Rise of the Planet of the Apes


猿の惑星: 創世記 (ジェネシス)  (2011年8月)

DNAを研究するジェネシスの研究員ウィル (ジェイムズ・フランコ) は、薬を投与したナンバー・ナインと呼ばれるメスのサルが非常に高度に脳が発達したことに気づく。ある時ナンバー・ナインが凶暴化したために、彼女と、研究対象のサルを全部処分しなければならなくなるが、実はナンバー・ナインは身ごもっており、子供を助けるために暴れたのだ。ウィルはボスのジェイコブス (デイヴィッド・オイエロヲ) に内緒で子供を家に連れて帰る。ウィルにはアルツハイマーの父チャールズ (ジョン・リスゴー) がおり、ナンバー・ナインに投与した薬は父の症状の改善にも有効だったが、しかし、時が経つと逆に反動で症状が悪化してしまう。一方シーザーと名づけられた子ザルはすくすくと成長する。しかしシーザーは、動物として常に家の中に閉じ込められているには、危険すぎるくらい頭がよかった‥‥


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1968年製作の「猿の惑星 (Planet of the Apes)」は、SF映画の金字塔だ。人間じゃなくサルが世界を支配している世界。そこへ降り立った宇宙飛行士。サルは知能の劣る人間を支配下に置いて統治しており、宇宙飛行士も奴隷として扱われる。しかしそれを潔しとしない宇宙飛行士はその世界を脱出し、宛てのない旅に出る。しかしそこで彼が見たものは、波打ち際で崩折れ、無残な姿をさらしている自由の女神の姿だった。彼は地球に帰ってきていたのだ。しかし人類は滅び、代わって地球はサルによって統治されていたのだ。


とまあオリジナル・クラシックのラストをばらしてしまったと怒らないで欲しい。なんせここまで有名な話だと知らない者の方が珍しいだろうし、今回の「ジェネシス」はオリジナルの「猿の惑星」を皆知っているものと仮定し、そこに至るまでの前日譚として機能している。つまり、現在の人類がなぜ、どのように滅び、どうやってその後サルが世界を支配するようになるのかを描いている。もちろん「ジェネシス」単体だけを見ても楽しめるが、その後に連なる話の発端であり、その後どうなるかを知っていて見るのとではまた趣が違う。


ついでに言っておくと、今回改めて「猿の惑星」を調べていて気づいたのだが、この作品、DVDジャケットに自由の女神と、その前でうな垂れる、宇宙飛行士を演じるチャールトン・ヘストンの姿が描かれている。カンのいい者なら、そこですぐに舞台は実は未来の地球であり、たぶん人類は滅びてサルが支配するようになったのだなと気づくはずだ。というか、気づかないわけがないだろう。どうやら「猿の惑星」はシェイクスピアやギリシア悲劇同様、結末を既に知っていてその上で楽しむという、本当の古典の域に達してしまっているらしい。


ところで「猿の惑星」は、10年前にもティム・バートンが映画化している。実はもう既にあまり覚えてなくて、自分が書いたのを読み返したところ、この幕切れが喧々囂々の話題を醸していて‥‥と自分で書いているのに、その幕切れをまったく覚えてなくて、愕然とした。これ、どうやって終わったんだっけ?


元々記憶力のいい方ではなく、自分でもかなり激しい、ところどころ意図的な記憶の偏りがあるのを知っているため、できるだけ見たものを覚えているための意味もあってこのサイトを立ち上げたのだが、これは第三者の目にも触れるわけだからと、その肝心なところを書いてない。これでは何のための覚え書きであるやら。


一応弁護のために一言書いておくと、一緒に見た女房も、ねえねえ、バートンの「猿の惑星」の幕切れって覚えている? と訊くと、あー‥‥と言ったまま返事に窮していたから、私の記憶力の問題だけというよりも、作品そのものに欠陥があったというのは間違いないところのようだ。まあ、バートンは、話というよりもサルを撮りたかっただけのようだから、それも致し方あるまい。


一方で大昔に見たオリジナルの「猿の惑星」のエンディングは、今でもしっかり覚えている。だからこそのクラシックなんだろう。ただしそのラスト、チャールトン・ヘストンが自由の女神を前にして、なんてこった、オレは地球に帰っていたんだ、人類の大バカものめ、とかいうセリフを、日本語で、つまり吹き替えの納谷悟朗が言ったセリフとして覚えているのだ。どうやら40年くらい前に見たフジのゴールデン洋画劇場の吹き替え版の衝撃がいまだに抜けないらしい。バートンのたかだか10年前の作品の幕切れは既にもう忘却の彼方なのに。


今回の「ジェネシス」の舞台は現在で、オリジナルに続くミッシング・リンクを繋ぐ。とにかくよく考えられているというか、よく繋いでいると思う。サルが近い未来に人間より上位になる伏線、知恵を持つようになる理由だけでなく、人類がなぜほとんど絶滅するかまで考えられている。あり得るかどうかではなく、そこまで考えた目配せに感心する。製作者はかなり長い間、アイディアや伏線を練ったり膨らませていたに違いない。


オリジナルでは、しゃべれないと思われていたヘストンがサルに向かって、その汚い手を離せサルども、と叫んでサルたちを驚愕させるシーンがあるが、そのシーンを逆手にとって観客をあっと言わせるシーンもある。要するに、やはりオリジナルは見ておいた方がいい。そこからの言及や目配せが多々あるからだ。


主人公のウィルを演じるのはジェイムズ・フランコで、父チャールズをジョン・リスゴーが演じている。チャールズはアルツハイマーで、ウィルはその父をなんとかしてあげたいために、サルを使ってDNA研究している。このアルツハイマーを演じるリスゴーが上手で、私も近年、親の世代でアルツハイマーに苦しめられている人間を見る機会が増えたが、リスゴーは実際にそういう人たちを見て研究したんだろうなという特徴をよくとらえている。


ウィルの恋人の獣医のキャロラインを演じているのがフリダ・ピント。最初スクリーンに現れた彼女を見た時は、彼女、誰だったっけ、知っているが、USAの「フェアリー・リーガル (Fairly Legal)」のサラ・シャヒでもないし、CBSの「ザ・グッド・ワイフ (The Good Wife)」のアーチー・パンジャビでもないし、USAの「救命医ハンク (Royal Pains)」のレシュマ・シェティでもないし、とアジア中東系の女優を考えていたら、上映後のクレジットでフリダ・ピントと出た。もちろん「スラムドッグ・ミリオネア (Slumdog Millionaire)」のピントだ。TVじゃなくて映画の方だったか。他にもこないだ「アイアンクラッド (Ironclad)」で見たばかりのブライアン・コックスや、「ハリー・ポッター (Harry Potter)」シリーズのトム・フェルトン等が出演している。演出はルパート・ワイアット。


バートン版まではサルの造型は基本的に特殊メイクだったわけだが、今回は多くをCGに拠っている。「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン (Transformers: Dark of the Moon)」を見た時も、近年のCGの技術は本当にすごいと思ったが、「ジェネシス」もこれまたすごい。サルのシーザーに扮するアンディ・サーキスを筆頭に、エイプたちも主要な面々がクレジットされているので、着ぐるみとCGを融合するという形で、「トランスフォーマー」ほどCGだけに頼っているわけではないだろうが、それでもCGでここまで撮れるようになったか。









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