映画ファンの一人として、毎年アカデミー賞は見逃せないイヴェントである。一時期は無視しようと思ったこともあるが、その受賞作に納得しようが反発しようが、アカデミー賞が時代の一つの趨勢を体現していることは間違いない。というわけで、ある時期から私も一つのイヴェントとしてアカデミー賞を楽しみにしている。


とはいえ本心を言うと、私みたいに癖のある見方をしている映画ファンにとって、やはりその選択には納得行かないという時の方が圧倒的に多い。というわけで、ふと思いついて、私自身がノミネーションから受賞まで一人で勝手気ままに選別する個人的アカデミー賞を考えてみた。やってみるとこれが案外楽しいので、ここに発表することにした。もちろん実際のアカデミー賞にノミネートされている作品でも見てないのもあるので、まるっきり一貫性を欠いた、偏ったものだということは私も重々自覚しているが、その、「見ていない」というのも、実は一つの積極的な選別の指針でもある。



作品賞 (Best Picture)

「アビエイター」

「エターナル・サンシャイン」

「ミリオン・ダラー・ベイビー」

「オペラ座の怪人」


ミュージカルで「レイ」ではなくて「オペラ座の怪人」を選んでいるのは、こちらの過剰さの方に私が惹かれるからだ。やり過ぎ、行き過ぎのロマンチシズムではあるが、知らず知らず感情移入してしまった。同じミュージカルでは「ビヨンド the シー」も捨てがたい。実は昨シーズンは近年では滅多にないミュージカルの当たり年だった。これも「シカゴ」の賜物か。近年ほとんどファンタジーとラヴ・コメ (コメディと言えるかは疑問だが) には食指が動かない私でも心を動かされた「エターナル・サンシャイン」も落とせない。


とはいえ、事実上今回の作品賞は、「アビエイター」と「ミリオン・ダラー・ベイビー」のどちらを選ぶかに尽きる。私が選ぶのは「ミリオン・ダラー・ベイビー」の方だ。欠点もあるとはいえ「アビエイター」のフラッシーな魅力も捨てがたいが、しかし「ミリオン・ダラー・ベイビー」は荘厳ささえ感じさせる。決してハッピー・エンドというわけでもないのに、こういうのを見れて生きててよかったと感じさせる「ミリオン・ダラー・ベイビー」を超える作品がそうそうあるとも思えない。



監督賞 (Achievement in Directing)

ペドロ・アルモドバル (「バッド・エデュケーション」)

クリント・イーストウッド (「ミリオン・ダラー・ベイビー」)

ジョエル・シューマッカー (「オペラ座の怪人」)

マーティン・スコセッシ (「アビエイター」)

M. ナイト・シャマラン (「ヴィレッジ」)


一人で選ぶと、作品賞候補の監督がほとんどそのまま監督賞候補になってしまうのはしょうがない。それでもシャマランとアルモドバルを入れてみた。とはいえ、やはりここも結局スコセッシかイーストウッドかという話になってしまう。で、やっぱりイーストウッドになってしまうのもしょうがない。



主演男優賞 (Best Actor in a Leading Role)

ハビエル・バルデム (「海を飛ぶ夢」)

ドン・チードル (「ホテル・ルワンダ」)

ジェイミー・フォックス (「レイ」)

ケヴィン・スペイシー (「ビヨンド the シー」)


今回は「レイ」の年であることを納得してはいても、やはり「ビヨンド the シー」のスペイシーを外すことはできない。フォックスはレイ・チャールズになり切ったかもしれないが、スペイシーはまったく別の人格を創造して見せた。私の一票はスペイシーに。



主演女優賞 (Best Actress in a Leading Role)

ブライス・ダラス・ハワード (「ヴィレッジ」)

ニコール・キッドマン (「バース」)

ヒラリー・スワンク (「ミリオン・ダラー・ベイビー」)

ティルダ・スウィントン (「猟人日記」)


いかに女性の一瞬の微妙な表情のゆらめきに私が弱いかということがまるわかりのこのノミネーション、なかでも作品が貶されたせいで見向きもされないが、ハワードは今シーズン最も過小評価されている。しかし私が選ぶのはキッドマン。彼女の全キャリアでベストのでき。アカデミー賞をとった2年前の「めぐりあう時間たち」よりもこちらの方が何倍もいい。彼女自身が今後この役を超えることは非常に難しいだろう。


「ヴェラ・ドレイク」のイメルダ・スタウントンを見ていないのにノミネーションを決めてもいいのかという声も聞こえてきそうだが、だって、ラース・フォン・トリアーよりよほどスーパーシリアスで痛いマイク・リーが過去の中絶医を主人公として撮った作品というと、もうそれだけでスタウントンが「ドッグヴィル」のキッドマンより精神的に痛めつけられるのが火を見るより明らかで、なまじっかのホラーより絶対怖いに違いない「ヴェラ・ドレイク」を見る気になぞ到底なれなかったのだ。



助演男優賞 (Best Supporting Actor)

アラン・アルダ (「アビエイター」)

トマス・ハイデン・チャーチ (「サイドウェイズ」)

モーガン・フリーマン (「ミリオン・ダラー・ベイビー」)

フレディ・ハイモア (「ネバーランド」)

ピーター・サースガード (「キンゼイ」)


助演というよりは隠れ主役のハイモアは、過大評価されている「ネバーランド」からノミネートされるに相応しい唯一の俳優。フリーマンもサースガードも、いかにも縁の下の力持ち的な脇に徹してとてもよい。アルダの嫌らしさも見事。PBSの「サイエンティフック・アメリカン・フロンティアス」ではあんなに好々爺然としているのに、演技力あるなあ。とはいえここはチャーチに上げてやりたい。



助演女優賞 (Best Supporting Actress)

ケイト・ブランシェット (「アビエイター」)

レジーナ・キング (「レイ」)

ソフィ・オコネド (「ホテル・ルワンダ」)

サンドラ・オー (「サイドウェイズ」)

メリル・ストリープ (「クライシス・オブ・アメリカ」)


ブランシェットは役者としてというよりも、いったんスクリーンに現れたら目を離せない存在感が他と一線を画している。「レイ」でのキングとフォックスのデュエット (というよりファイト) は、昨年の最も鳥肌ものの瞬間だった。バスタブに潜むオコネドも忘れられない。「サイドウェイズ」からの助演ならむしろマドセンより、身体を張っているオーの方が相応しい。役柄の上では単に大統領候補の母でしかないのにもかかわらず、本当のファースト・レイディのヒラリーやローラよりも本物っぽく見えるストリープって、いったい何者なんだ。というわけで主演より選ぶのが難しいこの部門、私が選ぶのはオコネド。よく見ると実はたいそう美しい女優でもある。



脚本賞 (Best Original Screenplay)

チャーリー・カウフマン (「エターナル・サンシャイン」)


こちらは迷わずすんなり決まった。当然本当のアカデミー賞でもこれがとるだろう。



脚色賞 (Best Adapted Screenplay)

アレクサンダー・ペイン/ジム・タイラー (「サイドウェイズ」)

ポール・ハギス (「ミリオン・ダラー・ベイビー」)


どちらに上げてもいいんだが、脚本のできがそのまま作品のできにも直結してるという点で、ここはペイン/タイラーの「サイドウェイズ」。







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ごくごく個人的なアカデミー賞   (2005年2月)

 
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