Pushing Daisies   プッシング・デイジー

放送局: ABC

プレミア放送日: 10/3/2007 (Wed) 20:00-21:00

製作: ザ・ジンクス/コーエン・カンパニー、リヴィングデッドガイ・プロダクションズ、ワーナー・ブラサーズTV

製作総指揮: ダン・ジンクス、ブルース・コーエン、バリー・ソネンフェルド、ブライアン・フラー

製作: グレアム・プレイス

監督: バリー・ソネンフェルド

脚本: ブライアン・フラー

撮影: マイケル・ウィーヴァー

美術: マイケル・ワイリー

編集: スチュアート・バス

音楽: ジム・ドゥーリー

ナレーション: ジム・デイル

出演: リー・ペイス (ネッド)、アナ・フリール (シャーロット・'チャック'・チャールズ)、チャイ・マクブライド (エマーソン・コッド)、クリスティン・チェノウェス (オリーヴ・スヌーク)、スウィージー・カーツ (リリーおばさん)、エレン・グリーン (ヴィヴィアンおばさん)、フィールド・ケイト (幼少時のネッド)


物語: ある日ネッド少年が飼い犬のディグビーと外で遊んでいたところ、ディグビーはトラックに撥ねられて死んでしまう。しかしネッドがディグビーに触ったとたん、ディグビーは生き返り、ネッドは自分に特殊な力があることを知る。ネッドはパイを焼いていて突然死した母も生き返らせるが、同時に向かいの家の好きな女の子チャックの父が死んでしまう。誰かを生き返らせると代わりに誰かが死んでしまうのだった。さらにネッドにおやすみのキスをした母がまた死んでしまったことで、ネッドに触れて生き返った者は、もう一度ネッドに触れると死んでしまい、今度こそ生き返らないことも知る。


20年後、母が死んだ時からパイ作りに憑かれていたネッドは、パイ職人になっていた。彼はどんなに傷んだ果物もフレッシュに再生することができるのだった。ある時、とある事件を追っていた私立探偵のエマーソンによって、偶然事故死した男に触れて生き返らせてしまう瞬間を目撃されたネッドは、エマーソンから共同事業の話を持ちかけられる。殺人事件は、死んだ者に話を訊くのが最もてっとり早い事件の解決法なのだった。


そんな時、TVを見ていたネッドはある女性がクルーズ旅行の最中に殺されたことを知る。その事件の解決のために葬儀社を訪れたネッドは、その女性こそが初恋の人チャックであることを知る。いったんチャックを生き返らせてしまったネッドは、またチャックを眠らせることができず、代わりに腹黒い葬儀社の人間が死んでしまう。ネッドはチャックを自分の部屋にかくまい、一方、チャックを殺した男の魔の手は、チャックの育ての親代わりの双子姉妹のリリィとヴィヴィアンの間近に迫っていた‥‥


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今シーズンのネットワーク新番組は、脚本家組合 (WGA) のストのせいもあって途中で分断されたせいもあり、ぱっとしない印象が強いのだが、質的には今シーズンの新番組は決していつものシーズンより劣っているわけではない。むしろ今シーズンは、質的にかなりいいという評価であった昨シーズンより、さらに粒揃いという印象がある。質はよくてもサスペンス/スリラー系のシーズンを通した連続ドラマに偏りがちで、結果として潰し合いだった昨シーズンに較べ、今年は内容の点でも様々なジャンルの番組が編成され、バランスがとれていた。


その中でも今シーズン私が最も気に入ったのが、以前書いたNBCの「ライフ」と、ABCのこの「プッシング・デイジース」だ。刑事番組の「ライフ」はともかく、実は「デイジース」は、ジャンルとしては普通、私がまったく興味を惹かれないファンタジー、恋愛ものという二大ジャンルの王道を行く恋愛ファンタジーなのだが、それがなぜだか私のような偏屈視聴者にも面白いと思わせることに成功している。


「デイジース」の主人公ネッドは死んでいるもの (人間や動物、植物を問わない) に触れることによってそれを生き返らせることができるという特異な能力を持っていた。ただしその力には欠点があり、生き返らせたものにもう一度触れると、それはまた死んでしまい、今度は何をしようと再び生き返ることはなく、また、ある者を生き返らせると、その代償として他の誰かが死んでしまうのだった。成長したネッドはパイ職人となる一方、偶然ネッドの力を目撃した私立探偵のエマーソンに口説き落とされ、殺人事件の被害者を生き返らせて話を聞くことで事件を解決することに一役買っていた。死者を完全に生き返らせてしまうと代わりに近くの他の誰かが死んでしまうのでタイム・リミットを1分と設定し、生き返らせてからすばやく聞きとりたい要点だけを聞いてしまうと、またすぐにタッチして死者に戻ってもらうのだ。


ところがある時、事件に巻き込まれて死んだ被害者が、自分の初恋の人チャックであることを知る。しかもせっかく葬儀社の人間に鼻薬をかがせて生き返らせたチャックは、後ろからプラスティック・バッグを頭に被せられて海に突き落とされたため、相手の顔はまるで見ておらず、犯人特定にはまるで役に立ってくれなかった。結局ネッドはチャックをまた死人に戻すことができずに、てんやわんやの末に墓地であわや生き埋め? になる寸前に助け出す。


しかしチャックの証言から彼女が殺されたのは運び屋として何も知らないチャックを利用しただけというのが明らかになり、ネッドはエマーソン、チャックと共にチャックの育ての親の双子の姉妹リリィとヴィヴィアンの家に急行する。しかし時既に遅く、犯人は既にリリィを手にかけた後だった。そして何も知らずに飛び込んできたネッドもまたその犠牲になろうとしていた。それを助けたのは死んだものと思われたリリィで、ヴィヴィアンと共に元シンクロナイズド・スイミングの選手だったリリィは、首を絞められても長時間息を止めていられるのだった。しかも右目を怪我して眼帯をしているリリィは、死角に入っていたチャックに気がつかず、事件は無事解決する‥‥と、ここまでが番組第1回。


ヴィヴィッドな視覚表現、意外性のある展開、ひねったユーモア、緩急をつけた演出、はまり役の両主人公を筆頭とするキャスティング等、見所は多いが、やはりこの番組が成功している最大の理由は、お互い惹かれあっているのにネッドの特異な能力のために触れ合うことが永久に禁じられている (ネッドがもう一度チャックに触れてしまったら、チャックは永久に死んでしまうのだ) 主人公二人の関係の設定のうまさにあるといって差し支えあるまい。これはうまいと思う。


なんとなればどんな人間であろうと知り合って一瞬後には握手しているかハグしているというお国柄で、ほんの一瞬手を触れ合うことすら禁じられている二人、彼らはただただじっと見つめ合うことしかできないのだ。ブリトニー・スピアーズの妹の16歳のジェイミー・リンですらあっという間に妊娠してしまう現在、これだけ完璧にプラトニックでいることが運命づけられている存在は実に貴重だ。彼らは壁越し、プラスティック・カヴァー越し、グローヴ越しにお互いの存在を感じとることで我慢するしかない。壁越しで相手の存在を感じるシーンなんて確か「氷の接吻 (Eye of the Beholder)」であったなあ。あれは男の側からの一方的なストーカー行為であったわけだが。


こういう風に主人公の恋愛模様が番組のテーマでなくても、男女二人いる主人公がくっつくか離れるかというのがかなり人気の理由になっているという番組は、これまでにも結構あった。一番端的な例では、番組テーマの陰に隠れて見過ごされがちだが、かつてのFOXの人気番組であった「ジ・X-ファイルズ」で、お互いに敵対しながらも惹かれ合っていたモルダー (デイヴィッド・デュカヴニー) とスカリー (ジリアン・アンダーソン) の関係に興味津々だった視聴者はかなり多かった。番組最終回でスカリーがモルダーの子を身ごもっていたという幕切れは、視聴者が二人の関係になんらかの決着を見たかったことの反映に他ならない。


現在放送中の番組でも、FOXの「ボーンズ (Bones)」のボーンズ (エミリー・デシャネル) とブース (デイヴィッド・ボレアナス) の関係だとか、「ロウ&オーダー: SVU」のエリオット (クリストファー・メローニ) とオリヴィア (マリスカ・ハーギテイ) とか、上述した「ライフ」のクルース (ダミアン・ルイス) とリース (サラ・シャヒ) だとか、果ては「FBI失踪者を追え (Without a Trace)」のジャック (アンソニー・ラパリア) とサム (ポピー・モンゴメリ) や「CSI」のグリッソン (ウィリアム・ペーターゼン) とサイドル (ジョージャ・フォックス) ような群像ドラマにおいてすら、メイン・キャラクター同士のつかず離れずの関係で視聴者に気を持たせようとするのは定石だ。


ただ、「デイジース」の場合は恋愛ファンタジーということもあり、それこそがメイン・テーマである。そしてそれまでは、だいたい仕事の上でパートナーだったり、上司と部下という関係上、表立てることのできなかった関係が、ここではフィジカルにお互いに触れ合うことができないという制約のために、やはり成就できない恋愛として視聴者を引っ張ることになる。わかってはいても今後どうなるか気になってしまう。


そしてさらに、主人公を演じるリー・ペイスとアナ・フリールがこれ以上ないと思えるくらい適役。眉が濃く、どことなくマンガチックなペイスは、2004年のFOXの「ワンダーフォールズ (Wonderfalls)」で、主人公に扮したキャロライン・ダヴァナスの兄を演じていた。因みにここでダヴァナスが演じていた主人公ジェイは、なんでもない置物等のモノから神の声を聞くことのできる女性という役どころだったが、今回のペイスは触れることで死者を生き返らせる男と、やはりなんとなくあっちの世界づいている。


一方のチャックに扮するアナ・フリールは、印象でいうと一番似ているのは現在ショウタイムの「ウィーズ」に主演しているメアリ-ルイーズ・パーカーか。やはり3年前、「ワンダーフォールズ」の3か月後にFOXで編成された「ザ・ジューリー (The Jury)」に出ている。こちらの方はファンタジー色なぞまるでないがちがちの法廷ドラマだったとはいえ、しかしポイントは、主人公の二人が3年も前にこんなところで同じFOXというネットワークでニアミスをしていたというところにある。つくづく結ばれない運命にあるんだな、あんたたち。


他にも私立探偵エマーソンに扮するチャイ・マクブライド (「ボストン・パブリック」)、チャックのおば姉妹の一人リリィにスウィージー・カーツ (「ハフ」)、もう一人のおばヴィヴィアンにエレン・グリーン、レストラン「パイ・ホール」のウエイトレス、オリーヴにクリスティン・チェノウェス (「クリスティン」) 等、曲者を揃えている。特にグリーン、チェノウェス等はブロードウェイに注意していたら何度でも耳にする機会のある舞台のヴェテランであり、特にプロデューサーが舞台に詳しい人間であることがすぐわかる。その製作総指揮を担当しているのは、「ワンダーフォールズ」、「ヒーローズ」のブライアン・フラー、「トラヴェラー」のブルース・コーエン、および「メン・イン・ブラック」のバリー・ソネンフェルド等で、プレミア・エピソードの演出をソネンフェルドが担当していると聞くと、なるほどと納得してしまうのだった。


なかなかうまい目のつけどころで感心させてくれる「デイジース」であるが、しかしこういう話は、どこかでちょっとしたほころびや矛盾点が出るのが普通で、それはどんなによくできた物語であろうと免れることはできなかったりする。「デイジース」に関して言えば、ネッドは幼い時、トラックに撥ねられた愛犬のディグビーを生き返らせたことにより自分の能力に目覚め、生き返らせた母をまた死なせたことでその能力の欠点を知るということになっている。しかし、いったんタッチしたものを生き返らせ、もう一度タッチすることでまた死の世界に送り帰すという筋書きなら、そもそもの最初に生き返らせた愛犬を抱きしめることをしない少年なぞこの世にいないことは断言してもいい。その辺をうまくごまかすために、ディグビーが生き返った瞬間、ネッド少年がディグビーを再度抱きしめる暇なくディグビーは駆け出して行ってしまうという描写になっている。


もちろんその時はそれでいいかもしれないが、その後ネッドがディグビーを二度と触らないままでいられるわけがない。たぶんネッド少年がその後ディグビーを再度抱きしめる前に母が死んでしまい、自分の能力の限界を知ったネッドがディグビーを触ることができなくなったという理由づけなのだと思うが、その展開は無理がありすぎる。おかげで20年後にネッドが飼っている犬が、そのディグビーであることに最初気づかなかった。ウエイトレスのオリーヴとの会話によってネッドとディグビーはスキンシップをとらないというシチュエイションが視聴者に示されることで初めて、このディグビーがあのディグビーと同じ犬ということがわかるのだが、やはり無理がある。


それに、ネッドがある者を生き返らせると、その反動というか代償で代わりに誰か他の者が死ぬことになっている。では、ディグビーが生き返った時は、いったい他の誰 (犬?) が死んだのか。その描写はまったくなかったのだが、もしかしたら事故の近くにいた鹿とかリスとか野ウサギとか野良犬とかが見えてないところで代わりに天に召されたのだろうか。些細な点だが気になってしまう。むしろ番組自体のできがいいために、こういう瑕疵が目につくということもある。これさえなければ完璧と思ってしまうのだ。あるいは、そういう些細な欠点を目にして、ああ、これさえなければ、なんて思うことこそが視聴者冥利なのかもしれない。   







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プッシング・デイジース   ★★★1/2

 
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