヴィスはサーヴィスしないことよりも性質が悪い。


過剰なほどサーヴィスをして、げっぷしながらもそれなりのものを見せてもらったと思わせることのできる監督は、クエンティン・タランティーノくらいしかいない。ストーンは本質的にはタランティーノ的な過剰な露悪趣味とは違う。むしろ抑制しながらもこぼれ落ちる悪趣味、ヴァイオレンスがそそるのであって、これまでポリティカルなドラマ、戦争ドラマを多く撮っているのも、そういう舞台設定がストーンと合うからだ。本人もわかっているとは思うのだが、それでもどうしても時々こういう過剰なものに走りたがる。溜めたもののガス抜きがたまには必要なんだろう。









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