ポーズ (Pose) 

放送局: FX   

プレミア放送日: 6/3/2018 (Sun) 21:00-22:30  

製作: カラー・フォース、ライアン・マーフィ・テレヴィジョン  

製作総指揮: ライアン・マーフィ、ブラッド・ファルチャク  

出演: エヴァン・ピーターズ (スタン・バワーズ)、ケイト・マーラ (パティ・バワーズ)、ジェイムズ・ヴァン・ダー・ビーク (マット・ブロムリー)、MJ・ロドリゲス (ブランカ・ロドリゲス-エヴァンジェリスタ)、ドミニク・ジャクソン (エレクトラ・アバンダンス)、インディヤ・ムーア (エンジェル・エヴァンジェリスタ)、ライアン・ジャマール・スウェイン (デイモン・リチャーズ-エヴァンジェリスタ) 

 

物語: 1987年。ニューヨークでハウス・オブ・アバンダンスに所属していたブランカは、常にママに抑えられていること、および自分自身のHIVポジティヴの検査結果を知り、一人立ちを決意する。ブランカはゲイということで家を勘当されてニューヨークの街頭で踊っていたデイモンをスカウトし、ブランカについてきたエンジェルらと共にハウス・オブ・エヴァンジェリスタを立ち上げ、活動を開始する‥‥ 


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Pose


ポーズ  ★★1/2

今年に入ってからだけでも、FOXの「9-1-1 (9-1-1)」、FXの「ジ・アサシネイション・オブ・ジャンニ・ヴェルサーチ (The Assassination of Gianni Versace: American Crime Story)」と話題作を連発するライアン・マーフィの新作が、「ポーズ」だ。 

 

彼のフィルモグラフィを見てもわかる通り、マーフィはゲイだが、それでも2016年の話題作「ザ・ピープル v. O. J. シンプソン (The People v. O. J. Simpson: American Crime Story)」までは、派手さはあっても、特にゲイだと意識させるものではなかったと思う。もしかしたらゲイにとっては明らかだったのかもしれないが、少なくとも私には感じとれなかった。 

 

しかし今年の3作を見ると、これはもう明らかにゲイ・カラー全開という感じだ。「9-1-1」では家庭を持つ中年黒人男性が、オレはゲイだとカミング・アウトして家庭に波紋を巻き起こし、「アサシネイション・オブ・ジャンニ・ヴェルサーチ」は、もちろんゲイの愛人に殺されたデザイナー、ジャンニ・ヴェルサーチのドキュドラマだ。そして今回の「ポーズ」は、1980年代、ニューヨークのアンダーグラウンドのゲイを中心としたボールルーム・カルチャーを描く。 

 

私にとってミュージック・ヴィデオとは、マイケル・ジャクソンの「スリラー (Thriller)」と、マドンナの「ヴォーグ (Vogue)」に止めを刺す。いまだにこの2本を超えるミュージック・ヴィデオは存在しない。正確には、この2本が登場した時ほどのインパクトを与えるミュージック・ヴィデオは、いまだに現れていない。世の中にはこういうダンスがあるんだ、こういう風に踊れる人がいるんだという目から鱗の興奮は、いまだに新鮮だ。そして今見ても、この2本のミュージック・ヴィデオは、やはり面白い。ついでに言うと前者を演出したのはジョン・ランディス、後者はデイヴィッド・フィンチャーだ。 

 

マイケルはともかくマドンナの「ヴォーグ」は、これまでこういうダンスがこの世にあるということをまったく知らなかっただけに、特に衝撃だった。番組の舞台設定は1980年代末、「ヴォーグ」がリリースされたのが1990年、その数年後には私も渡米する。わりと近い時期だが、そういうカルチャーに疎かった私はマドンナの「ヴォーグ」で満足してしまい、実は目と鼻の先で本物が夜な夜な踊っているというのに、特に見に行こうとは考えなかった。 

 

まあ、あれは実際の話、黒人ゲイ・カルチャーだから、誰か連れて行ってくれる黒人がいなければ、見たいと思っても見れるものではなかったろうとは思う。しかし、現実問題として、あれはあまりにも世界が違う話で、本気で実物を見たいとは、当時は本当に露ほども思わなかったのだ。 

 

当時住んでいたアパートの周りに、これは白人の中年男ではあるが、女性用のビキニを着て弛んだ腹を晒し、厚化粧で天下の往来を歩くという名物のおっさんがいた。こういうのは、現物を目の当たりにするとかなり引く。もっとシィークだろうとはいえ、かなり近い匂いのしそうな者が大勢集まっているに違いないそういう場所へは、やはり本気で行ってみようという気にはなれなかった。マドンナの「ヴォーグ」さえあればよかった。 

 

この時期のゲイ・カルチャーは、AIDSの蔓延と切っても切り離せない関係にある。AIDSはほぼゲイに特有の疾患であり、HIVポジティヴという検査結果は、当時は死の宣告に他ならなかった。ゲイであることは片足を棺桶に突っ込んでいるようなものであり、ヴォーグに代表されるゲイ・カルチャーの一種異様なきらびやかさは、死が身近であることと無縁だとは思えない。 

 

「ポーズ」の主人公と言えるブランカは、ゲイ、ではなくトランスジェンダーであり、もはや女性だ。HIVポジティヴが判明したブランカは、今後は人のため、人と一緒に行動するのではなく、自分自身のために生きようと、自身が主宰するハウス・オブ・エヴァンジェリスタを立ち上げる。そして自分が思うダンスで自分自身を世界に証明するのだ。 

 

という黒人ゲイ・カルチャーがテーマの「ポーズ」だが、もちろん黒人だけが登場するのではなく、白人も登場する。俳優としてはほとんど知っている者のいない黒人俳優に較べ、出演する白人俳優は、数が少なくても豪華だ。エンジェルの客になるスタンに扮するのは、先頃「アメリカン・アニマルズ (American Animals)」にも出ていたエヴァン・ピーターズで、その妻パティに扮するのはケイト・マーラ。スタンの上司マットに扮するのはジェイムズ・ヴァン・ダー・ビークと、他の番組では主演級の役者を惜しげもなく使っている。 

 

ところでスタンとマットが働いているのは、トランプ・タワーだ。ゲイ嫌いを隠そうともしないドナルド・トランプの下で働くスタンが、妻と子どもたちもいながら、黒人トランス売春婦のエンジェルの客になる。これって、絶対トランプに対する嫌がらせだよなと思うのだった。 

 











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