Rules of Engagement

英雄の条件  (2000年4月)

ウィリアム・フリードキン監督、トミー・リー・ジョーンズ、サミュエル・L・ジャクソン主演の軍事法廷ドラマ。TVの予告編を見てたらアクション満載で、てっきり戦争アクションものだと思っていたらまさか法廷劇だったとは。知らなかった。このジャンルは「ア・フュー・グッド・メン」で頂点を極めて以来流石に底を突いたかと思っていたら、昨年の「将軍の娘」といい、完全に廃れたわけではないらしい。この作品もアメリカのマスコミからは「またか」という感じでわりと辛い採点をされているが、特にこのジャンルに入れ込んでいるわけではなく、「将軍の娘」も見ていない私は結構楽しめた。


ヴェトナム戦争時代、チルダース(ジャクソン)は戦場でホッジス大佐(ジョーンズ)の命を助ける。しかし足を負傷して軍人としての道を断たれたホッジスはその後軍専門の弁護士となり、チルダースは軍人としてキャリアの階段を上っていく。チルダースは中東イエメンでの民衆の対米抗議運動が暴動へと発展したため米大使を救出に向かい、火器を使用する民衆に向かって発砲の指令を下す。80人以上の一般人が死亡し、アメリカは全世界の非難の矢面に立たされる。スケープゴートが必要だと判断されたために、民衆が先に発砲したという証拠になるはずの監視ヴィデオテープが隠匿され、チルダースは大量殺人の責任者として絶体絶命の窮地に立たされる。チルダースはホッジスを頼り、弁護を依頼するが、すべてはチルダースにとって不利な状況にあった‥‥


映画はもちろん後半の軍事法廷シーンがメインになるのだが、事件の発端である米領事館での小競り合いのアクションの描き込みがいいので、民衆に向かって発砲せざるを得なかったチルダースの判断に説得力があり、続くチルダースの悩みや彼をとりまくパワー・ゲーム、ホッジスの仕事ぶりや裁判の模様まで飽きさせずに見せてくれる。アメリカのTVでは「ロウ&オーダー(法と秩序)」や「プラクティス」という法廷ドラマが人気があるが(「アリーmyラブ」だってこの一亜種である)、要するに、法廷ドラマというものは新たな証拠の出現次第で状況が二転三転し、いくらでもドラマティックにすることができるというのがこのジャンルが手を変え品を変え登場してくる理由なのだろう。


また、命を分けあった戦友という二人の間柄を描く冒頭のコンバット・シーンも、ただそれだけに留まらず、後半このシーンが重要な伏線になっていたということがわかる物語の作り方もよい。マイケル・マンの「インサイダー」で、主人公アル・パチーノの仕事振りを描く冒頭のエピソードがどう物語に絡んでくるかと思っていたらまったくの捨てエピソードで、完全にはぐらかされ、こんな余分なシーンを付け加えるくらいならあと10分削ってくれと思った経験のある私としては、こういう無駄のないストーリーテリングには好感が持てる。


サミュエル・L・ジャクソンはアクションはともかくこれまでとりたてて巧いと思ったことはないのだが、今回初めて、彼って結構演技派だったんだなと思った。歳とって貫録も出てきたのがうまい方向に作用しているようだ。トミー・リー・ジョーンズも相変わらず。駄作も多いがツボにはまった時のジョーンズは非常によい。何というか、役にはまり込むというより強引に役の方を自分に合わせるという感じ。そういう力技もできるのも本当に実力があるからか。でも比較的最近の作品でも「ボルケーノ」とかつまらん時のジョーンズって本当につまらんよなあ。やはり苦労人で役を選ばずオファーの来た作品はすべて受けたという昔の癖のために、いまだにやりたい役と自分に合う役の区別が本人の中でできてないのか。よくわからん。そういえば一時期アクション映画というアクション映画にジャクソンがジョーンズのどちらかが出ていたという印象があるが、この二人の顔合わせは実はこれが初めてである。意外。


他には「L.A.コンフィデンシャル」のガイ・ピアースが検察官(?というのかな軍内部の裁判でも)、命を助けられたくせに保身のためチルダースに不利な発言をする大使にベン・キングスリー、その妻にアン・アーチャーという布陣。皆さんそつなくこなしています。監督のフリードキンは久し振りにめりはりの利いた作品を作った。「ガーディアン」といい「ジェイド」といい最近低迷してTVしか仕事がなく、もう作品は撮らせてもらえないかもと思っていたら、結構まだまだやれる。「エクソシスト」や「フレンチ・コネクション」のような絶頂期と較べるとまだまだだが、どん底からは這い上がったという感じ。しかし、自分で書いていて言うのも何だが、演出力って波があったり、スランプになったりするものかね。とすると監督という職業はスポーツの一種か。最終的に体力勝負となるのは間違いないし、最近この監督は打率が落ちてきたなんていう言い方するしな。いずれにしてもこの調子で次も頑張ってもらいたい。






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