最初に断っておかなければならないが、実は最後の「アラ・カチュー -  テイク・アンド・ラン」は未見だ。今年も昨年同様、ストリーミングで視聴できる作品から漸次見ていた。「ザ・ロング・グッドバイ」と「オン・マイ・マインド」はYouTubeで無料で見れるし、「プリーズ・ホールド」と「ザ・ドレス」はHBO Maxが提供していた。 

 

しかし、「アラ・カチュー」だけは見るチャンスがない。劇場に行けば5本全部まとめて見れたのだが、まだその勇気がなく、ついでに家見の楽さが最近気に入っているのもあって、ストリーミングで見れるだろうと思っていたら、いっかなそのチャンスがない。もうちょっと待てば、どっかのストリーミングがたぶん5本まとめて提供するだろうと思うが、いつになるかはわからない。 

 

見た4本の中では「プリーズ・ホールド」だけがコメディであとはシリアスなドラマなのだが、そのコメディですらブラックなタッチで、未来が不安になる。「ザ・ロング・グッドバイ」と「ザ・ドレス」は共に未来なしという気分にさせてくれ、暗くなる。これが今という時代なのか。 

 

実際のオスカーでも短編賞を獲った「ザ・ロング・グッドバイ」は、英国に住む、南アジア系移民の家族が、突然の極右の乱入により撃たれ、暴行を受けるという内容なのだが、最初極右から攻撃されているように見えたものが、後から警察からも暴行を受けているようにも見えた。現在ではヴェテラン俳優の仲間入りをしているリズ・アーメッド主演で、彼が発表したアルバムを基にしているそうだ。パンデミック以降、アメリカでは人種差別や不寛容が横行しているが、どうやらそれは英国でも同じらしい。 

 

「ザ・ドレス」はポーランドの片田舎のモーテルで働く小人の女性が主人公で、障害を持つ女性を、これでもかというくらいどツボにハマらせて容赦ない。何もそこまでしなくてもと、見ているこちらまで本気で暗くなる。 

 

「オン・マイ・マインド」は、デンマークのバーでどうしても「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」を歌いたがる男を描く。最後には彼がここまでカラオケに固執した理由が明らかになる。悲しい話なのだが、それでも今回の作品群の中にあっては、まだ人類の将来に希望が持てる。 

 

SFコメディの「プリーズ・ホールド」は、極端に社会が自動化された近未来アメリカで誤って収監された男を描く。実際にアメリカに住んでいると、これだけITやAIが進んだ社会で、なんでこんな簡単なことができないのかと思わされることが多々ある。ある意味、将来あり得そうな話と思えないこともなく、これまた将来に対してペシミスティックな気分になる。「アラ・カチュー」も筋だけを読むと明るい話ではなさそうなのだが、最後は前向きに終わってくれていることを祈りたい気分だ。 

 

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「ザ・ロング・グッド・バイ (The Long Goodbye)」アネイル・カリア監督 (英国/オランダ) 12 min 

英国に住む南アジア系の家族が、結婚式の準備をしていた。近くを極右の団体がデモしており、不穏な空気が流れてくる‥‥ 

 

「プリーズ・ホールド (Please Hold)」KD・ダヴィラ監督 (アメリカ) 19 min 

近未来、デリヴァリの仕事の途中の男が、行政のドローンに止められ、そのまま収監される。何かの間違いであることを必死に訴える男だったが、近くに生身の人間は一人もいず‥‥ 

 

「オン・マイ・マインド (On my Mind)」マーティン・ストレンジ-ハンセン監督 (デンマーク) 18 min 

とあるバーに一人の男が入ってくる。男はカラオケを見つけると、執拗に一曲だけ歌わせてくれと懇願してくるのだった‥‥ 

 

「ザ・ドレス (The Dress)」タデウス・リシアク監督 (ポーランド) 30 min 

モーテルの従業員として働く小人の女性に、トラック・ドライヴァーが声をかける。ほとんど男性と付き合う機会のなかった女性は、同僚が用意してくれたドレスを着てデートに出かける‥‥ 

 

「アラ・カチュー - テイク・アンド・ラン (Ala Kachuu - Take and Run)」マリア・ブレンドル監督 (キルギス) 38 min 

ある女性が突然押し入った男たちに拉致され、ある男との結婚を強要される。  

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