放送局: NBC

プレミア放送日: 10/11/1975 (Sat) 23:30-1:00

再放送日: 6/28/2008 (Sat) 23:30-1:00

製作: SNLステュディオス、 NBC

製作総指揮: ローン・マイケルズ

出演: ジェイン・カーティン、ガレット・モリス、ラレイン・ニューマン、ギルダ・ラドナー、ダン・エイクロイド、ジョン・ベルーシ、チェヴィ・チェイス、ジョージ・コー、マイケル・オドノギュー

ホスト: ジョージ・カーリン

音楽ゲスト: ジャニス・イアン、ビリー・プレストン

ゲスト: アルバート・ブルックス、ジム・ハンソンのマペッツ、ヴァーリ・ブロムフィールド、アンディ・カウフマン


内容: 1975年に放送を開始した「サタデイ・ナイト・ライヴ」の記念すべき第1回の再放送。


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NBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」といえば、知らぬ者はないと思われるコメディ/ヴァラエティ・ショウだ。なんとなくこないだ25周年記念特番を見たような気がするのだが、いつの間にやら今年放送33年目を迎える、アメリカTV界きっての長寿コメディ・ショウだ。


その「SNL」の第1回ホストが、先頃物故したジョージ・カーリンだ。日本人には特に馴染みの深い名前ではないが、その毒舌ぶりはアメリカではつとに知られており、いわゆるスタンダップのヴェテランだ。今回、「SNL」はカーリンがホストを担当したその第1回を再放送することによって弔意を表明した。わざわざ第1シーズンのDVDを買ったり借りたりしてまでは見ていない私のようなごく一般的なTVファンにとっては、こういう企画はありがたい。


番組冒頭、セットの階段を降りて現れたのは懐かしきジョン・ベルーシで、たぶん東欧出身でまだ英語がうまくないという設定と思われるベルーシが、逐一先生の発音を真似る「ウルヴァリン」ギャグ・スキットの後、チェヴィ・チェイスが登場して、お決まりの「ライヴ・フロム・ニューヨーク、イッツ・サタデイ・ナイト!」を宣言する。しかしこれ、番組第1回からずっと続いていたのか。それにしても既に鬼籍に入って歳をとらないベルーシを見ただけでは気づかなかったが、チェイスは当然だが若い。


一方、プレミア・エピソードと現在では異なっているのがそもそもの番組タイトルで、第1回のタイトルは「NBCズ・サタデイ・ナイト (NBC’s Saturday Night)」と表示が出た。「SNL」の初期の頃は「SNL」という番組名ではなかったのだ。知らなかった。


上でカーリンは番組第1回のホストと書いたが、実はそれも当たっていない。番組オープニングではカーリンは正確には「スターリング (Starring)」と紹介されており、ホストとは一言も言っていない。実際カーリンは自分が紹介された後、ステージに上がってやったことは、たぶん彼がいつもやっていることと同じの、彼一人だけでのスタンダップのギャグのみで、番組中、それを何回か繰り返すだけだ。これが現在のホストなら、必ずオープニングではSNLのメンバーとの絡みややりとりがあり、その後でいくつかのギャグ・スキットにも出るその回の主人公みたいなものだが、ここでのカーリンは、自分一人のパフォーマンス以外ではまったく他のSNLメンバーと接触しない。そういうものだったのか。


チェイス同様当然ながらカーリンも若く、今のほぼ白髪のカーリンしか知らなかった私は、生え際が後退し始めているとはいえ、まだ黒々とした長髪を後ろで束ねている若々しいカーリンを見て驚いた。その最初のモノローグの中心となったギャグはというと、プロ・スポーツのNFLとMLBを比較するというもので、例えば、アメリカ中どこでも同じ大きさのスタジアムでプレイするNFLに較べ、恣意的な広さの公園 (Park) でプレイするMLB、時間が厳密に設定されているNFL、いつ終わるかわからないMLB、相手の陣地に攻め込むことが目的のNFL、ホームに帰ってくることが目的のMLB等、なるほど、さすが目のつけどころは独特と感心するが、しかしそれが笑えるかというと、これは果たしてジョークかと思ってしまうことも事実だ。


スタジオの観客の笑いも、自発的というよりもカーリンの百面相につられて笑っているという感じがする。そのカーリンの特色が最もよく出たネタが、ジーザス、つまり神様ネタで、例証をいくつも挙げて神様も完全ではないとするジョークは、基本的にクリスチャンが大勢を占めるアメリカにおいては、特に面白いとは感じない者の方が多いだろう。むしろ顔をしかめる者の方が多いと思われる。


結局カーリンがやっていることは、ホストではなくこの回の目玉パフォーマンスのスタンダップだけであるわけだが、実はそのスタンダップをやったのもカーリンだけではない。こちらはジム・キャリー主演の「マン・オン・ザ・ムーン」によってカーリンより知名度があると思われるアンディ・カウフマンも、一人だけの枠をあてがわれてスタンダップをやっている。他にもよく知らない女性コメディアンも出てきたし、さらにアルバート・ブルックスの短編ギャグフィルム (SNLのメンツとはほとんど関係ない) 等もあって、実は通して見た印象は、豪華ではあるがとりとめがないというものだ。


それにしてもカウフマンは、この味は本当に唯一無二という感じで、カーリンよりも、SNLの誰よりも癖がある。ステージ上で一言もしゃべらないスタンダップというものがあるのか。パントマイムとも違うし。正直に言うと、カーリンよりも面白いのか面白くないのかよくわからない。さらにこの、カーリン、カウフマンだけでなく、上述したベルーシ、ギルダ・ラドナー等、鬼籍に入っている者が何人もいるということに改めて気づく。主要メンツは当時20代後半から30代前半として、今では60代の者が大勢だろうが、しかし皆死ぬには若すぎる。


一方、時が経ったことを最も強く感じるのが音楽ゲストのパフォーマンスだ。因みに第1回ではビリー・プレストンとジャニス・イアンがフィーチャーされ、それぞれ2曲ずつ歌う。プレストンは懐かしのアフロっぽい頭で電子オルガンを弾き、「ナッシン・フロム・ナッシン (Nothin’ from Nathin’)」を歌う。それだけで気分はもう70年代なのだが、私の場合、来たのがジャニス・イアンだ。イアンは私が洋楽に目覚めた頃の時期によく聴いたアーティストの一人であり、そのイアンが「アット・セヴンティーン」と「イン・ザ・ウィンター」の2曲を歌う。これが「ラヴ・イズ・ブラインド」だったら完璧だったのに。


私が高校の頃、ある時なんかの授業で隣りに座っていた女の子が、洋楽の歌詞のようなものを熱心に見ていた。私の視線に気づいたその子はそのタイトル、イアン最大のヒット「Love Is Blind」を私に見せて、これ、日本語になんて訳すかわかる? と訊いてきた。私は間髪を入れずに「恋は盲目」と答えたのだが、その子は、部活にしか興味のなさそうな男子高校生が、ブラインドを窓にかけるブラインドとカン違いせずに盲目と正しく訳したことに相当ショックを受けたようで、愕然として私の顔を凝視していたことを思い出す。


その子には男子生徒がイアンを聴いているという事実は到底受け入れがたいものだったに違いない。確かに等身大の女性の心象を切々と歌うイアンは女の子向けではあるが、男の子が聴いても面白いと思うのだよ。ABBAも聴きましたけどね。いずれにしても「アット・セヴンティーン」を聴いて、その時の情景が30年ぶりにいきなりぶわーっと甦った。音楽と匂いは本当に時間の垣根を一気に飛び越える。


しかしイアンは、特にカメラ慣れしているという風情はまったくなく、かなりの時間カメラ目線で歌う。カメラは斜め前方から心持ち見上げるような感じでアップでイアンをとらえるのだが、そのカメラをちょっと横目でかなり長時間凝視しながら歌うのだ。思わず、お前、どシロウトかと言いたくなる。普通カメラを睨みながらなんか歌わんだろ。イアンは結構フォトジェニックな顔をしていると思うのだが、しかしカメラ向きの体質というのはあるだろうなあ。


他に印象に残ったものとしては、今に続く「ウィークエンド・アップデイト」コーナーが第1回で既に登場しているというのがある。いつから基本的に二人でペアを組んでやるのが定着したのかは知らないが、第1回はチェイスが一人で担当している。その中にはまだ存命の昭和天皇裕仁がディズニーランドでミッキーマウスと面会、ミッキーに自分の銘の入った腕時計をプレゼントしたというのがなかなか笑えた。やはり私の高校時代、学習院で級友が浩宮に洋楽のレコード (CDではない) を貸したら、お礼に君が代のレコードをもらったというジョークがあったが、天皇ネタってアメリカにもあったのか。むろん日本だと天皇ネタをTVでやるわけにはいかないだろうが。


いずれにしても、ギャグ・スキットにもかなりポリティカルな題材が多いというSNLの特色の一つは、既に第1回で遺憾なく発揮されているというのは言える。カーリンの起用なんてその際たるものだろうし、時の政治家、端的に言って大統領が肴にされるのも既にここに出ている。たぶん当時も銃携帯問題はあったのだろうと思うが、小型バスに乗りながらあなたの銃を見せてくださいとツアーするスキットも、なかなか毒が効いていてにやりとさせる。玉石混淆でほとんど笑えないコーナーもないではないが、しかし30年以上も前ということを考えると、番組が相当のインパクトがあっただろうというのは想像に難くない。


いくら人気番組とはいえ、SNLがこの30年間、ずっと変わらぬ人気を保ち続けたわけではない。私が15年前にアメリカに来てからでも、今シーズンのSNLは面白くない、スランプだと話題になったシーズンが何度もあった。SNLが現在まで続いている長寿番組になり得たのは、そこで何度もメンバー・チェンジを行いながら新風を吹き込み、また復活してきたところにある。現在では深夜コメディ・スキット・ショウというと、裏番組にFOXの「マッドTV」があるし、コメディ・セントラルの番組群もある。それらの番組を相手に回してなお深夜TV界に君臨し続けるところが伝統の強みかと思ったりもする。







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Saturday Night Live


サタデイ・ナイト・ライヴ   ★★★

 
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