Safe House


デンジャラス・ラン (セイフ・ハウス)  (2012年3月)

マット (ライアン・レイノルズ) は南アフリカのケイプ・タウンで、いざという時の緊急避難施設セイフ・ハウスで働く新米CIAエージェントだった。日がなやることといえば、誰も訪れることがなく、窓もない閉じきった世界で来る当てもない連絡を待つだけという、単調で気の遠くなる仕事だった。しかし元CIAエージェントのお尋ね者で、現在では裏の世界で暗躍しているトビン・フロスト (デンゼル・ワシントン) がケイプ・タウンで何者かに追われ、窮地に瀕して咄嗟に米大使館に駆け込み、セイフ・ハウスに連れてこられたことで事態は一転する。フロストの追っ手は完全武装してセイフ・ハウスに押し入り、マットは窮地を脱するために、すべてのプロトコルを無視してフロストを連れてセイフ・ハウスからの脱出を図る‥‥


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「セイフ・ハウス」は、南アフリカのケイプ・タウンを舞台とするアクションだ。南アフリカといえば、2009年に相次いで公開された、「インビクタス (Invictus)」「第9地区 (District 9)」がすぐに思い浮かぶ。方やクリント・イーストウッド演出のラグビーを題材とするスポーツ・ドラマ、方や難民エイリアンを描く珍品SFだが、これだけジャンルの違う作品でも、アパルトヘイトという制度が通奏低音として流れているという感触は否定できなかった。


2005年の「イン・マイ・カントリー (In My Country)」になると、テーマからしてもろそれだし、南アフリカを舞台とすると、どうしてもアパルトヘイトに触れざるを得ない。ゴルフ・ファンの私としては、アーニー・エルスやレティーフ・グーセンといった南アフリカ出身のプロ・ゴルファーや、いつぞやのプレジデンツ・カップの舞台となったファンコート・エステートも思い出す。スポーツやはりラグビーとゴルフか。


「セイフ・ハウス」でも、「インビクタス」や「第9地区」にあったサッカー場やスラムのイメージがスクリーンに現れるが、実は、特にもうアパルトヘイト云々という印象を受けない。単純に世界に点在する大型都市の一つという印象の方が強い。主演がデンゼル・ワシントンとライアン・レイノルズと、黒人白人揃っているが、だからといってそこに意図的なものはない。二人は現・元のCIAエージェントで、ワシントン演じるフロストがケイプ・タウンにいるのは、そこで取り引きがあるからで、白人のレイノルズ演じるマットがそこにいるのは、単に仕事として派遣されてきているからだ。確かに黒人のフロストはアフリカではどちらかというと目立たない存在になり得るかもしれないが、それはアメリカの都会にいたって同じだろう。


実際、「セイフ・ハウス」において利用されるスタジアムで思い出すのは、「インビクタス」ではなく、アルゼンチン映画の「瞳の奥の秘密 (The Secret in Their Eyes)」だったりする。スタジアムのみだけでなく、駅や街中の描写においても、かなり「瞳の奥の秘密」を思い出させる。既に「瞳の奥」は細部の記憶はかなり薄れているのに、なぜこうも頻繁に「セイフ・ハウス」を見ながら「瞳の奥」のイメージが頭の中で明滅していたのか、自分でも不思議なくらいだ。共に南半球で、治安が特にいいわけではないこと等から来る街の雰囲気、ヨーロッパ文化の継承、そしてほぼ同じ緯度にあることによる気候、風土の印象のせいだろうか。


とはいえ「セイフ・ハウス」がクライマックスになって場所が都市から郊外に移ると、今度はそこはかなり砂漠町に近い感じになって、さすがに連想するのは「第9地区」と、アメリカ中西部が舞台の映像だったりする。いずれにしても言わんとしているのは、南アフリカはもうアパルトヘイトだけの国ではないということだ。これまでは南アを舞台する作品では、アパルトヘイトは避けて通れないテーマであり、舞台となるわけではなくとも話に絡む場合は、だいたいにおいて聞いたこともない南アの公用語であるアフリカーンスをしゃべる、悪いやつらを描くアクションものであることが多かった。しかしいつの間にやら南アは、アパルトヘイトから一歩先に進んでいたようだ。


こういう連想をしたのも、「セイフ・ハウス」の冒頭で新米エージェントのマットに指令を与える上官のバーロウを、「イン・マイ・カントリー」のブレンダン・グリーソンが演じているからだ。あの人種差別主義者が南アフリカでCIAエージェントの指揮官として暗躍しているなら、裏で何か悪いこと企んでいるに違いない。


そのバーロウ指揮下で、窓もない頑丈なセイフ・ハウスの留守番役という死ぬほど退屈な仕事を任されているのが、まだ新米CIAエージェントのマットだ。しかし、そこにCIAのお尋ね者リストの筆頭に名を連ねるフロストが連れてこられたことで、事態は一変する。フロストをつけ狙う者たちは、その代償や手段がなんであろうと任務を遂行しようとするやつらで、完全武装して力技でセイフ・ハウスに押し入り、皆殺ししてフロストを拉致、もしくは殺そうとする。マットは咄嗟の判断でフロストを連れてセイフ・ハウスを脱出するが、一味は執拗にマットとフロストの後を追ってくる‥‥


という前半のドンパチ・シーンと、それに続くケイプ・タウンの市街を舞台とするカー・アクションはかなりのもの。特にカー・アクションは手に汗握らせてくれる。クルマが街の中を疾走するカー・アクションは、クルマだけでなく街自体が重要なプロップで、見たこともない街をクルマが爆走すると、それだけでアドレナリンが倍加する。近年、「007」や「ジェイソン・ボーン」シリーズ等で世界各地で印象的なカー・アクションが撮られているが、そこにまた新たな例が加わった。市街地でこんなアクション、よく撮れるよなと思う。カー・アクションのファンなら、このシーンだけを見に劇場に足を運んでも失望はしないだろう。


マットに扮するライアン・レイノルズは、いつぞや見た、あれはABCの「20/20」かNBCの「デイトライン (Dateline)」だったかで、科学的統計によると、彼が世界で最もハンサムな人間ということになると紹介されていた。それに納得するかどうかはともかく、まあ、ハンサムであるのは間違いあるまい。ただしこないだ公開された「グリーン・ランタン (Green Lantern)」は、サカナの顔したエイリアンが地球を滅亡から救うみたいなストーリーが、まったくギャグかあるいは人をバカにしているとしか思えず、パスしていた。


同様に「ウルヴァリン: X-Men Zero  (X-Men Origins: Wolverine)」も見る気になれず、出世作となったABCの「ふたりの男とひとりの女 (Two Guys, a Girl and a Pizza Place)」も特に気にしていたわけではないので、これまでほとんど見る機会がなかった。もう若手とは言えないかもしれないが、新米エージェント役の「セイフ・ハウス」は悪くない。スカーレット・ヨハンソンと結婚していた時期もあったということも、今回調べて初めて知った。


一方のお尋ね者の元CiAエージェント、フロストに扮するのが、デンゼル・ワシントン。近年のワシントン作品というと、一匹狼というかはぐれ者というか、ちょっと王道を外れたところにいるヒーロー、もしくはアンチ・ヒーロー、あるいはヒーローのなり損ね、みたいな癖のある役が増えた。色んな役の可能性を模索しているんだろう。


脇では上述のグリーソン以外に、CIA幹部としてサム・シェパードや、グリーソンと共同で事に当たる同僚エージェントとしてヴェラ・ファーミガが出ている。特にファーミガは、こういったスーツや制服姿がよく似合う。さらに後半、ケイプ・タウン郊外のもう一つの農場なような地に建つ一軒家のセイフ・ハウスのお守り役エージェントとして出てくるのは、AMCの「ザ・キリング (The Killing)」でかなりよかったジョエル・キナマンだ。キナマンは演出のダニエル・エスピノーサの出世作「イージーマネー (Easy Money)」で主演しているから、それ繫がりだろう。








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