またまたオープニングが、登場人物が刑務所から出所してくるシーンで幕を開けるTVドラマ・シリーズだ。今年だけで既に2回、登場人物が刑務所から出てくるシーンから始まるドラマを見ている。シネマックスの「バンシー (Banshee)」では、出所した主人公が偽保安官となって、昔の彼女と金のある町に居つくという話だった。サンダンスの「レクティファイ (Rectify)」は、冤罪で刑務所に入れられた男が、晴れて無実が証明されて出所してくる。
そして「レイ・ドノヴァン」の場合は、話の冒頭で刑務所から出所してくる男は、主人公ではない。主人公レイ・ドノヴァンの父ミッキーだ。実はミッキーはたぶんレイたちの策略によって有罪判決を受けて刑務所入りしていたことが、おいおい明らかになってくる。どうやらミッキーは危険な男らしい。自分の子供たちの手によって刑務所送りにさせられたのだ。
その息子レイの現在の職業は、ハリウッドのセレブのキャリアのピンチを助けるフィクサーだ。フィクサーというと、何はともあれ思い出すのは、「フィクサー」という邦題を持つ「Michael Clayton」だろう。こちらはハリウッドではなく、ニューヨークで主としてお偉い方の事件の後始末を受け持つフィクサーに、ジョージ・クルーニーが扮していた。「レイ・ドノヴァン」で主人公レイに扮するのは、リーヴ・シュレイバーだ。
フィクサーに求められるのは、まず第一に機転、そしてコネと機動力だ。腕力と、人に安心感を与えることのできる恰幅のよさや身だしなみ、ハンサムな顔があれば なおいい。絶体絶命のピンチに陥った者が、一縷の望みを託してフィクサーに連絡してくるのだ。要するに、クルーニーやシュレイバーがフィクサーというの は、納得できるキャスティングと言える。
あるいは、同じくショウタイムの「ハウス・オブ・ライズ (House of Lies)」で、ドン・チードルが演じている主人公マーティは、企業コンサルタントという肩書きはあっても、実際やっていることは企業フィクサーに過ぎないとも言える。この3人に共通しているのは、スーツ姿が似合う、あるいは、スーツ姿を多少着崩したところが最も格好よく見える点だ。なんか、一流フィクサーになるのは、ハリウッドで一流スターになるより難しそうだ。
「レイ・ドノヴァン」では、レイに連絡してくる黒人セレブは、朝起きたら隣りに寝ている昨日会ったばかりの全裸の白人女性が、ドラッグのオーヴァードースのために鼻から血を流して息 をしていないことに気づく。次にエージェントから連絡があったのは、やっと女の子に人気が出てブレイクしようとしているのにゲイとばれそうになっている新人俳優で、レイは黒人セレブと新人俳優を取り換えっこしてその場を凌ぐ。黒人セレブはその場から脱出し、新人俳優は、隣りで女性が死んでいたということが 彼がゲイという事実を隠蔽し、逆にスキャンダル絡みで注目を高めるという一石二鳥の妙案だった。
そういう、ハリウッドを持ち前の才覚で渡り歩くレイにも、弱点はある。それが父のミッキーだ。ミッキーはたぶんかなりやばい性格なのに違いない、そもそもの刑務所入りした理由が、実の息子たちによって嵌められたからっぽい。20年食らうはずだったが、刑務所内ではおとなしくしていたのだろう、5年早く出所してくる。おかげで息子たちは対策を迫られる。その彼らの前に好々爺然としてまた堂々と姿を現すミッキー、果たして真の狙いは何か。
また、ミッキーには、黒人女性に生ませたハーフの息子、レイにとっては弟がいることがわかる。その男ダリルがまた鉄砲玉みたいな奴で、すぐ切れ、何をしでかすかわからない。他の兄弟も、幼い頃に教会の牧師から性的に虐待を受け、心の傷からアル中になってしまったバンチー、元ボクサーでパーキンソン氏病にかかっているテリー等、多かれ少なかれ問題を抱えており、正直言って当てにならない。
家庭でも、妻のアビーも二人の子供たちも愛してはいるが、子育てはなにかと手間のかかるものだし、アビーはどちらかというとレイの仕事よりも、子供たちと、レイが浮気をしてないかの方が気にかかる。いわばレイはほとんど一人で百戦錬磨のミッキーと対峙しなければならない。うまくこの危機を切り抜けられるのだろうか‥‥
主演のレイを演じるリーヴ・シュレイバーは、実は近年の作品で最も記憶に残っているのは、アン・リーの「ウッドストックがやってくる (Taking Woodstock)」で演じた巨魁ゲイで、「レイ・ドノヴァン」とはかなり落差ある。でも、考えたらこの作品でも仕事はセキュリティだったよな、似たようなものか。ミッキーを演じているのはジョン・ヴォイトで、元々癖のある役が多かったが、歳とってきてそれにえぐみのような味が加わり、こういうギャングっぽい役が板につくようになった。
番組のプレミア・エピソードの最後は、出所したミッキーがレイの家を訪れ、家族と再会を祝うところで続くとなる。一瞬、あれ、なんかシュレイバーとヴォイトって、どこかでこれと似たようなポーズで収まってなかったっけと思って調べてみたら、この二人、「クライシス・オブ・アメリカ (The Manchurian Candidate)」で共演している。確かにこの二人が同じフレーム内に収まっていたシーンがあったはず。しかもそばにいたのはメリル・ストリープだった! その時は確かアメリカの副大統領候補と側近という感じだった二人が、ここでは共に真っ当ではない過去を背負っている父子として共演だ。それもまたアメリカという感じがしてよろしいかと。