Overlord
オーヴァーロード (2018年11月)
これまたなんともけったいな映画が、「オーヴァーロード」だ。これまで一度も予告編を見たこともなければタイトルを耳にしたことがないのにもかかわらず、公開初週の興行成績が、同日公開の「蜘蛛の巣を払う女 (The Girl in the Spider’s Web)」よりいい。実際の話、先週見た「蜘蛛の巣を払う女」があまりにも酷評されていた上に、劇場に見に来てたのが私を含めたった二人だけだったので興行成績が気になって、ニューズでやっていた週末の興行成績のコーナーを見てなければ、「オーヴァーロード」はまったく私の目に留まらなかったと思う。
しかし、私見ではそれなりに見どころがあり、結構宣伝もされていた「蜘蛛の巣を払う女」より、「オーヴァーロード」の方が興行成績がいい。しかしなんか、これ、一瞬だけちら見させられただけでは内容がよくわからない。戦争アクション・ホラーみたいな紹介のされ方をしており、もうハロウィーンも過ぎて久しいが、なんとなく興味が湧いてきた。
端的に言うと、「オーヴァーロード」は人体実験ホラーだ。要するにフランケンシュタインだ。第二次大戦末期、劣勢に立たされたドイツが一発逆転を期して、絶対に死なない負けない超人の創造に注力する。こんな話、聞いたことがあるなと思って、思い出した。FOXのトンデモ・アニメーション「アックス・コップ (Axe Cop)」にほとんど同じ話があった。5歳の子が考えたというバカミス系アニメと同じ話か。
他にも、考えたら「ヴェノム (Venom)」も多かれ少なかれ似たような話だったし、「デッドプール (Deadpool)」とか「X-メン (X-Men)」とか、マーヴェルのスーパーヒーローものは人体実験改造でスーパーパワーを手に入れたという設定が多い。それが終戦間際のドイツを舞台にすると、いきなり危ない、もしくはなんでもありの雰囲気がそこかしこに漂って、スーパーヒーローものではなく、ホラーになる。
これが同じ敗戦国でもイタリアを舞台とするとあまりホラーって感じにならないし、日本を舞台にしても、まあ731部隊のようなものはありはしたが、たぶん国が焼け野原になってしまったせいか、悲惨な印象はあってもおどろおどろしいという感じにはあまりならない。ドイツだと俄然ホラー感が高まるのは、ヒトラーがかなり本気でこんな事やっていそうだという先入観があるからか。
「オーヴァーロード」はこのようにホラーではあるが、戦争アクション映画でもある。相手が半分異常な怪物と化している点を除けば、ナチ占領下で苦しむ村の人々を開放して、占拠されて司令塔となっていた教会の尖塔を破壊するという、オーソドックスな戦争アクションの体裁を持っている。パイロット部隊内での仲間同士の確執や友情や成長も描き、助けるべき女性ヒロインもいる。特にほぼ紅一点のクロイに扮するマチルド・オリヴィエは儲け役。
で、実際、「オーヴァーロード」は戦争ホラー・アクションとしか言いようがないテイストに仕上がっており、B級ホラーとしてほとんど唯一無二の味がある。よくこれをホラー映画として製作しようというアイディアが生まれたものだ。あるいは実話を基にしているとか?
主人公のボイスに扮するジョヴァン・アデポは、デンゼル・ワシントン監督主演の「フェンス (Fences)」で、ワシントンの息子を演じていた。ダーレン・アロノフスキーの「マザー! (Mother!)」にも出ているそうだが、そちらの方はまったく記憶にない。翳のある部隊長的なフォードに扮するワイアット・ラッセルは、現在USAのオフ・ビート・コメディの「ロッジ49 (Lodge 49)」で、年中ラリっているような主人公を演じている。役柄が180°違う。
演出のジュリアス・エイヴリーは初耳だったが、製作総指揮がJ.J.エイブラムスで、道理でと思った。あそこまで劇的だったわけではないが、「オーヴァーロード」はかつてホラーSFの「クローバーフィールド/HAKAISHA (Cloverfield)」が何もないところからいきなり現れて話題を独占したのと似たような登場の仕方をしている。エイヴラムスにはTVに超常SFホラーの「ロスト (Lost)」(ABC) みたいな番組もある。ホラーが好きなんだろう。
第二次大戦末期、ドイツは連合軍に圧されて降伏も間近に見えたが、それでもしぶとく抵抗を続けていた。アメリカ軍は、ドイツがフランスで支配して要塞化している教会の放送塔を破壊するべく、パラシュート部隊を送り込む。地元の女性の家に隠れ、彼女の手引きで教会内部に忍び込むことに成功した兵士たちは、そこでドイツ軍が神をも恐れぬ人体実験を試みているのを発見する‥‥
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