「オデッセイ (The Martian)」が公開された時、ちょうど時宜を合わせたかのように火星で液体の水の跡が観測され、火星に生命が存在することが夢物語ではないことが証明された。
ちょっと違うが、「クアンティコ」がプレミア放送されてしばらくして、パリで大きなテロが起こった。「クアンティコ」は、ニューヨークのど真ん中でグランド・セントラル・ステイションがテロによって破壊されるというのが、そもそものオープニングだ。もし「クアンティコ」放送よりパリのテロの方が先に起こっていたら、「クアンティコ」プレミア放送が延期された可能性は高い。
しかし現実には「クアンティコ」は無事放送され、そしてパリでテロが起きた。私の意見では「クアンティコ」は今シーズンのベスト・ドラマなのだが、こういう現実の事件とシンクロすることが、番組の追い風となって注目を集めた感があるのも否めない。
番組タイトルの「クアンティコ」とは、ヴァージニア州クアンティコという地名で、ここにFBIエージェントの訓練施設がある。つまり番組は、トレイニング中の新進エージェントを描くドラマだ。例えばラングレーといえば、ここに本拠があるCIAを意味するのと同じ用法でクアンティコと言っている。ただしクアンティコの場合、海兵隊やNCISの施設もあるため、ラングレーといえば100%CIAを指すようにはFBIを示すわけではない。
番組は冒頭、マンハッタンのグランド・セントラル・ステイションがテロで破壊され、それに巻き込まれた主人公アレックスが目覚めるシーンから始まる。アレックスはFBIエージェントだが、駆けつけた別のFBIエージェントに助けられた、と思ったら実は軟禁状態に置かれ、根掘り葉掘り質問される。アレックスおよび仲間のトレイニングを受けているエージェントたちは、実は逆にテロの首謀者と見られていた。
アレックスはトレイニーとしてクアンティコに着いたその日からの出来事を、微に入り細を穿って思い出すことを要請される。全米各地から集まったトレイニーたちは、それぞれ異なったバックグラウンドと理由から、FBIエージェントを目指していた。
ある者は9/11で親を亡くし、ある者は兵役経験者で、ある者はムスリムだが愛国者であり、ある者は親の威光を利用し、ある者は実は双子が一人の人間の振りをし、ある者はゲイでエージェントを目指していた。アレックスの場合は、ある時妻を撃とうとして逆に撃たれて殺された父の本当の理由を知りたいという事情があった。
しかしほぼ全員に、そういう表立った理由の他に、それぞれが隠している別の理由があった。例えば、アレックスとライアンはクアンティコに向かう飛行機の中で偶然隣り合わせ、駐車場のクルマの中で一度限りのセックスをするが、二人が隣り合った席になったのは偶然でもなんでもなく、初めから仕組まれていたことがわかる。実はアレックスの父を撃ったのは母ではなく、アレックス自身だった。ライアンはそれこそ教官が送り込んだスパイだった。多かれ少なかれ、同様に全員隠しているものがある。
番組はテロが起きた現在と、9か月前のクアンティコでのトレイニーたちの訓練の模様を交互に描きながら展開する。果たしてこの中の誰かがテロの首謀者なのか。それとも何か別の大きな陰謀が隠されているのか。仲間と見えた者がそうだとは限らない。あるいは敵のようでいて、実は味方かもしれない。疑心暗鬼のままトレイニングは進み、一人また一人と脱落していく‥‥
主人公のアレックスに扮するプリヤンカ・チョプラは、2000年のミス・ワールド・ページェントの優勝者だそうだ。そういうページェントものにはまったく興味がないので知らなかった。女優業もこなし、地元インドではスーパーセレブらしい。今はたぶん、ページェントに勝った時よりも多少肉がついていると思えるが、それで逆にセクシーさは増したんじゃないかと想像する。エキゾティックな顔や黒髪、ちょっと鼻にかかってかすれた声が、ショーレー・アグダシュルーを思い出させる。今、著名なインド系の女優というと、なにはともあれ「ザ・ミンディ・プロジェクト (The Mindy Project)」のミンディ・ケイリンが筆頭だろうが、ネットワークのFOXからストリーミングのHuluに移動して露出度が減ったケイリンの代わりに、チョプラが中央アジアを代表する女優となる日も遠くはないだろう。