Phone Booth


フォーン・ブース  (2003年4月)

またまたコリン・ファレル出演作である。実はこの映画、昨年11月に公開が予定されていたのだが、理由もなく主人公が射撃犯の標的にされるという内容が、折りからの連続無差別射撃事件で震え上がっていた全米市民に与える影響を考慮して、公開が延期になっていた。そのため「ザ・リクルート」「デアデビル」、そしてこの「フォーン・ブース」と、たった2か月の間に、ファレル出演作が3本も続けて公開されることになった。おかげで最近ただでさえファレルの株が上がっているのに、一挙にハリウッドの若手最注目株になった感がある。


エンタテインメント業界に関わりのあるスチュー (ファレル) は、羽振りのいい外面とは裏腹に、小心者で、妻のケリー (ラーダ・ミッチェル) の目を盗んでパメラ (ケイティ・ホルムズ) と浮気をする時は、自分の携帯から電話をするとどこに電話をしたかばれるため、わざわざ結婚指輪ははずしてフォーン・ブースから電話をしていた。ある時、スチューのいるそのブースに何者かが電話をかけてくる。何気に受話器をとったスチューは、その男が自分の素性を知っており、しかもどこかからライフルでスチューを狙っていると告げられる‥‥


「フォーン・ブース」はマンハッタンにたった一か所だけ残っている電話ボックスことフォーン・ブースを舞台にしている。映画は最初から最後までこのフォーン・ブースの周りで話が展開する。もちろんこの設定は嘘八百で、実際にはマンハッタンには既に路上のフォーン・ブースは存在しない。フォーン・ブースを1台設置するだけのスペースがあるなら、電話会社のヴェライゾンは、背中合わせに2台の電話を設置するだろう。それでもマンハッタンでは、その2台とも壊れて使えない可能性は非常に高く、しかも携帯が普及している現在、「フォーン・ブース」はこれ以上延期されたら、まるで現実味がないとしてお蔵入りになってしまったかもしれない (さすがにそんなもったいないことはしないか)。


冒頭のタイムズ・スクエアは実際に現地ロケしているが、フォーン・ブースがある53丁目に舞台が移ると、当然ながらそこはもう本当のニューヨークではなく、カナダかどこかのロケ地をマンハッタンに見立てて撮影している。最初から最後までタイムズ・スクエアで撮影したら、人件費やらなんやら高くつくし、なんといってもそんなに長い間交通をシャット・アウトするのは、当局が許可しなかっただろう。一昨年、「バニラ・スカイ」でたった半日間だけタイムズ・スクエアからすべての人間の人払いをしてみせたのですら、前人未到の偉業だといまだに語り継がれているくらいだ。


公開する順番が逆になってしまったため、この映画でのファレルは若く見える。特に「フォーン・ブース」の後に撮った「リクルート」、「デアデビル」と続けて見ているために、いきなり若返ったという印象がある。こないだデイヴィッド・レターマンの「レイト・ショウ」で映画宣伝のためにゲスト出演していたが、その今現在の顔を見た後では、さらに違うという感じがした。また、「フォーン・ブース」でも熱演しているが、「ザ・リクルート」の方が成長して演技がうまくなったという印象があるため、少なくともその点で、公開が後になったことでは損している。


たった一か所を舞台としてこれだけ盛り上げるのもなかなかなんだが、やはり、犯人にあれだけ追いつめられても、受話器を離さない主人公という設定に真実味があると感じるかどうかで、見る者の意見も分かれるだろう。私も、見ている間は面白いと思ったが、しかし、よく考えてみると、あそこまで律義に犯人の指示を聞くことはなかっただろうにと思えてしょうがない。いくらライフルで狙っていると驚かせられても、あそこまで追いつめられたら走って逃げると思うし、動く被写体をライフルで撃ち抜くのは、ゴルゴ13だって至難の業だ。


もちろんスチューが逃げられないわけはそれだけではなくて、スチューの行動をすべてを把握している犯人によって、今電話を切ったらおまえの浮気を全部ばらしてしまうぞ、とか脅されていることもある。後の方では現場にやってきたケリーとパメラまで狙われてしまうし。しかし、それでもなあ。そういうふうに手遅れになる前に走って逃げろよ、おまえ、と思ってもしまうのだが。


最後にちょい顔を見せる他はほぼ全編声だけの出演になるのが、犯人役のキーファー・サザーランドで、彼は今、FOXの人気TVドラマ「24」で、アメリカをテロリストの脅威から救うために、24時間寝ないで頑張っている。それがここでは知能的な狙撃犯で、しかも彼の声って、こうやって聞くとシルキーで、なかなかいい。一方で正義の味方、一方では血も涙もない狙撃犯と、芸幅の広いところを見せる。最後にスクリーンに登場する時も、「24」とは20は歳が違うような姿形だ。


考えたら、「24」のサザーランド、「ドーソンズ・クリーク」のケイティ・ホルムズに加え、スチュー説得に当たる刑事役のフォレスト・ウィテカーは、現在UPNの「トワイライト・ゾーン」のホストを担当しているなど、出演者のほとんどは現在アメリカTV界で働いている。ケリー役のラーダ・ミッチェルもどこかで見たことがあると思って調べてみたら、一昨年、NBCが放送したTVミニシリーズの「アップライジング」に出ていた。多分出演者でほとんどTVに出ていないのは、主演のファレルだけだろう。


監督のジョエル・シューマッカーは、前作の「9デイズ (Bad Company)」があまりにも冗長で杜撰なできだっただけに心配だったのだが、ここではコンパクトにまとめている。多分、「9デイズ」の二の舞いはできないと思ったのだろう、少しでもたるんでいると思われるところは切りまくったようで、結果としてこの映画、長大化傾向のある最近の作品には珍しく、なんと上映時間は80分である。先週「ドリームキャッチャー」を見に行ったら、予想もしなかった「マトリックス」の新作に合わせた15分の予告短編を見せられて、劇場に入ってから出るまで3時間もかかったのに、今回は予告編も含めて100分で劇場から出てきてしまった。それはそれでなかなか得難い経験だったが。



追記:

上でマンハッタンには既にフォーン・ブースはないと書いたが、実はそれは誤りで、こないだ情報誌の「タイム・アウトNY」を読んでいたら、マンハッタンにはまだ数か所だがフォーン・ブースは残っているのだそうだ。ただし、それらはすべて西の外れのハドソン川に面したウエスト・エンド・アヴェニュー沿いにあるそうで、ということは、はっきり言ってその辺に住んでいる人間以外、見たことも聞いたこともない者の方が多いだろう。もしかしたら新しいニューヨークの名所に‥‥なるわけないか。







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