初日を終わった時点で、私の目には6アンダーで首位に立ったタイガー・ウッズの優勝は間違いないものに見えた。同じ6アンダーで同率首位のスコット・ダンラップはツアー未勝利で、いつだったか優勝をほとんど手中に収めたトーナメントで最終日最終ホールで崩れたシーンを目の当たりにしているので、早ければ2日目ですぐに消えていくものと思っていた。ところが頑張る頑張る。全米プロはこれまでにもツアー初優勝がこの全米プロというのが多い。ダンラップは2日目が終わった時点でも11アンダーで首位のウッズに1打差の10アンダー。しかしいくらなんでもウッズと一緒に最終組で回る3日目には崩れるだろうと思っていた。手だれのツアー・ヴェテランでもウッズと一緒に回ると圧倒されて調子が出ないまま崩れていくことが多いというのに、なかんずくツアー未勝利のゴルファーがウッズと対等に回れるとは到底思えない。


しかし、絶対敗けないと決心しているのか、3日目、ダンラップはウッズと一緒でも崩れない。60台で回るゴルファーが多い中、ウッズ、ダンラップ共に70と本調子ではないのだが、それでもウッズは13アンダーで首位をキープし、ダンラップも1打差でボブ・メイと共に2位に治まる。しかしダンラップの頑張りもここまで。ついに最終日に崩れて消えていくのだが、ここでまたもや意外な展開になったのが、最終日最終組でウッズと一緒にラウンドしたメイ。メイもダンラップ同様ツアー未勝利なのだが、そのメイが最終日、ウッズ以上に調子がいい。対するウッズは、3日目に続き、最終日も今一つのでき。ウッズは安牌のはずの第2番パー5でまさかのボギーを叩き、気がつけばメイがウッズに2打差をつけてトップに立っている。ひぇー、まさか、こんなのあり?本当にまたツアー未勝利のゴルファーが全米プロを勝っちゃうってことになっちゃうわけ?と心は騒ぐ。


しかしもちろん、ウッズはこのまま引き下がらない。アウトの9が嘘のようにインに入ると要所要所を決め出す。しかし好調のメイも敗けじとバーディ・ラッシュ。ウッズが追いつくとメイがまた引き離すという展開で、勝負はメイが1打リードして17番パー4へ。メイはここでティ・ショットをラフに打ち込んでしまい、パー・セーヴがやっと。一方、ウッズは完璧なドライヴァー、絶妙の第2打でピンそば4フィートにつけてバーディをもぎ取り、17アンダーでまたもやメイと並ぶ。迎えた18番パー5は、二人共第2打をグリーンに乗せるが、遠い方のメイが先にパット、プレッシャー・パットは方向、強さとも揃わず、ほとんどグリーン・オーヴァー寸前で止まり、15フィートを残す。ウッズのパットも難しく、結局これも読み違いに見えたが、しかし一応5フィートと、メイの内側につける。完全にウッズ有利。


しかしメイは、この一生に一度のパット、下りの滅茶速いパットを完全に読み切り、打った瞬間は完全にショートと思われたボールが、右に、左に、2度ブレイクした後、ゆるゆると転がりながら信じられないことにカップに沈む。ギャラリーの大歓声。今度はやはり下りの速いパットを残すウッズにプレッシャーがかかる。うひゃあ、見る方も手の平に汗が滲む。ウッズが丁寧に時間をかけてラインを読んで打ったパットは、これも見事にカップに沈み、久し振りに見たウッズの本気のガッツ・ポーズ。最近いつも大差で勝ってたから、ウッズのガッツ・ポーズを見る機会なんてほとんどなかったことに気がついた。しかしメイジャーなんだからさ、やっぱりこのくらいのドラマは演出してもらわないと。惜しむらくはウッズとメイじゃなくて、ウッズとデュヴォールかミッケルソンあたりの死闘を見てみたかったとは思うが、しょうがない。つまるところ勝負が面白ければいいのだ。結局ウッズとメイはインを31で回り、この二人についてこれる者はいなかった。バック9は完全に二人のマッチ・プレイだったな。


16、17、18番で演じられたプレイオフは流石に二人共緊張の糸が切れたのか、ティ・ショットがフェアウェイをキープしたのはウッズの16番のティ・ショットだけだった。この16番でドライヴァーをラフに入れたメイは、2打目がグリーン手前の深いラフに。既にボールがグリーンに乗っているウッズを横目に打った第3打は、転がり続けてなんとピンそば10インチにつける。しかしウッズはこのスーパーショットに答え、ここでプレイオフで最初で最後のバーディを奪う。そしてその1ストロークのリードを守りきって優勝したわけだが、いや、17番も18番も見所たっぷりだった。17番のピンそば2フィートにつけたメイのバンカー・ショットも見事だったが、しかし、雌雄を決したウッズの18番でのピンそば1フィートに寄せた第4打目のバンカー・ショットは、いや、もう、ただ見事。


これでウッズはメイジャー3連勝。これはあのジャック・ニウラウスですら成し遂げ得なかった記録であり、1シーズンでのメイジャー3勝は53年のベン・ホーガン以来。その上これでウッズは全メイジャーでのロウ・スコアの記録も打ち立てた。脱帽である。しかし今回思ったのだが、最もエキサイティングなゴルフというのは、ウッズがリードしている時ではなく、追い上げる時に起こる。96年に6ダウンをひっくり返して3度目の全米アマチュアを制した時然り、勝ちはしなかったが昨年の全米オープン然り、今年のAT&Tペブル・ビーチもまた然り。今回はその極めつけだった。いや、本当に素晴らしいゲームを見せてもらった。







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82回全米プロ選手権

2000年8月17-20日   ★★★★

ケンタッキー州ルイヴィル、ヴァルハラ・ゴルフ・クラブ

 
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