Requiem for a Dream

レクイエム・フォー・ア・ドリーム  (2000年12月)

本当はジョフリー・ラッシュ、ケイト・ウィンスレット主演のマルキ・ド・サドを描いたドラマ「クイルス (Quills)」を見に行こうと思っていたんだが、家の近くでやってない。それでロング・ランを続けているインディ映画の「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」を見に行った。「π」で一躍名が知られるようになったダレン・アロノフスキーの最新作で、こないだ「エクソシスト/ディレクターズ・カット」で見たばかりのエレン・バースティンが出演していて、結構誉められている。25年間で彼女がどう変わったかというのも興味あったし、私の同僚が先にこの映画を見ていて、面白かったと言っていたのも見る気になった理由の一つである。舞台もニューヨーク、ブルックリンのブライトン・ビーチという勝手知ったる場所でもあり、軽い気持ちで見に行った。何かドラッグ中毒にまつわる話というのは知っていたが、それ以上はよく知らなかったのだ。


そしたらそれがスーパーヘヴィな現代の悲劇、というか現代のホラーだった。主要登場人物は4人。ハリー(ジャレッド・レト)とサラ(エレン・バースティン)の親子に、ハリーの恋人マリオン(ジェニファー・コネリー)と、友人のタイロン(マーロン・ウェイアンズ)である。サラは夫亡き後、一人でハリーを育てたが、そのハリーが成長してほとんど家に寄り付かない今、楽しみといえばTVくらいしかない。実はハリーは手癖が悪く、窃盗やドラッグの売買で生計を立てていたのだが、サラはそれを見て見ぬ振りをしていた。サラはある日1本の電話を受ける。それはTV番組に出られるという勧誘で、サラは最初不審に思いながらも、段々それが生き甲斐のようになり、TV映りがよくなるように痩せようと努力するが、簡単にはいかない。やがて痩せるための薬に手を出すようになるが、それには強力な副作用があった。一方、順調に行ってたかのように見えたハリーのドラッグ・ビジネスも行き詰まるようになり、ハリーとタイロンは益々危ない橋を渡るようになり、ハリーとマリオンの仲もぎすぎすし始める‥‥


「ブルックリン最終出口」のヒューバート・セルビーJr.の原作を映像化したものであることからして、甘口でないことだけは確かだとは思っていたが、ここまで救いのない映画だとは思わなかった。とにかく登場人物の4人全員の人生が狂い、とことん落ちて行く様を描く。しかしここまでやられると、むしろ中途半端にやられるよりいっそ潔いという気もしないではない。少なくとも見た後に欲求不満になった「アメリカン・サイコ」よりはこちらの方が上だろう。下には下が、不幸を極めた者たちがいるということで、観客が自分が幸せだと思えるような効果もあるかも。それともやはり見たらどん底の気分を味わうか。見る人次第だろうなあ。


アロノフスキーは映画の中で、一緒に寝そべっているハリーとマリオンを、わざわざスプリット・スクリーンを使用して身体の一部を別々に映すという試みをしている。効果のほどは私には今一つに見えた。やたらとコマ落としやカメラ・スピードを変えたシークエンスもあるが、使い過ぎのような気もしないではない。しかし、ドラッグを使用する時に何度も反復して使用される一連のモンタージュは、リズミカルで悪くない。減量中で腹が減ってどうしようもないサラが冷蔵庫が震えだす幻覚を見るようになっていくという件りは、ごく当たり前のアイディアではあるが、後半は私も画面に冷蔵庫が映る度にどきどきするようになったから、成功していると言えるだろう。


私の同僚はこの映画のバースティンを「勇気ある」と評していたが、見て納得である。70歳になろうとするバースティンがこういう役に自分から取り組んでいるのを、勇気あると言わなくてなんと言えよう。後半のバースティンは、「エクソシスト」のレーガン並みの容貌になっていくのである。しかもレーガンは悪魔憑きであったが、薬の影響を受けているとはいえ、バースティンは一応普通のおばさんなのだ。多くの出演作があるとはいえ、人々が彼女を覚えているのは多分「エクソシスト」のみで、しかも最近はTVだけに活躍の場を限られていたバースティンが、こんなところで一枚も二枚も皮が剥けた演技をするとは。まったくまいった。本当に勇気ある。


ハリーに扮するレトは、私が評価していたTVシリーズ「アンジェラ15歳の日々」出身で、その後「シン・レッド・ライン」や「ファイト・クラブ」等、色んなところに端役出演している。デニー・グローヴァー、デニス・クエイドと共演した「スイッチバック」も悪くなかったが、本当に名が売れ出したのは「ルール (The Urban Legend)」から辺りか。そうそう、「アメリカン・サイコ」にも出ていた。悪くはないんだが、彼くらいの年の俳優って、トビー・マグワイヤとかウェス・ベントリーのような、もっとうまい、雰囲気のある俳優がいるから、今一つ上に上がれないようだ。しかし彼は着実にキャリアを築いていくと見た。「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」は、レトの名を本当に世に印象づけた作品として、最初の重要な作品となるのは間違いないだろう。


コネリーは、私はいまだに彼女を「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」でのあの幼かったバレエ・ダンサーとして覚えている。あの時は本当に数年後が待ち遠しい正統派の大型美人女優の出現だと思ったものだが‥‥もちろん今も素晴らしい美女なのだが、どっかで方向が間違ってしまったようなのは、ダリオ・アルジェントのホラー「フェノミナ」に出てしまったからではないのかと私は思っている。「レクイエム」も現代のホラーと言えないこともないし、いつの間にやら正統派ホラー女優になってしまったようだ。この映画では彼女のヘア・ヌードやおそるべしファック・シーンがある。なんとなくこのまま道を間違えててもらいたいような気もしないではない。


タイロンに扮するウェイアンズは、コメディで知られるウェイアンズ兄弟の一人である。TVシリーズの「リヴィング・カラー (Living Color)」等で人気が出て、一時ネットワークのUPNで「ウェイアンズ・ブラザース (The Wayans Brothers)」という、まんまのタイトルの自分たちのシットコムを持っていた。「最終絶叫計画 (Scary Movie)」のヒットにより、今では押しも押されぬ世界的なコメディ・スターである。今年のMTVの「ヴィデオ・ミュージック・アウォーズ」でも司会を担当していた。「レクイエム」ではシリアスな役柄だが、それなりにはまっている。芸幅広いんだな。ところで彼は「レクイエム」でブレイク・ダンスを披露するシーンがあるんだが、それがほれぼれするほどうまいもんだった。TVの「サタデイ・ナイト・ライヴ」とかを見るといつも思うんだが、アメリカのコメディアンって、結構玄人はだしの芸の一つや二つ身につけている。大したもんだ。


ところで、この徹底的にインディインディしたアロノフスキーが、多分シリーズ化は終わっただろうと思っていた「バットマン」シリーズの最新作を監督することになったという情報が伝わってきた。青天の霹靂とはこのことである。ハリウッド大作とインディ映画の監督というイメージとしてはまったく結びつかない取り合わせなのであるが、よく考えると、これは最初の「バットマン」で当時のインディ映画の先鋒ティム・バートンを起用して、その大胆なイメージで「バットマン」を現代に蘇らせることに成功したことを踏まえてのことだろう。アロノフスキーにしたって視覚から先に作品を組み立てていくタイプの映画作家に見えるから、スタジオが人選をやり直してもう一度柳の下の泥鰌を狙っているというのが真相のようだ。とすると今度は主人公は誰になるんだろ。公開は早くても再来年になるだろうが、「バットマン」シリーズ、もう一花咲かせることができるのだろうか。


さて、来週末から期待の「グリーン・デスティニー (Crouching Tiger, Hidden Dragon)」が始まるのだが、最初は限定公開で、私の住むクイーンズに来るのは年末になるみたいだ。がっかり。年末公開予定のバズ・ラーマンの「ムーラン・ルージュ (Moulin Rouge)」もポスト・プロダクションが押せ押せで、来夏まで公開延期になってしまった。しょうがないなあ。ま、それでも次週は日米同時公開の「バーティカル・リミット (Vertical Limit)」がある。予告編を見ただけで手に汗握った。いずれにしても見る作品に不自由はしないみたいで、なにはともあれよかった。






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