Royal Pains   ロイヤル・ペインズ (救命医ハンク セレブ診療ファイル)

放送局: USA

プレミア放送日: 6/4/2009 (Thu) 22:00-23:30

製作: ユニヴァーサル・ケーブル・プロダクションズ

製作総指揮: ポール・フランク、リッチ・フランク・ジェフ・クウェイティネッツ、マイケル・ローチ

クリエイター/共同製作総指揮: アンドリュウ・レンチェウスキ、ジョン・ロジャース

監督/製作: ジェイス・アレグザンダー

脚本: アンドリュウ・レンチェウスキ

出演: マーク・フォイアスタイン (ハンク・ロウソン)、パウロ・コスタンツォ (エヴァン・ロウソン)、レシュマ・シェティ (ディヴィヤ・キャットデア)、ジル・フリント (ジル・ケイシー)、


物語: ニューヨークの大病院で将来を嘱望されている医者ハンクは、非番の時に一緒にバスケットボールをプレイしていた黒人が突然倒れ、一緒に病院に付き添ってきた時に病院に多大の寄付をしている高齢の大物もたまたま倒れて搬送されてくる。両方の患者を無事助けたまではよかったが、少なくとも大物の方は後は様子を見る以外手を打つことがないため、ハンクは一時患者の元を離れる。その時に患者の状態は急転して死んでしまい、金のかかる訴訟を恐れた病院はハンクをクビにする。狭い社会では訴訟の片棒を担がされかねないハンクを雇おうとする病院はどこにもなく、婚約者も去っていく。

引きこもっているハンクを見かねたハンクの弟のエヴァンは、ハンクを強引に誘って気分転換にロング・アイランドの超高級住宅地ハンプトンのパーティに誘う。実はエヴァンは招待されてなぞいなかったのだが、そこをうまく言い逃れて豪邸の中でのパーティに紛れ込む。そこでハンクは発作を起こしている女性を助ける。排他的で狭いハンプトンの上流社会ではハンクの行動はすぐに町中に知れることになり、翌朝、ハンクにSOSの電話がかかってくる。そこへ行ってみると、実はハンクを呼び出したのは、親のフェラーリを勝手に持ち出して事故った16歳の少年だった‥‥


_______________________________________________________________


今夏の新番組は医療ドラマが多い。元々生や死という一生の一大事が絡み、物語を作りやすい医療ドラマは、刑事ドラマと並んでドラマの王道なのだが、それにしても今夏は多い。今春、かつて圧倒的人気を誇ったNBCの医療ドラマ「ER」が最終回を迎えたばかりだと思ったら、次の新医療ドラマの幕開けだと誰もが考えたのか、とにかく矢継ぎ早に医療ドラマが編成される。


むろんどの番組もそれなりに新しい視点を導入しようとしており、FOXの「メンタル (Mental)」は精神病棟が舞台、NBCの「ザ・リスナー (The Listener)」は人の心が読める救急隊員が主人公だ。TNTの「ホーソーン (HawthoRNe)」は黒人女性看護士が主人公、ショウタイムの「ナース・ジャッキー (Nurse Jackie)」もヴェテランの女性看護士が主人公の、こちらはドラマというよりもダーク・コメディだ。


そしてUSAの「ロイヤル・ペインズ」の場合、ちょっとした不運からほとんど医者としての将来を断念せざるを得なくなった男が、闇同然の医者として金持ち専門のコンシェルジェ・ドクターとして第2の人生を始める様を描く。とまあ、ほんとに医療関係のドラマ/コメディが多い。


このうち現時点で最も人気の高いのが、「ロイヤル・ペインズ」だ。人の道として正しいことをしていながら何の因果か職を追われる羽目になってしまい、結果として陽の当たらないところで金持ち専門の闇医者として働かざるを得なくなる医者を描く。こう書くと、日本人ならかなりの人間が手塚治虫の「ブラック・ジャック」を連想するのではないか。「ロイヤル・ペインズ」の主人公ハンクは別に顔はつぎはぎだらけではないが、この舞台設定にはかなり共通するものがある。


一方、「ロイヤル・ペインズ」は、「ブラック・ジャック」や、こういう概略を書いただけでは想像しそうな湿り気とはほとんど無縁だ。上で「陽の当たらないところで」と書いたが、実はそれは正しくない。ハンクは勤めていた病院を追い出されたのではあるが、それは訴訟を怖れた病院側のとった行動であり、ハンクのとった処置自体は間違ってなく、従って医師免許を剥奪されたわけではない。つまり彼は無免許ではなく、ただ単に働く場所をなくしただけだ。


こないだ「ドクターズ・ダイアリーズ (Doctor’s Diaries)」を見た時にもふうんと思ったのだが、たとえ有名医学校を出ていても、それが必ずしも安定した医者という職業への道を約束するものではない。結局医者になるのを諦める者も出てくるし、医者になったはいいが短期契約で始終渡り鳥のように様々な医療機関を渡り歩く者もいる。今医者としてやっていけているからといって、それが将来も約束されているわけではない。どこに落とし穴が待っているかわからないのだ。


ハンクの金持ちの新しいお客さんは、何よりも極秘裏にことを運ぶことを好み、そのことに対して金を払うため、ハンクの活動がコミュニティの枠を超えて公になることはないが、治療行為自体は法に触れるものではない。だからハンクは医療行為自体は特に隠し立てすることなく堂々と行う。狭いコミュニティの中だからそのハンクの行動はいちいち筒抜けだったりするのだが、表面上は誰も知らない振りをしている。それがハンプトンだ。実際の話、ハンクがドラッグで急性中毒になった者やシリコン入りのブレストの処置を行った場合、それを特に口さがなく噂するわけにもいかない。明日はわが身かもしれないのだ。


つまり、そういうわけでハンクの治療行為自体はカルテや公式の書類として残すわけにはいかず、したがって表面上は金銭の授受の形跡はない場合が多い。なんらかの感謝の形をもらえるかもしれないが、それが収入として計上されて税金を収める対象になることはそんなにはないだろう。因みに番組第1回でハンクが人助けをして受け取るそもそもの最初の感謝の印は、アタッシュ・ケース入りの金の延べ棒だ。誰もこれを税金に申告しようとは考えないだろう。


翌朝、親の留守をいいことに黙ってフェラーリを運転して事故ったティーンエイジャーは、世界に数十枚だか数百枚だかしか発行されてないという、上限のないアメックスのブラック・カードにチャージしてくれという。ハンクがフェラーリはどうするんだ、あれは一週間じゃ元には戻らないぞというと、修理なら一週間じゃ無理だけど新車を買ってすり替えておけばわからないという。なるほど、そういう発想があったか。住んでいる世界がまったく我々と違う。


私もハンプトン巡りと称してこの辺に日帰りドライヴしたことがあるが、実際、映画でしか見たことのないような豪邸が連なっているのにびっくりした。世の中には本当に金持ちがいるのだ。高さ3mの鉄扉の向こうは、玉砂利が敷かれたドライヴ・ウェイがはるか向こうの豪邸の入り口まで続いている。番組の最初にハンクたちが参加するパーティを開いている豪邸は、別にあの辺では特に豪邸というわけでもないのだ。映画でいうと、「サブリナ (Sabrina)」というよりも、スタンリー・キューブリックの「アイズ・ワイド・シャット (Eyes Wide Shut)」の世界が最も近いと言えるか。ついでだからとハンプトンのビーチで海水浴でもして帰ろうと思ったら、公共ビーチと思われたビーチの入り口の立て看には、「プライヴェイト・ビーチ。外部者の入場を禁じる」という但し書きが。そうでしたか。徹底して貧乏人にはおよびのない場所なのであった。


基本的にハンクはそういう場所で口コミによって医療活動を行っているわけだが、しかし、商売は商売であり、それで食っていこうと思ったら、宣伝販促活動を行う必要もある。むろん根っから医者のハンクがそういう営業活動をするのではなく、その部分を担当するのは遊び人のハンクの弟エヴァンと、ハンクの腕を見込んで押しかけ助手としてハンクをサポートするディヴィヤだ。


さらにハンクがハンプトンで最初に助けた妙齢の美女が翌日ハンクの投宿しているホテルに現れ、ちゃんとした地域の総合病院のアドミニストレイターとして働くジルは、金持ち連中の我が儘に付き合っている暇なぞなく、そのためハンクにむしろコンシェルジェ・ドクターとして働くことを勧めるなど、心を動かされる美女の数も事欠かない。なんてったってここはハンプトンなのだ。ハンプトンで働くことも悪くないかもしれないと、ハンクが心を決めるまでを描くのが番組第1回だ。


主人公ハンクを演じるのが、「イン・ハー・シューズ (In Her Shoes)」のマーク・フォイアスタイン。実際にニューヨークの医者にはxxxスタインなんて名のつくユダヤ系が多いのだが、当然ユダヤ系だろうフォイアスタインもちゃんと医者面に見える。その弟エヴァンを演じているのが、「フレンズ」のスピンオフ・コメディ「ジョーイ (Joey)」で、マット・ルブランク演じる主人公ジョーイのいとこマイケルに扮していたパウロ・コスタンツォ。


USAの放送する番組は「ロイヤル・ペインズ」もそうだが、現在一番人気の「モンク (Monk)」を筆頭に、「バーン・ノーティス (Burn Notice)」、「サイク (Psych)」、「イン・プレイン・サイト (In Plain Sight)」等、軽めの乗りでツボをついてくるのがポイントだ。今回と「イン・プレイン・サイト」を除き、ドラマではなくコメディといっても通用する。「ロイヤル・ペインズ」もドラマではあるが、そのテンポや乗りは軽く、人が死んだりしても特に重くなることなく、軽妙な話の展開で楽しませる。気のおけない娯楽作品としてはほとんど文句のつけようがないなと思ってしまうのだ。








< previous                                    HOME

 

Royal Pains


救命医ハンク セレブ診療ファイル (ロイヤル・ペインズ)   ★★1/2

 
inserted by FC2 system