Pan


PAN ネバーランド、夢のはじまり  (2015年10月)

もうピーター・パンとは縁遠いおっさんになって久しい。だいたい、空を飛ぶ能力というのはともかく、成長せず大人にならない少年という後ろ向きの視点は、はっきり言って嫌いだ。とまあ、そのようなことを既に10年以上も前に「ネバーランド (Finding Neverland)」でも書いている。


昨冬、NBCのミュージカル版「ピーター・パン・ライヴ! (Peter Pan Live!)」のライヴ放送を見た時も、ピーター・パンという題材より、生中継ミュージカルという媒体の方に興味を惹かれたという点が大きかった。生放送でどうやってピーターを飛ばすのか、吊り紐を画面上で消すのか、あるいは元々細くて見えないものなのか、それとも最初から見えることを気にしてないのか、と、そういう点が気にかかった。というか、本当の興味は歌って踊るフック船長に扮したクリストファー・ウォーケンにあったというのが正しく、実はそれ以外のシーンはもうほとんど覚えていない。


それなのになんでこれ見に行くかなあ、と自分で自分に突っ込みながら劇場に足を運ぶ。他に見たい作品が混んでいそうなので来週以降に回すという理由もあるが、今ピーター・パンを実写で製作したらどうなるんだろうという興味も確かにないではなく、それよりも、パンがパンになった本当の理由、という映画のキャッチ・コピーにうまく乗せられたというのが、最も正しい理由だろう。確かに、その辺は気になるところなのだ。


生まれてきたからには種を問わず生命は成長せざるを得ず、成体になり、歳をとり、老いて死んで行く。唯一の例外がゾンビで、ゾンビだけは歳をとらない。とはいってもゾンビが生命体かどうかは微妙なところで、ちょっとグレイ・ゾーンだ。とはいっても、生命というのは、死ぬことが前提としてあって、初めて生きていると言える。もし不死なら、生きているという形容自体が不要であり、不死という概念自体なくなるだろう。


要するに、成長しないピーター・パンは、ゾンビと同じように寓意としてしか存在しない。ゾンビが存在の不安、未来への警鐘、人種間の軋轢の結果として登場したのと似たような形で、ピーター・パンはジェイムズ・バリーの現実生活からの逃避の手段として世に現れた。とはいえ、存在しているからには誕生を経験しているはずであり、親もいるはずだ。


というわけで、映画は冒頭、なんらかの事情によってロンドンの孤児院の前に置き去りにされたピーターの描写から始まる。やはり母親はいて、ピーターにも赤ん坊時代があった。


人間界で捨て子として孤児院で育ったピーターは、ある時、空飛ぶ海賊船にさらわれ、ネヴァーランドに連れて行かれる。そこではロスト・ボーイたちがフェアリー・ダストを発掘するためにこき使われていた。このシーンでいきなり、バックにニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット (Smells Like Teen Spirit)」が流れる。正直言ってこの映画で最も印象に残ったのは、よくも悪くもこの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」なのだった。


こういう時代物的な設定の作品で、現在 (とは言えないかもしれないが) のヒット曲を使う効果は大きい。いいか悪いかではなく、大きい。ショック効果がある。これまた映画のよし悪しではなく、中世ヨーロッパを舞台とした「ロック・ユー! (A Knight’s Tale)」において、クイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー (We Will Rock You)」が使われたシーンだけを鮮明に覚えているようなものだ。「パン」においては、ロスト・ボーイたちがこき使われているシーンで「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」が使われているのは、曲とシーンがマッチしていると言えなくもなく、当然作り手もそう考えたから使用したのだろうが、おかげで印象は強烈だ。それにしてもニルヴァーナか。


その採掘場の責任者は、フック船長ではなく、黒ひげだ。いったい全体、黒ひげってなんだ。そんなキャラクター、知らんぞ、私は。あれは現実の海賊であって、フック船長とは関係ないだろ。しかもそのフックは、ピーター・パンの仇敵である片目片腕片足のフック船長ではなく、五体満足でピーター・パンを助けている。ということは、フックは今後なんらかのきっかけによって片腕片足を失い、ピーターと敵対するということで、要するにそれを描く布石を置いといたということだろう。とすると、当然、続編製作を視野に入れているものと思われる。‥‥と思ってちょっと調べてみると、オリジナルの話では、フック船長の腕は、ピーター・パンが冗談半分で切り落としたということになっていた。なんだ、それ。ピーターの方がよほど悪役じゃないか。


それに、ティンカー・ベルはどうした。ウェンディは? 彼女らも当然次作に出てくるのだろう。ピーターだって、空を飛べる理由はなんとなくわかったような気はするが、しかし、なぜ成長が止まったか、あるいは止めたかという理由付けはなかった。やはりこれも次作への布石か。どうやらシリーズ化を狙っているのは確からしい。結局、なぜパンがパンになったのかなんて、半分以上わからないままだ。子供らの夢を体現しているはずの「ピーター・パン」が、大人の夢の金持ちになるための道具になってないか。











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ピーターは孤児で、ある冬の夜、孤児院の前に捨てられていた。成長して少年になったピーター (リーヴァイ・ミラー) はある時、夜空に現れた海賊船にとらえられ、ネヴァーランドに連れて行かれる。そこではさらわれてきた子供たちが、フェアリー・ダストを発掘するために強制的に労働させられていた。そこで揉め事を起こしたピーターは、首領の黒ひげ (ヒュー・ジャックマン) によって空中に浮かぶ桟橋に立たされる。そこから落ちてしまったピーターは、一巻の終わりと思いきや、一瞬宙に浮かんで空を飛ぶ。ピーターはその後、フック (ギャレット・ヘドランド) と共に黒ひげの元を逃げ出し、ネヴァーランドの奥深くへと足を踏み入れる。ピーターはそこでタイガー・リリィ (ルーニー・マラ) らと出会い、ピーターの母メアリ (アマンダ・サイフリッド) がネヴァーランドの住人だったことを知る‥‥


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