Planet of the Apes

Planet of the Apes 猿の惑星  (2001年8月)

ティム・バートン演出による「猿の惑星」のリメイクは先週から公開されているのだが、公開直後から、あのクライマックスがどうのこうのと周りがかまびすしい。TVをつけても新聞を読んでも雑誌を見ても知人と話してもそのことが話題となるので、これはとにかくいらぬところから知りたくもないクライマックスの内容を耳にする前に自分で見なくてはと、急いで劇場に駆けつけた。


製作の20世紀FOXはクライマックスの内容が公開前に漏れるのを怖れ、極端な秘密主義で撮影したそうで、公開前に出版されたノヴェライゼイションでも、最後の部分だけなんと白紙になっていたそうだ。公開後に刷った版からはその部分もきちんと活字になっているそうである。確かにオリジナルの「猿の惑星」のような衝撃的ラストが待っているのなら、見る前からそれを知りたくはない。問題は、本当にそのようなどんでん返しを用意できたのかということだ。


そしたら、こんな二流の結末だったことにびっくりした。まるで60年代TVの「ミステリー・ゾーン」を見ているような結末だ。いや、なにも「ミステリー・ゾーン」が二流といっているわけではない。しかしこのとってつけたようなエンディングには、最後の最後で呆気にとられた。それまでとにかく飽きさせずに見せてくれ、いつものノリとはちょっと違うとはいえさすがバートンと思っていたのに、これって、何かのジョーク? オリジナルを意識したのはよくわかるが、ジョークとしてもオマージュとしても皮肉としても全然利いてない。さすがにオリジナルを超えるアイディアは出なかったようだ。まあ、とにかく、確かに人がこのラストについてあれこれ言ってみたくなる気持ちはよくわかる。


でも、それ以外は私は結構楽しんだ。オープニングのほとんど虚仮おどしのような銅鑼をばあああーんと鳴らした音楽も、いかにもという感じで楽しいし、リック・ベイカーの手による猿人のメイキャップは見事の一語に尽きる。特に変に本人くさいヘレナ・ボナム・カーターのアリよりも、誰が演じているか最初に聞いてなければまったくわからないティム・ロスのセイドの方が圧倒的によい。あの凶悪な顔の造型は、果たしてベイカーのお手柄か、それともロスの実力か。マイケル・ダンカン・クラーク演じるゴリラ系のアターも悪くない。今回はただ猿っぽいというのではなく、チンパンジー系、ゴリラ系、マントヒヒ系等、様々な類人猿が登場してそれぞれに特徴を出しているのもうまい。


それにこれはベイカー本人がどこかのインタヴュウで言っていたのだが、今回は猿人の歯にも注目してくれとのこと。そうなのだ。猿に限らず、動物の威嚇はまず歯を剥くことから始まる。そこまで再現する特殊メイクに凝ったことで、セイドを筆頭とする悪役の猿に凄みが出てきた。そのため前回の「猿の惑星」に較べ、今回の猿人はより凶暴な印象を受ける。実際、前回の猿は銃器を使いこなしていたのに、今回の武器は主に刃物系で、戦闘でも肉体と肉体がぶつかり合うアクションが多い。ムキーっと言って空を跳躍して相手に襲いかかるというのが基本的なパターンなのだが、そういう戦闘能力は高いのに変に知力もあるので、結構怖い。それに鎧をつけた猿の軍団は本当に威嚇力充分で、こんな奴等と喧嘩なんかしたくない。


私は人間のヒロインのエステラ・ウォレン演じるデーナの父に扮するクリス・クリストファーソンが出てきた時、ああ、バートンはきっと本当ならこの役はチャールトン・ヘストンにやらせたかっただろうなあと思っていたら、そのヘストンがなんとセイドの父役の猿人として出てきたのには驚いた。30年前には人間のばか者めが、と罵っていたヘストンが、いつの間にやらサル化して、人間は実は結構知能が進んでいる、みたいなことを言っている。この部分のひねり方はいかにもバートンといった感じがして、思わずにんまりしてしまった。こういう先入観のずれという点では、ほとんどノー・メイクで猿役ができそうなマーク・ウォールバーグが人間の主人公という点も、バートン的でおかしい。バートンは絶対ウォールバーグの猿面を買って意識的に人間役に起用したに違いないが、そのことを果たして本人に言ったかどうかは謎だ。


ウォレンは先頃見た「ドリヴン」では演技ができずまったくの飾りだったのに、今回はほとんどセリフがない上、シンクロで鍛えた身体だけで勝負でき、その上得意の泳ぎまで披露する機会があるなど、儲け物の役。おかげで印象は悪くない。しかしこの間「トゥナイト」でゲスト出演していたのを見たら、身体が横に膨らもうとはち切れんばかりとの印象を受けた。私は水泳をする者に特有の広い撫で肩というのは魅力的だと思うのだが、彼女はほっておくと体重もすぐ増えそうだ。あれ以上体重が増えたら役のオファーも来なくなっちゃうよ。


今回最もバートン色が強かったのは、人間と猿人の種を超えた三角関係、四角関係ということになろう。こういう、絶対に成就があり得ない恋愛関係というのは、いかにもバートン好みの題材だ。しかし、この点に話を絞ればバートンにしか撮れないだろう稀代の恋愛ものになっただろうが、アクション大作として製作されている今回は、そういう方向だけに進むわけにもいかず、残念なような気もする。もしかしたらバートン版「マックス・モン・アムール」が見れたかも知れないのに。







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