Dance in America: NY Export: Opus Jazz   ニューヨーク・エキスポート: オーパス・ジャズ

放送局: PBS

プレミア放送日: 3/24/2010 (Wed) 22:00-23:00

監督: ヘンリー・ジュースト、ジョディ・リー・ライプス

音楽: ロバート・プリンス

振り付け: ジェローム・ロビンズ

出演: エレン・バー、ショーン・スオジ、他


内容: ジェローム・ロビンズ振り付け、ニューヨーク・シティ・バレエによるダンス・パフォーマンス。


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公共放送のPBSには、あまり視聴率は稼げそうもない、しかし根強いファンのいるアートのパフォーマンス系番組がいくつかある。ジャンルにこだわらない「グレイト・パフォーマンスズ (Great Performances)」、クラシック/オペラでは、マンハッタンのリンカーン・センターからのパフォーマンスを中継する「ライヴ・フロム・リンカーン・センター (Live from Lincoln Center)」等だ。


これを見ていないと現在のドキュメンタリー界の流れについていけない「P.O.V.」と「インデペンデント・レンズ (Independent Lens)」シリーズ以外では、PBS番組を特に押さえているわけではないので、この種のパフォーマンス番組に特に詳しいわけではないのだが、しかし、時々おっと思わされる印象的なパフォーマンスの放送やライヴ中継をしていることも事実だ。


この「オーパス・ジャズ」も、事前によく知っていたわけではなく、ほとんどたまたま気が向いたので見てみたというのが正直なところだ。ダンスは見るのは好きだが、どちらかというとバレエとかではなく、マイケル・ジャクソンとかFOXの「アメリカン・ダンスアイドル (So You Think You Can Dance)」のような、主としてダンス・ミュージックやモダン系が趣味で、クラシックとはあまり縁がない。


「オーパス・ジャズ」はニューヨークの屋外で、ニューヨークの街並みを背景としてダンサーを踊らせるという試みで、故ジェローム・ロビンズが振り付けを担当したダンス・パフォーマンスということで気になった。ロビンズといえば、これは誰が考えてもまず第一に思い出すのは、映画「ウエストサイド物語 (West Side Story)」になるのは間違いあるまい。


「ウエストサイド物語」は、ニューヨークという街が第2の主人公と言ってもよく、多くはセット撮影であるとはいえ、ニューヨークのエネルギーを感じさせるロバート・ワイズの演出は、作品と街を切っても切れない関係で結びつけた。「ウエストサイド物語」が、ニューヨークという街に対して人々が持っている印象を形作る上で与えた影響は、小さくないものがある。


「ウエストサイド物語」は1961年作品だが、自身でもその振り付けに当たってインスピレイションを受けたのだろう、ロビンズは1963年に再度、今度はTV番組としてニューヨークを題材にダンサーたちが踊る作品、「オーパス・ジャズ」を発表する。これは「エド・サリヴァン・ショウ (Ed Sullivan Show)」の中で放送され、大きな反響を呼んだそうだ。アブストラクトな背景をバックにダンサーたちが踊るもので、スタジオ内での撮影だ。それを今回、実際にニューヨークの本物の街並みを背景に再構成したのが、本「ニューヨーク・エキスポート: オーパス・ジャズ」だ。


タイトルにジャズという単語があることからもわかる通り、音楽はジャジーなテイストを強く持っているが、ダンサーたちはニューヨーク・シティ・バレエのクラシック畑のダンサーたちだ。ダンス自体もモダン、アフリカン、ジャズといった要素を盛り込んでいる。一方、オリジナルは既に40年近く前に発表されており、いくら現代のダンサーが踊るといっても、コレオグラフィ自体が古びていないか気になるところではある。






















番組は冒頭、ニューヨークの様々な場所に集う若者たちを点描するというシーンから始まる。コニー・アイランドの海沿い、ルーズベルト島に向かうケーブル・カー等をバックにNYのあちこちにいる若者たちが、三々五々バスやタクシー、サブウェイ、自転車や徒歩で、とある寂れた広場に集まってくる。音楽もセリフも絡まない、冒頭の若者たちの描き方で既にセンスを感じさせる。構図に細心の注意を払った映像は、SF、特に近未来SFみたいで、大昔に見ただけのクリス・マルケルの「ラ・ジュテ (La Jetee)」をいきなり思い出した。あんな感じなのだ。


そこからダンスとなるわけだが、考えたら今なお「ウエストサイド物語」が古びてないように、同じくロビンズが担当した「オーパス・ジャズ」のコレオグラフィも古びるわけがなかった。バレエが常に新しいダンサーを得て新しい息吹きを盛り返すように、「オーパス・ジャズ」も復活したと言える。


番組はいくつかのセッティング/シーンに分かれ、そこで踊るダンサーたちをとらえる。冒頭のダンス・シークエンスに使われる広場はイースト・リヴァーだかハドソン・リヴァーだかの川沿いにあるものと思われる。入り口の門がなんか東洋っぽく、かなり中国風に見えなくないこともない。感じとしては紫禁城前の広場で踊っているようで、やはり外で踊るのは劇場やセット、スタジオで踊るのとはわけが違う。紫禁城前広場でジャズ・ダンスの群舞は面白かろう、なんて思わせる。


次に踊るのはどこかの高層ビルの建築現場のようなところだ。さらに体育館、そしてたぶん、現在、新名所ハイ・ラインとして生まれ変わった高架鉄道が、公園として整備される前の雑草だらけの荒れ地でのペアのダンスがある。このペア・ダンスは、暮れゆく夕陽を背景にほとんど1シーン1ショットで撮られており、これまた印象的。


1シーン1ショット撮影というのは、ドラマだろうがドキュメンタリーだろうが、舞台撮影でなければダンスだって印象的なものだが、特に今回は今まさに地平から沈もうとしている夕陽が背景ということで、日中、念入りにリハーサルした後での一発勝負の撮影だったに違いない。失敗したら翌日まで撮影のチャンスはめぐってこないし、翌日また晴れるという保証はどこにもない。あるいは既に前日雨が降ったために今日が予備日を入れた最後のチャンスだったかもしれないのだ。その上、さらに失敗の確率が高いダンスだ。撮る方も撮られる方も緊張するだろう。あるいは何千何万回とダンスを踊ってきたダンサーたちにとっては、こんなのお茶の子さいさいか。


しかもこのショット、当然ステディ・カム撮影で撮る方も移動しながら撮っていると思うのだが、それが途中からいきなりカメラが上に上がって俯瞰撮影になった。なんてこった。クレーンまで用意していたのか。ただし、1シーン1ショットでカメラが移動して上に上がって下に下がって、おおすげえ、なんて思わせるのに、最後の最後でカメラが切り換わる。意図的なものか突発的な何かが起こったのか。もったいないと思うのだった。


最後のシークエンスは、劇場の中のステージの上で踊る。番組として、ほぼ不可能だろうとは思うが、これができたら最高なのにと思ってしまうのが、実際のマンハッタンのストリート上でのダンスだ。特にタイムズ・スクエアのような観光客がいっぱいで人あしらいが不可能なような場所で群舞できたら、むしろ何かハプニングがあって面白いものが撮れたと思うが、しかし、今回はそこまでは凝っていない。だいたい、マンハッタンの中心部からは外れた、人のいない場所で撮っている。


それでもいかにもNY的な雰囲気を感じさせるのはさすがと言えるが、しかし、今度こそ「ウエストサイド物語」をセットではなく、ストリートでやるチャンスだったのに、と思う。「ウエストサイド物語」+「フェーム (Fame)」だ。


NBCのスケッチ・コメディ・ショウ「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」では、よくスケッチの一環でストリートでミュージカル紛いのことをしているし、タイムズ・スクエアだけに絞っても、そこで撮られた映画は数知れない。タイムズ・スクエアで1シーン1ショットの群舞はさすがに不可能だと思うが、要するにやってやれないことはない。しかし、そこまでの猥雑さはロビンズの、あるいは今回の作り手の本意ではなかったかもしれない。


だいたい、ダンス・シーンに限らず、ほぼ全編にわたって巧妙にダンサー以外の人物が構図に入ってくるのを避けようとしている意図が感ぜられる。見せたいのはダンスだからそれもわかる。バックで人がちょろちょろしていたらうざいだけだろう。だから自然NYとはいえ、人のいない廃墟紛いの背景が多くなり、おかげでSFくさくなった。人が前面に現れてくるのは、ダンス・パフォーマンスが終わった後の、最後のエピローグのような部分だけだ。ロビンズ振り付けの、ニューヨーク・シティ・バレエ・ダンサーによるジャズ・ダンスの40年ぶりのリメイク。それはそれでSFでもむろん面白い。








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ニューヨーク・エキスポート: オーパス・ジャズ   ★★★

 
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