3年前にも来NYして喝采を受けた中村勘三郎 (当時は勘九郎) 率いる平成中村座、元々歌舞伎は得意分野ということもなく前回は見逃したので、今回は是非、と思っていた。そしたら今回の公演は初日だけ「連獅子」で、本公演は「法界坊」なんだそうだ。大技の「連獅子」は日本でもあまり見れる機会はないということらしいので、では今回は「連獅子」を見てみるかということにする。

それにしても歌舞伎なんて生まれてこのかた数回しか見たことのない私にとって、最初、「Renjishi」はともかく、「Hokaibo」なんて、ホカイボ? なに、それ、と、なんのことやらさっぱりわからなかった。「他異母」、まさか「他イボ」じゃないよな、とあれこれ考えて、「北海棒」あたりがくさいとあたりをつけていたんだが、「法界坊」でしたか。

前回公演は特設テントを建てての公演だったが、目新しさはともかく、椅子の座り心地が悪い (3時間を超える公演なのだ) とか、外の空調設備の音が聞こえてきてうるさいとかの悪評があったからだろう、今回はエイヴリー・フィッシャー・ホールを急拵えで歌舞伎座に見立てての公演だ。しかし漏れ聞いたところによると、こちらのユニオンは決められた時間以外はまったく働かず、時間に追われてなかなか設営は大変だったらしい。同情します。

しかし公演当日会場に着いてみると、周りには何百本という感じでのぼりが立ち、劇場内にも急拵えながらちゃんと花道も用意されており、座敷席がないことを除けばそれなりに雰囲気は出している。この日の「連獅子」はめったに見れない演目ということでチケットは売り切れで、劇場に入ろうとするとニューヨーカーからチケット余ってないかと声をかけられた。それなりに盛り上がってはいるようだ。

しかし口さがない客はどこにでもおり、私らの後ろに座っていた日本人のおばさま組は、まあ花道が狭いわねえ、とか、ねえねえ、あそこに見えるの、松竹の誰それさんじゃない、歳とったわねえ、とかまびすしい。そんなの、本人たちにしてみれば大きなお世話だと思うぞ、なんでババアってどこでもこう自分のことだけは棚に上げることができるのか、むしろ感心する。

さて、舞台の方は、最後の3人揃っての見せ場のたてがみ振り回しはさすがにいかにも歌舞伎という感じのこれでもかというけれんたっぷりで、場内からも割れんばかりの喝采が起きた。以前歌舞伎座で見た玉三郎主演の、あれは題目はなんだったか、上方から降り出した雪が降り止まずにこれでもかと言わんばかりに降りしきった時もすげえなと思ったが、要するにこういう、こちらの予想を上回る演出こそが歌舞伎のけれんなんだろう。すげえなと思い、ふうんと一段落した後で、さらにそれを超えて見せ場が続いていくので、すげえ、がめちゃすげえになる。実は「連獅子」も話の筋自体はほとんどよくわからなかったのだが、それでも、いや、歌舞伎って面白いと感じさせるところはさすが。

ではあったのだが、しかし、体力的にもキツい演目でもあるのだろう、この日は正味1時間の「連獅子」一幕だけで演目は終わりなのであった。いくらなんでもこれだけで終わりじゃないだろうと思っていたのだが、なんだか客が帰り始めるし、係りの者が近くにやってきて「The show is over」と客を追い出しにかかる。本当に終わりなの、これで70ドル? と、そりゃあ舞台自体は楽しんだが、ボラれたという感はいかんともし難い。前の方の席はなんでも200ドルだったということで、個人でそんだけ出して1時間で終わりだったら、やはり同様の感触を得るのではないか。これは「法界坊」を見るべきであったか。次回中村座がNYに来る時は、本公演の方を見ることにしよう。




 

Heisei Nakamura-za: Renjishi -- The Trials of Life    

平成中村座 連獅子

2007年7月16日   リンカーン・センター、エイヴリー・フィッシャー・ホール

 
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