Sabotage


サボタージュ  (2014年4月)

「エクスペンダブルズ (The Expendables)」を例に挙げるまでもなく、老兵は死なず的なコンセプトの作品は、常にいくらかの需要がある。どこも人々の寿命は伸びており、人 は自分を投影できる作品を見たい。また、かつてのアクション・スターの現在を見たいという欲求も当然あろう。「エクスペンダブルズ」が続編まで製作される ほど人気を獲得したのも、そういう要望に応えたからだ。かくいう私も、シュワルツネッガー主演のアクションというと、やはり興味をそそられるのだった。


とはいうものの、実はこの作品、最大のネックは主演のシュワルツネッガー自身にある。というのも、若手アクション・スターに囲まれた出演陣において、シュワ ルツネッガーが最も演技が下手くそで、今となっては最もアクションに切れがない。かつてのターミネーターという後光がなければ、なんで彼が主役なのかわか らない。


一方、シュワルツネッガーを囲む俳優陣の豪華さは凄い。「エクスペンダブルズ」が懐かしのアクション・スター勢揃いなら、こちら は次の世代を支える若手の新しいアクション・スターだ。なんてったってサム・ワーシントンは一瞬ではあるが、既に「ターミネーター4 (Termnator Salvation)」でシュワルツネッガーと共演している。今回はシュワルツネッガーの子分役だ。他に仲間内では紅一点のリジーに扮するミレイユ・イー ノス (「ザ・キリング (The Killing)」AMC) の切れ具合はいっそあっ晴れという感じで、他の屈強の男性陣をも圧倒する。


他にも「プリズナーズ (Preisoners)」のテレンス・ハワード、「ロスト (Lost)」(ABC) のジョシュ・ホロウェイ、「ザ・ユニット (The Unit)」(CBS) のマックス・マーティニ、「マジック・マイク (Magic Mike)」のジョー・マンガニエロ等、若手の肉体派が顔を揃え、彼らを調査する警察の女性刑事ブレンウッドに扮するのは、 FOXの「ドールハウス (Dollhouse)」のオリヴィア・ウィリアムズだ。彼女とペアを組むのはハロルド・ペリノーで、こちらはホロウェイ共々「ロスト」の同期会だ。


演出のデイヴィッド・エアーは、一昨年の「エンド・オブ・ウォッチ (End of Watch)」が認められて今回の抜擢になったと思う。実際アクションの演出は悪くないが、切れのないシュワルツネッガーに手こずったという印象を受ける。


映画ではシュワルツネッガー演じるブリーチャーは、最愛の家族を亡くしたために、自分のキャリアや余生、仲間を犠牲にしてでも報復を図る。これまた実は苦しい。なんとなれば、我々はシュワルツネッガーが実生活では美人のキャリア妻マリア・シュライヴァーを袖にして浮気し、離婚され、隠し子までいたことを既に知っているからだ。そういう人間がスクリーンの上で家族のためにすべてを捨てる男を演じても、シュワルツネッガー自身がスクリーンの上ではシュワルツネッガー自身しか体現していない時、それを信じることは難しい。


しかしなんといっても個人的にこの映画の最大の失敗は、アルフレッド・ヒッチコックの隠れた名作と同じタイトルを冠したことにあると思えてならない (他にも同名異作があるようだがそれは置いておく。) 「サボタージュ」のバスのシーンの衝撃は、これが1930年代に撮られたことを考えると、さらに驚くに値する。バスというと同様に「スピード (Speed)」や「ザ・インタープリター (The Interpreter)」を思い出すが、私が今回「サボタージュ」というタイトルを聞いた時に反射的に思い出したのもこちらの方だった。一瞬そのリメイクかと思った。


映画は批評家評もよくなく、興行成績も散々だったわけだが、それでも、もしシュワルツネッガー主演でまたアクション映画が撮られたら、私はまた見に行くと思う。なんにせよ彼が体現しているアクションの歴史は、やはり見過ごせない。「ターミネーター3 (Terminator 3)」が公開された時、ある知人は映画を見て、ターミネーターのライヴァルとなるクリスタナ・ローケンの演技が残念ながら下手くそだったと評しているのを聞いて喫驚した記憶がある。その知人には、演技しているようにすら見えないシュワルツネッガーの下手くそさ加減なんか、まるで目に入ってなかったのだ。たぶんシュワルツネッガーの存在価値は、そこに存在しているという点にこそあるのだろう。つまり、やはり彼はハリウッド・スターなのだ。












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DEAエージェントのブリーチャー (アーノルド・シュワルツネッガー) をボスとするチームは南米系のドラッグ・カルテルを急襲、違法マネーを押収するが、その時、いくらかを隠す。実はブリーチャーの妻と子はメキシコのギャン グに誘拐されて殺されていた。その復讐をしなければ気の済まないブリーチャーとチームには、どうしても金が必要だった。しかし後日金を引き上げに来たチー ムは、既に何者かの手によって金が回収されていることを発見する。押収された金も金額が合わないとして、チームは活動を停止して政府の監視下に置かれる。 しかしチームのパイロ (マックス・マーティニ) が、住んでいたトライラー・ハウスごと列車に衝突させられて殺される。地元警察のキャロライン・ブレンウッド (オリヴィア・ウィリアムズ) とジャクソン (ハロルド・ペリノー) は調査を開始し始めた直後に、今度はネック (ジョシュ・ホロウェイ) の死体が発見される。何者かがチームを付け狙っていた。残されたモンスター (サム・ワーシントン)、リジー (ミレイユ・イーノス)、グラインダー (ジョー・マンガニエロ)、シュガー (テレンス・ハワード)、トライポッド (ケヴィン・ヴァンス) らは疑心暗鬼になってお互いを疑い始める‥‥


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