Resident Evil

バイオハザード  (2002年3月)

実は先週の週末まで、私はこの映画のことをまるで知らなかった。若者向けSF作品ということもあり、TVでの予告CMは多分、MTVとかの若者が見るチャンネルを中心に流していたんだろう、これまで一度もこの作品の予告を見る機会がなかった。それで、さて、週末はいったいどんな作品が公開されるんだろうと開いた金曜の新聞の広告で、初めてこの映画のことを知った。


ざっと内容をチェックしてみると、大ヒットしたヴィデオ・ゲームの映像化であり、このゲームの大ファンでもあったミラ・ジョヴォヴィッチが自ら出演を名乗り出たらしい。最近、というか、もう長い間ヴィデオ・ゲームからはとんとご無沙汰しているから、そういうヴィデオ・ゲームがあることも知らなかった。だから別にこのゲームのファンだからこの映画を見にいこうと思ったわけではなく、わざわざ劇場に足を運んだのは、「ジャンヌ・ダルク」以来のジョヴォヴィッチをまた見たかったがために他ならない。


実は、かれこれ1年以上も前に、私はヴィム・ヴェンダースの「ミリオンダラー・ホテル」が見たくて、うちの近所の劇場に来るのを心待ちにしていたのだが、この作品、なぜだかニューヨークではまったくヒットしなかった。西海岸とかではどうだったかは知らないが、ニューヨークで公開された時、マンハッタンのミニシアター系でひっそりと公開されたのみで、その後、ほとんど誰も知らないまま、うちの近所の劇場まで来ることもなく、そのまま消えた。それだけじゃない。その直後に公開されたマイケル・ウィンターボトムの「ザ・クレイム (The Claim)」も、見ようと思ってたのにあっという間にこれまたすぐに劇場から姿を消した。コスチューム劇で、古典的なドレスをまとったジョヴォヴィッチはとてもよさそうに見えたのに。


ま、実は「クレイム」が見たかったのは、こちらはジョヴォヴィッチを見たかったからというよりも、「アメリカン・ビューティ」のウェス・ベントリーを見たかったからなのだが、いずれにしても見逃してしまった。「ミリオンダラー・ホテル」も「クレイム」も、予告編を見ただけだとすごく面白そうに見えたのに、そう思っていたのは私だけで、実はほとんどの人間にはアピールしていなかったらしい。これでジョヴォヴィッチは興行的には失敗している作品に続け様に出ていることになる。いずれにしても、ジョヴォヴィッチ作品を続けて見逃していた私は、今回、「バイオハザード」にジョヴォヴィッチの名前を発見して、その時点ではまだ広告のポスターだけで内容のことはまったく知らなかったのにもかかわらず、もう見る決心をしていたのであった。


近未来、人々の生活のすべてに関与する巨大企業のアンブレラ・コーポレイションが地下深くに建設したハイヴと呼ばれる研究施設で、秘密裏に研究されていたウィルスが何者かの手によって施設内にばらまかれる。ハイヴを統括するスーパーコンピュータのレッド・クイーンは直ちにハイヴを閉鎖し、外部との連絡を絶つ。一方、ハイヴへの出入り口となる屋敷で目覚めたアリス (ジョヴォヴィッチ) は一時的に記憶を失っており、自分が何者か思い出せない。そこへやって来た武装団体はアリスを知っており、共にハイヴへの侵入を図る。しかしその頃、ハイヴの中でウィルスに侵された人々は、人肉を求めるゾンビと化していた‥‥


ジョヴォヴィッチは、色々な評から総合して判断するに、女優としてはあまり大した評価は得ていない。その理由が、ちとオーヴァーに過ぎるあの大仰なリアクションにあるのはほぼ間違いないだろう。つまり、やり過ぎるのだ。そういった特質が前面に出すぎた「ジャンヌ・ダルク」が批評家からほぼ抹殺されてしまったのは、大いに理解できる。しかし、私見ではそういう、やり過ぎ演技で声を張り上げる時のジョヴォヴィッチのかすれた声は、現在の女優で最もセクシーな声である。あの声を聞くためなら、少々大袈裟な演技なんか私は別に気にならない。逆にもっとやってくれとすら思う。真正面を睨む、少年のようなあの負けん気の強そうな顔も、実に魅力的だ。彼女が出演する作品のほとんどでそういうシーンが頻出するのは、演出を担当する監督が、彼女のセクシーな声や視線に反応して、知らず知らずのうちにそういうものを彼女に要求しているのではないかとすら思えてくる。「ジャンヌ・ダルク」や「フィフス・エレメント」で、リュック・ベッソンがついついそういうジョヴォヴィッチを前面に押し出しすぎたのは、だから、むしろ当然のことであったという気がする。


しかし、声を張り上げないジョヴォヴィッチの顔は、さすが一流モデルで、それはそれでまた鑑賞に堪える。美形だなあ。一方でその超美人のジョヴォヴィッチをカメラが全身を収めると、実は、ジョヴォヴィッチは西洋系モデルとしてはそれほどスタイルがいいわけではないということにも気づく。自分のことは棚に上げて言ってしまうと、彼女はスタイルが悪いとはいわないが、モデルにしては腰から下にやや肉がつきすぎる上に、ちょっと (モデルとしては) 足が短いんではないか。まあ、だからこそこういうアクションものに出演してもあまり違和感がないとは言える。華奢すぎるとアクションなんてできないだろう。いずれにしても、結論を言ってしまえば、ジョヴォヴィッチは見ていて飽きない。つまり、スターの素質充分なのだ。彼女は何か一つきっかけがあれば、大きくブレイクすると思う。


映画自体に目を向けると、事前にほとんど内容を知らなかったために、非常に楽しめた。ヴィデオゲームの映像化だから「トゥームレイダー」のようなアクションものだろうとばかり思っていたら、ホラーの要素が強いホラーSFアクションで、それらがうまくブレンドされている。「ゾンビ」と「エイリアン」を足して割った内容で、ヴィジュアル的にもセンスがあり、実に楽しめる。実際、私は「トゥームレイダー」よりこちらの方が面白く感じた。主人公も、アクション・ヒーローとしてあまりにも非の打ち所がなさ過ぎる「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリーより、私は「バイオハザード」のジョヴォヴィッチの方を推す。ま、これは好き好きでしょうが。


ジョヴォヴィッチ以外の出演者で最も印象に残るのは、女性レスキュー隊の一人レインに扮したミシェル・ロドリゲス。女性ボクシングの世界を描いた「ガールファイト」で注目され、昨年のサプライズ・ヒット、「ワイルド・スピード」にも出演するなど、注目株である。なかなかいい感じのタフさ加減を出している。もうちょっと身長があったら、もっと色んなところに起用されそうだ。そうそう、レスキュー隊の隊長に扮する黒人男優は、出てきた時からジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」に出てくる黒人SWAT隊員にそっくりだと思っていたら、話がまったくその「ゾンビ」になってしまったのでびっくりした。中ほどに出てくるエレヴェイターのシーンはあからさまに「ゾンビ」のパクりであり、ということは最初から「ゾンビ」を意識してか、あるいは「ゾンビ」に対するオマージュとしてキャスティングされたんだな。彼がやられるシーンは、この映画の白眉の一つ。その他、全般的に男性陣はあまり記憶に残らなかった。主人公が女性だからというわけではないだろうが、最近は女性のスーパーヒーローの方がずっと印象に残る。時代というものか。


ポール・アンダーソンの演出はコンパクトにまとまっている。一躍アンダーソンの名前をメイジャーに押し上げた「モータル・コンバット」も人気ヴィデオ・ゲームを映像化したものであり、「イベント・ホライゾン」もホラーSFとしてわりと話題になっていた。続く「ソルジャー」も近未来SFものと、どうやらその系統の人のようだ。わりとセンスあるカメラの使い方とかをしており、ヴィジュアル的にはなかなかのもんだと思うが、前出の「ゾンビ」のパクりなんかは、本当はやっちゃいかんよと思った。「ゾンビ」のエレヴェイターのシーンは、ホラーのみならず、映画の歴史に残る名シーンであり、ガキの頃あのシーンを見た私は、それこそ背筋にぞぞぞと寒けが走るほど怖い気分を味わったもんだ。やはりああいうシーンはオリジナルへの敬意と、後から見る者の楽しみを残しておくために、変に二番煎じなんかやっちゃいかんというのがそれ相応の礼儀というもんでしょう。







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