Red Riding Hood


赤ずきん  (2011年3月)

中世期。ヴァレリー (アマンダ・セイフリード) とピーター (シャイロー・フェルナンデス) は幼馴染みで、共にこれからもずっと一緒にいることを誓うが、ヴァレリーの両親はヴァレリーをより裕福な鍛冶屋のヘンリー (マックス・アイアンズ) と一緒にさせたいと思っていた。二人の住む村には狼の魔物が出没し、時に人を襲った。ついにはヴァレリーの姉がその魔の手にかかる。村の者たちは決起し、狼を倒すために山狩りを行うが、仕留めたと思ったのはただの狼だった。村の者たちは名うての狼男ハンターのソロモン (ゲイリー・オールドマン) を雇う。一方ヴァレリーは、山の中に一人で住んでいおばあさん (ジュリー・クリスティ) が狼男に襲われないかと心配するが‥‥


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本当は週末から公開の「世界侵略: ロサンゼルス決戦 (Battle: Los Angeles)」を見に行こうと思っていたのだ。そしたらその前日に東日本大震災が起きた。多くの人が壊滅的打撃を受けたという時、西海岸にエイリアンが降りたって侵略するという話は、いきなり魅力的なものではなくなっていた。


ちょうど日本で公開中のクリント・イーストウッドの「ヒアアフター (Hereafter)」も、上映が自粛されたと聞いた。なんてったってこの作品、冒頭が津波のシーンで人が呑み込まれるのだ。映画はたとえそれが事実を基に製作されていようと畢竟フィクションであり、ほとんどの者はエンタテインメントとして作品を楽しむに違いない。それをなんでもかんでも自粛自粛というのは息が詰まると思うが、さすがに「ヒアアフター」の津波のシーンは刺激が大きすぎて、まだ人がエンタテインメントとして作品を楽しむ余裕はそれほどないのは確かだろう。


一方、TVでニューズの悲劇的な映像ばかり見ていると、今度はこちらが参ってしまう。9/11の時もそうだったが、人はこういう時だからこそ息抜きが必要だ。それで「世界侵略」を後回しにしてなにかないかと見渡して、「ジェーン・エア (Jane Eyre)」と「レッド・ライディング・フード」の、いかにも逃避エンタテインメントに相応しそうな2作品に絞る。「ジェーン・エア」はこれまでにもTVや映画で何度も見ているのでパスして、今回は「レッド・ライディング・フード」だ。


「レッド・ライディング・フード」、すなわち「赤ずきん」だ。英語では「リトル・レッド・ライディング・フード」と呼ばれることの方が多い。今回は「リトル」が抜け、つまり大人の赤ずきんちゃんだ。なんて知ったかぶりで言っているが、実は本当のことを言うと、赤ずきんちゃんをレッド・ライディング・フードというなんて、まったく知らなかった。ライディングという単語が挟まっているのがミソで、たぶん大元は乗馬服に近いスタイルだったので、こう呼ばれたのだろう。


いずれにしてもおかげで、レッド・フードなら、あ、赤ずきんだなとなんとなく連想できたかもしれないが、レッド・ライディング・フードだと、最初から知らなければすぐには赤ずきんには結びつかない。つまり、私はこれが赤ずきんだとはまったく知らないまま、TVのコマーシャルから察するに、綺麗なイメージのホラー・ファンタジーかというくらいの知識しかないまま、劇場に足を運んだのだった。


この作品が赤ずきんだと気づいたのは、映画も始まってかなりたってからだ。作品にオオカミが現れて人を襲う、だけではまだ気づかず、その後、山の中に一人で住むおばあさんが現れて、それを主人公のヴァレリーが心配し、赤いフードつきのコートを羽織って雪景色の山の中を一人で歩くというシーンになって初めて、これ、赤ずきんだ、と、はたと膝を打った。そうだったのか。


しかもこの作品、これまた劇場から帰ってきて関係者をチェックしていて知ったのだが、演出はキャサリン・ハードウィックだ。今では「サーティーン (Thirteen)」監督というよりも、「トワイライト (Twilight)」の監督と言った方が圧倒的に通りのいいハードウィックだ。うーん、前もって知っていたら、いかに震災の影響があったとしても、見なかった可能性の方が高そうだ。一方、こういう風に、普通ならまず見ない作品を見て新しい世界を発見するのも、映画見の醍醐味の一つでもある。


実は「赤ずきん」、あまり誉められていない。私のようにたまたま見ているというのでもない限り、ほとんどの者は批評家も観客も含めて、「トワイライト」を引きずっている。どうしても「トワイライト」と比較してしまうのだ。そしたら実は、「赤ずきん」は「トワイライト」的、かっこいいにーちゃんかわいいねーちゃんが主人公のファンタジーというよりも、実はかなり本格ミステリが入っている。謎解きものの要素が強いのだ。かっこいいにーちゃんどもも、主人公格とはいえ、大々的に活躍するわけではない。それが「トワイライト」ファンにはほとんどアピールしなかったようだ。


しかしもちろん、それこそが私が気に入った点であるのは言うまでもない。「赤ずきん」ではあるが、オオカミは山の中に住むオオカミではない。実はオオカミ男であるそいつは、普段は人間のふりをして、何食わぬ顔して住民の一人として生活をしているかもしれないのだ。いつ牙をむいて襲いかかってくるかしれない。村人は疑心暗鬼になる。それは誰か。あいつか、それともこいつか。


そして感心したのが、一応納得できるミスリーディングと伏線を張って犯人 (オオカミ) 当てに持っていっている点で、完璧にフェアというわけではないにせよ、ちゃんと、ああ、そうかと思わせる。犯人当てだけでなく、そいつを倒すための手段も、ちゃんと事前に予告されている。なるほど。逆に言うと、こういう構成はごく一般的な女性ファンには受けないだろう。本格、と聞いただけで顔をしかめるうちの女房を見ているとそう思うし、実際興行成績がそのことを裏づけてもいる。しかし私は楽しんだ。


主演のアマンダ・セイフリードはとにかく肌の色の白さと青緑色の大きな目、それにふくよかな唇が印象的で、それが真っ赤なフードつきコートを羽織り、一面真っ白な雪景色を背景に歩いていくと、しこたま絵になる。配役としてどんぴしゃりかどうかはともかく、イメージとして記憶に残る度合いは非常に高い。


セイフリードのスペルはSeyfriedで、私は勝手にセイフリードと発音するものだと思っていたのだが、TVのニューズや芸能関係番組で紹介されると、聞く度に違う発音でよくわからない。セイフリード、サイフリード、サイフリッド、サイフライド等、言う人がそれぞれ思い思いに発音している。ケイト・ブランシェット辺りですらいまだにブランシェットともブランチェットとも発音されるから、セイフリード・レヴェルではまだ統一がとれてなくてもしょうがないかもしれない。


いつぞやのエミー賞で、ドラマ部門の助演女優賞を獲得したキャサリン・ハイグルが、授賞式で女性アナウンサーにヘイグルと紹介され、ヘイグルではない、ハイグルとその場で訂正していた。そのようなことが起きない限り、セイフリードの発音の混乱はまだ続くと思われる。


セイフリードに絡む二人の男性が、シャイロー・フェルナンデスとマックス・アイアンズ。前者はCBSのアルマゲドン・ドラマ「ジェリコ (Jericho)」に出ていた。後者は出演作を挙げるより、ジェレミー・アイアンズの息子と言った方が通りがいいだろう。他にオオカミ男専門ハンターとしてゲイリー・オールドマンや、「トワイライト」繋がりのビリー・バークもいる。おばあさん役のジュリー・クリスティはもう70歳で、実際、人によっては曾孫すらいる年齢だが、おばあさんというには若過ぎて見えるくらいだ。雪山を歩くセイフリードが、一瞬、「ドクトル・ジバゴ (Doctor Zhivago)」のクリスティとダブった。








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