Prayers for Bobby  プレイヤーズ・フォー・ボビー

放送局: ライフタイム

プレミア放送日: 1/24/2009 (Sat) 21:00-23:00

製作: ワンス・アポン・ア・タイム・フィルムス、パームット・プレゼンテーションズ、スラデック・ターフ・プロダクションズ

製作総指揮: スタンリー・ブルックス、デヴィッド・パームット、ダニエル・スラデック、クリス・ターフ

製作: ダミアン・ガンツェウスキ

脚本: ケイティ・フォード

原作: 「プレイヤーズ・フォー・ボビー」ルロイ・アーロンズ

監督: ラッセル・マルケイ

撮影: トム・ベスト

美術: ガレス・ストーヴァー

編集: ヴィクター・デュボア

音楽: クリストファー・ウォード

出演: シガーニー・ウィーヴァー (メアリ・グリフィス)、ヘンリー・ツェーニー (ボブ・グリフィス)、ライアン・ケリー (ボビー・グリフィス)、オースティン・ニコルズ (エド・グリフィス)、カーリー・シュローダー (ジョイ・グリフィス)、シャノン・イーガン (ナンシー・グリフィス)、スコット・ベイリー (デイヴィッド)、レベッカ・ミラー (ジャネット)、スーザン・ルタン (ベティ・ランバート)、ダン・バトラー (ホイットセル牧師)


物語: メアリは愛する夫と二男一女の子供たちに囲まれ、時に気難しい祖母に困らされることはあっても、まずまず仕合わせな生活を送っていた。しかし二男のボビーは、実はどうしても女性に興味が持てず、同性しか好きになれないことに悩んでいた。ある時ボビーはついにそのことを兄のエドに打ち明ける。親には黙っていてくれと頼まれたエドだったが、しかしメアリにその事実を明かす。熱心に教会に通う敬虔なメアリにとって、ホモセクシュアルは神に対する罪だった。メアリはボビーを矯正しようとカウンセリングに通わせたりするが、そのことは一層ボビーの悩みを深くするだけだった。ボビーは耐え切れなくなり、陸橋の上からフリーウェイに身を投げる‥‥


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近年、アメリカでTV映画やミニシリーズの、いわゆるロング・フォーム番組を製作放送するチャンネルはめっきり減った。特にケーグル・チャンネルにおいては、かつてはこれらの番組を放送することがチャンネルの露出度を高め、視聴者を獲得する最も手っ取り早い方法だったのだが、これだけチャンネル数が増え、猫も杓子もロング・フォーム番組を製作するようになると、さすがに効果がなくなった。


その上それらの番組が粗製濫造で見る価値のない番組が多くを占めたものだから、当然視聴者は拒否反応を示し、結果としてこのジャンルは大いに廃れることになった。そういう状況下で、現在、今でもロング・フォーム番組を懲りずにというか、目玉番組として製作し続けているのが、女性番組専門チャンネルのライフタイムと、中高齢者専門チャンネルのホールマークだ。どちらも隔週くらいの頻度で新作TV映画を放送しており、その内容も心暖まるヒューマン・ドラマが主体と、方向性も一緒だ。


ライフタイムの場合はそれだけでなく、近年の、特に女性にアピールする三面記事的な現実の事件を再構成するドキュドラマの製作というのも主軸の一つだ。いずれにしてもライフタイムにしてもホールマークにしても、両者の放送する番組は、成人男性にとってほとんど興味の対象の対極にあったりする。よほどのことがない限り、興味の針が振れることはほとんどない。いまだに昼のソープ・オペラを見ているような人たちが、これらの番組を見ているんだろうなと思うだけだ。


それでも、実際にまともには一度も見たことのないホールマークTV映画に比して、ライフタイムTV映画は過去何度か見ている。既に数年前のことではあるが、「ア・リトル・シング・コールド・マーダー (A Little Thing Called Murder)」や「ウイ・ワー・ザ・マルヴェイニーズ (We Were the Mulvaneys)」なんてのを見ている。前者はジュディ・デイヴィス、後者は私の一押し女優タミー・ブランチャードが出ている。つまり、ライフタイムTV映画は私の場合、だいたい女優で見ている。実際、結構名の知られた有名女優が出ていることも多い。この辺りも、まず出演者が誰か知らないホールマークTV映画と異なる点だ。


そして今回ライフタイムの放送した「プレイヤーズ・フォー・ボビー」も、久しぶりにおっと思わせるものがあった。内容がゲイの息子を持ってそれを受け入れられずに、結果として息子が自殺、悲嘆にくれる母親の苦悩と再生を描く、結局やはり1980年代に起きた事実を再構成したドキュドラマなのだが、その母親メアリを演じるのが、シガーニー・ウィーヴァーなのだ。


かつてたぶん地上、いや宇宙を含めても最強の女性戦士としてほとんどたった一人でエイリアンと戦い、勝ち抜いてきたウィーヴァーが、自分の息子をわかってやることができずに死に至らしめ、悲嘆にくれるという、「エイリアン」時代とはまったく逆の立場を演じるのが、「プレイヤーズ・フォー・ボビー」なのだ。こいつはかなりそそる。やはりライフタイムTV映画は誰が出ているかがポイントだ。


ウィーヴァー演じるのは敬虔な家庭の主婦メアリで、そういう人物にありがちだが、よかれと思ってやっていることが、第三者の目から見るとたんに自己満足に過ぎなかったりする。悪い人じゃないのだが、融通が利かず、正直言って悩んでいる息子のボビーが、たとえ実の母といえどもその悩みを打ち明けられるような相手じゃない。というか、普通少年というものは悩んでいることがあったら死んでもそれを母に打ち明けるということはしないが、メアリはそういう感性を理解することができない。


そしてボビーが悩んでいる理由が自分がゲイで異性を愛せないことにあり、メアリが同性愛を認めない教会の熱心な信者であった場合、もう悲劇にしかならないことは火を見るより明らかだ。結局ボビーは母にも父にも悩みを打ち明けることができず、兄のエドだけに告白するのだが、弟の窮状を見かねたエドは、自分でもどうすることもできないため、親には言わないでくれというボビーの頼みを無視してメアリに弟の秘密を打ち明ける。


結局その後にメアリのとった行動は、それこそボビーが怖れていた、ホモセクシャルという「罪」を矯正するためのあらゆる行動に過ぎなかった。その、ホモセクシュアルを救済するというすべての手段がボビーにとっては苦痛でしかなく、たとえカウンセリングを受けたところで、同性が好きという心の反応は変えようがなかった。だからこそボビーは悩んでいたのだ。


しかし母親も愛していたボビーは、母への思慕と同性への思いに引き裂かれ、こんなに苦しむよりはとフリーウェイ上に架かる陸橋から身を投げる。番組の後半は、ボビーの死を知って愕然とし、悲嘆にくれるメアリの、哀しみの淵から這い上がろうともがく様が描かれる。


この後半の、ほとんど絶望して何も手につかないメアリを、ほとんどノー・メイクに近い状態で演じるウィーヴァーの熱演が番組の最大の見所だ。結局それまでにメアリのしていたことは、ただの自己満足に過ぎず、一番身近な人間のはずの自分の息子のことすら何もわかっていなかったことに気づく。夜、教会に出向き、牧師の前で、神はボビーを矯正しなかった。当然だ。なぜならボビーはどこも悪いところなぞなかったからだと泣き崩れるシーンは、番組の白眉と言えよう。


さすがに私も中年になって、実話だろうがフィクションだろうが、話の中で誰かが死んだり泣いていたりしても、だからといってこちらまで涙ぐんだりすることはなくなって久しいが、このウィーヴァーには思わず心を揺さぶられた。昨年、「ア・レーズン・イン・ザ・サン (A Raisin in the Sun)」で同様に泣き崩れてそれに思わず共鳴させられたフィリシア・ラシャドを思い出した。二人共、それまではどちらかというと家族の柱として夫や息子の男性よりもしっかり者という感じで描かれていたものが、それまでピンと張っていたものが切れた瞬間に見せる感情の噴出に、思わずこちらまでつられるのだ。「ゴースト・ウィスパラー (Ghost Whisperer)」でジェニファー・ラヴ・ヒューイットがほとんど毎回お約束であの大きな目をうるうるさせるのとは違って意表をつかれるために、思わずこちらも気が動転してしまう。


ゲイの青年ボビーを演じるライアン・ケリーも悪くないが、やはりこの番組はウィーヴァーのものと言えよう。惜しむらくは、ウィーヴァーの熱演は一見の価値があり、ケリーも頑張っているとはいえども、全体として見た場合にまとまりが欠ける嫌いがあることだ。例えば、祖母、父ボブ、兄エドが忘れた頃に出てくるのではなく、もうちょっと話の展開に貢献できなかったかという気はしないでもない。


それでもウィーヴァーが今年のエミー賞のTV映画部門で主演女優賞にノミネートされるのはほぼ確実、と書こうとして、そういえば今年、またエミー賞のカテゴリーに大きな変動があるかもと言われているのを思い出した。近年、ライフタイムやホールマーク以外のほとんどのチャンネルがTV映画製作からほぼ撤退、絶対的番組数が減少していることに準じて、TV映画部門がなくなるというような話を聞いたような気がするのだが、そうするとこれらの番組に出演している俳優に上げる賞はどうなるのだろう。‥‥ まあいい、7月のエミー賞ノミネーション発表の時期が来たらわかることだ。その時まで焦らずに待つことにしよう。








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プレイヤーズ・フォー・ボビー   ★★1/2

 
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