放送局: ショウタイム

プレミア放送日: 3/5/2005 (Sat) 21:00-22:30

製作: トール・ポニー・プロダクションズ、ショウタイム・ネットワークス、ファスト・ペイス

製作総指揮: アッシャー、ジョネッタ・パットン、ジェイ・ラーキン

製作: アンソニー・イートン、ジョック・マクリーン

監督: ハーミッシュ・ハミルトン

出演: アッシャー、ルダクロス、ビヨンセ、他


内容: 2005年3月5日にプエルト・リコ、サン・ファン、コリセオ・デ・プエルト・リコで行われたアッシャーのコンサートの生中継。

曲目: Yeah!, Burn, You Make Me Wanna, U Remind Me, 他。


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マイケル・ジャクソンがそう遠くないうちに獄中の人物になることがほとんど避けられない事態になってきたと思える現在、アメリカを代表するポップ・スターといえば、既にもうマイケルではなくアッシャーのことを指すのは、たぶんもう充分のコンセンサスを得ている既成事実と言っていいだろう。


実際、最近のアッシャーは出す新曲がすべてチャートを登りつめ、アルバムはミリオン・セラー、あらゆる音楽賞での賞の独占振りは、もう、どうせまた次もアッシャーがとるんだろ、意外性なくてつまらないというくらいのレヴェルに達していた。それでも私が毎回根気よくTVで中継される音楽アウォーズにチャンネルを合わせていたのは、とりもなおさず、彼のダンスが見たかったからである。


今が旬のアーティストだから、その手の音楽アウォーズになると、ほぼ必ずアッシャーはゲスト・パフォーマンスも依頼される。ほとんどそれだけが見たいために、私は2時間、3時間のTV中継に付き合っていたと言っても過言ではない。「アメリカン・ミュージック・アウォーズ」、「ビルボード・ミュージック・アウォーズ」、「ソウル・ミュージック・アウォーズ」、「MTVミュージック・アウォーズ」、さらにはもっと小さな音楽賞中継から、その種の祭典としては最大のグラミーまで、ながら視聴とはいえ飽きもせず毎回それらのアウォーズ中継をチェックしていたのは、またアッシャーのあのダンスが見れるかもしれないというのが最大の理由だった。


ただそのためだけに各種アウォーズ中継をチェックしていたと言っても過言でないから、アッシャーが出ていない、あるいは歌わないと知った時は結構がっかりする。そしてそれよりもがっくりくるのが、パフォーマンスはするくせにそれがバラッドであったりデュエットであったりしてダンスが伴わない時だ。「アメリカン・ミュージック・アウォーズ」で、やっと出てきて踊るかと思ったらそれがアリシア・キーズとのバラッドのデュエットで、もちろんキーズだって一流のシンガーだからその歌を聴く分には文句はないが、しかしそのためにアッシャーが踊らないのだったら、デュエットなんてしなくていいと思ってしまった。実際、キーズなんてもう少しで歌の出だしを間違えるところで、一流どころのパフォーマンスをはらはらしながらなんて見たかない。素人の「アメリカン・アイドル」じゃないんだからさ。こっちが見たいのはプロのパフォーマンスなんだよ。


だいたい、普段一緒に活動しているわけでもないアーティスト同士が、デュエットやら、大勢で一緒に歌うというようなパフォーマンスになると、それぞれが忙しいアーティスト同士が、せいぜい2、3回くらいしか合わせていないのがありありとわかるやっつけ仕事を露呈してしまう場合がほとんどで、これだけはどんなに一流同士でも変わらない。グラミーで津波被害者援助を呼びかかけるために大勢のアーティストがビートルズの「アクロス・ジ・ユニヴァース」を歌った時は、思わず、わかった、寄付するから頼むからやめてくれと本気で思った。せめてあと何回かは合わせて、一つの曲としてまとまりをつけて欲しい。あのメンツであんな程度の歌を聴かせて募金を募るのは詐欺だ。


話が逸れたが、こういう風にたった一人のアーティスト見たさに追っかけでTV中継をチェックしたのは、私にとって後にも先にもアッシャーただ一人だけである。もし80年代のマイケル全盛時代に今と同様の音楽アウォーズ中継が山のようにあって、それにマイケルが出るとなればマイケルを追っかけたかもしれないし、90年代のマドンナ、2000年前後のイン・シンク、ちょい前まではブリトニー・スピアーズもかなりよく見ているが、とにかく、今この時点でTVチェックをしてまで見たいと思わせるアーティストは、アッシャー以外いない。もちろん音楽的には他にも聴きたいアーティストは大勢いるが、ダンスはTVという視覚的媒体をどうしても必要としており、これだけはCDだけじゃわからない。


実はこういう、ダンス等ヴィジュアルが重要なアーティストのコンサート中継は、TVとの相性は非常にいいはずであるのにもかかわらず、それほど人気のある分野ではない。なぜだかそれほど視聴率を稼げないのだ。ブリトニーだってアギレラだってイン・シンクだってセリーヌ・ディオンだって、皆1時間か2時間のTV特番があったりしたんだが、視聴率の上ではこんなものかとしか思えない数字しか稼げていない。ファンはいったいどうしたんだ、めったにないステージを見るチャンスなのにと思うが、ファンの心理は不思議だ。もしかしたらMTVで見るミュージック・ヴィデオで充分と思っているのかもしれない。


いずれにしても、人気シンガーのコンサート中継は、たとえそのコンサートが売り切れ満員御礼のコンサートでも、それを中継したからといって人々が見るとは限らない。私の知る限り、その種の話題、人気と視聴率が比例してよかったのは、2001年にCBSが中継したマイケル・ジャクソンの芸能界デビュー30周年記念コンサートの中継と、それを10年くらい遡る、HBOが中継した、バーブラ・ストライサンドのたぶん最初で最後のコンサート中継くらいだろう。


そういうことを考えると、アッシャーのコンサートを中継してくれたショウタイムの英断はまことにありがたい。いくらアッシャーのダンスを見たいと思っていても、周りをティーンエイジャーに囲まれるコンサートにまで足を運ぶ気にはならず、ミュージック・ヴィデオだけでは不満な者にとって、こういったコンサート中継は大いに助かるのだ。話題性さえあれば、視聴率は二の次にしてしまえるペイTVのありがたみを感じるのはこういう時だ。


そういうわけで番組を録画しておいて、後日、女房と二人で晩飯を食いながらヴィデオテープを再生して見始めたのだが、アッシャーのダンスが始まった途端、いきなり二人のメシを食う箸が止まってしまった。やっぱり面白いのだ、アッシャーのダンス。本当に二人共、箸に何かを挟んだまま、その箸が空中に静止したまま目だけはTVに釘付けという状態が丸々一曲分続いた後、ダメだこりゃ、メシが食えない、消化に悪すぎると、結局ヴィデオは止めて、メシを食った後でまた見ようということになった。


アッシャーの世代、いや、マイケル以降のすべての世代において、ダンサブルな曲を歌うアーティストで、その振り付けにマイケルの影響を受けていない者はいない。もちろんアッシャーだってそうだ。というか、アッシャーは特にマイケルの影響を大きく受けているアーティストの一人だと言えるだろう。彼のダンスの端々に、あ、この動き、マイケルがやっていたな、とか、マイケルが得意にしていたなという影響が見え隠れする。特に決めのポーズでマイケルの影がちらちらと目につくのは、やはりアッシャーも小さい頃にマイケルの真似をして踊っていたからだろう。実際、アッシャーはマイケルのデビュー30周年記念コンサートでもちゃんと登場して、マイケルに敬意を払っていた。


ダンスだけでなくステージ進行にしても、昔マイケルがよくやっていたようなことを真似ている。「ザ・ウェイ・ユー・メイク・ミー・フィール」のミュージック・ヴィデオでマイケルがやっていたようなことをここでもアッシャーがやってるし、ステージの上に一人だけ女性を上げてその子に絡みながらバラッドを歌い上げるなんてことも、ま、こういうことをやっていたのはマイケルだけじゃないが、それでもやはりアッシャーもその轍を踏んでいる。それにしてもステージに上げられたあの子は、本当にその日たまたま会場から選ばれた子にしてはいかにもモデルまがいの顔とスタイルで、アドリブでアッシャーと一緒に踊れるところなんかセミプロくさかったんだが、しかし顔とかの表情や反応を見ると確かに素人くさいところがあったりしてよくわからなかった。


さらにこの日のゲスト・パフォーマンサーとして、人気という点ではアッシャーに負けず劣らずのビヨンセまでもが登場してきたことには驚いた。きっとお互い様ということで、ビヨンセのコンサートでは今度はアッシャーが飛び入りみたいな形で登場しているんだろうと思うが、しかしビヨンセはその一曲のためにプエルト・リコまで遠征したのか。きっとショウタイムがTVで中継したからだろうな。


それにしても改めて感心するのが、アッシャーって、こんなにヒット曲を連発していたのかということだ。昨年からかなりヒット曲が途切れなかったなという印象は確かにあったのだが、こうやってずらりと並べられると、アッシャーが今が旬のアーティストであることがよくわかる。で、ついでに改めて気づいたことに、アッシャーって実は結構身体に肉がついているということがある。ミュージック・ヴィデオや音楽アウォーズ中継とかでたまに見る分にはそれほど気づかなかったのだが、こうやってアッシャーだけを延々とカメラが追い、かなり薄着になったりするようなコンサート中継となると、そのことがはっきりとわかる。わりと体重がありそうで、それだけにその身体で逆にあれだけ切れるダンスを披露されると、よけいに感心してしまう。


アッシャーのダンスはマイケルのダンスを拡大したものだが、その切れがマイケルの全盛時と同等か、もしかしたらそれを上回ってすらいるかもしれないと思わせるのもさすがである。さらにヒップ・ホップやブレイク・ダンスの技法を取り込んだ動きになると、もはやマイケルでも太刀打ちできないだろう。なんでいきなり頭を下にして、逆立ちの途中みたいなところで身体を静止させることができるのかよくわからない。全身がバネと筋肉からできているようだ。


それにしてもあの汗を見ると、ものすごい運動量なんだなということがよくわかる。マイケルは、今では一曲歌った後、休みをとらないと次の曲が歌えないが、アッシャーは、もちろんこっちだってあれだけ激しいと、次にバラッド調のスロウな曲を持ってきたり、バック・ダンサーの群舞やバンド演奏等でうまく時間を稼いで休んでたりするが、それでもあの回復力はすごい。やはりプロはなあ、少しくらい息が上がって音程がぶれようと、それを腹筋で押さえ込んで歌って踊ってもらいたいよな、口パクブリトニーはアッシャーの爪の垢を煎じて飲んでもらいたいと、感心することしきりなのであった。





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