放送局: FOX

プレミア放送日: 5/22/2007 (Tue) 21:00-22:00

製作: マーク・バーネット・プロダクションズ、ドリームワークスTV、アンブリン・エンタテインメント

製作総指揮: マーク・バーネット、スティーヴン・スピルバーグ、デイヴィッド・ゲフィン

監督: マイケル・サイモン

ジャッジ: キャリー・フィッシャー、ゲイリー・マーシャル、ブレット・ラトナー、ウェス・クレイヴン、他

ホスト: チェルシー・ハンドラー、アドリアナ・コスタ


内容: 勝ち抜き映画監督選出リアリティ・ショウ。


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なんでも勝ち抜き形式にしないと気が済まないアメリカのリアリティ・ショウ、今回FOXが編成した「オン・ザ・ロット」は、勝ち抜きで映画監督を選出する。優勝した監督志望者はドリームワークスと100万ドルのディールを結び、演出を任される。そのドリームワークスのスティーヴン・スピルバーグと、現在アメリカのリアリティ・ショウをほとんど一人で牛耳っている嫌いのあるマーク・バーネットが番組製作総指揮とくれば、これはかなり注目を集めるに値するだろう。


とはいえ、彼らのネイム・ヴァリュウにより注目されはしたが、実は私は番組そのものに対してはそれほど期待していなかった。なんとなれば同様の企画は既に2001年にHBOの「プロジェクト・グリーンライト (Project Greenlight)」でミラマックスとマット・デイモン/ベン・アフレックが試みていたし、当時それなりに映画好きは見たと思われる「グリーンライト」で、では優勝したピート・ジョーンズが監督した「夏休みのレモネード (Stolen Summer)」をいったいどれだけの人間が見たかというと、ほとんど心もとないと言うしかない。


「グリーンライト」は、結局第2シーズンからHBOからベイシック・ケーブルのブラヴォーに移り、第3シーズンまで製作された。第2シーズンの結果製作された「ザ・バトル・オブ・シェイカー・ハイツ (The Battle of Shaker Heights)」に主演のシャイア・ラブーフは今夏公開のハリウッド大作「トランスフォーマーズ」では主演と、キャリアの叩き台としては機能していると言える。しかし第3シーズンのジョン・ギュラガー演出のホラー「フィースト (Feast)」は、私が特にこのジャンルを得意としていないこともあり、そういえばこのタイトル、聞いたことがあるというくらいの記憶しかない。一応バルサザール・ゲティというそれなりの俳優が出てるし、番組としてはそこそこ成功したと言えないこともないんだろうが、しかしそれでも番組自体を見ていた者はそう多くはあるまい。


つまり、一部の映画好きとかにはアピールするのは間違いないだろうとはいえ、ではその枠を超えてこの種の番組が成功するかといえば、はなはだ心もとないと言うしかない。実は私個人の嗜好から言えば、結構こういう番組は嫌いじゃない。一般視聴者参加型のリアリティ・ショウの本質が、演技ではない生の感情の吐露にこそあり、そこに才能ある演出家の青田買いという要素が加わり、さらにその製作過程で様々な問題が持ち上がること必至の映画製作という過程をとらえ、ついでにもしかしたらでき上がったその作品が本当にできがよかったりするかもしれない番組が、面白くないわけがないと思う。実際「グリーンライト」の場合だって、でき上がってきた作品はともかく、その製作過程をとらえた途中経過の方は確かに面白かった。


しかし、世の中の一般視聴者は、海のものとも山のものともまだわからない新人演出家が、苦労しながら映画を作ろうとする過程までわざわざ見ようとは思わなかったし、でき上がった映画についてはなおさらそうだった。「グリーンライト」が第3シーズンで番組が終わってしまったのもしょうがないと言える。こういう前例があるため、今回製作された「オン・ザ・ロット」も、いくらスピルバーグとバーネットというネイム・ヴァリュウが付属してこようとも、私は特に芳しい成績を上げることができるとはあまり思っていなかった。しかし「グリーンライト」は結局ペイTVのHBOで始まり、ベイシック・ケーブル・チャンネルのブラヴォーで終わった番組であり、ネットワークのFOXとは確かに潜在的視聴者数の数は大きく異なる。さてどうなるか。


番組はまず、アメリカのみならず、世界中から応募があったという12,000本の申し込みを篩いにかけ、50人を選び出す。しかしこの時点ではまだその50人に作品を撮らせるというわけではない。彼らには製作予定の映画の内容を簡潔に記したログ・ラインが与えられ、それを元にキャリー・フィッシャー、ブレット・ラトナー、ゲイリー・マーシャルの3人のジャッジに対して、ピッチ、要するに売り込みのプレゼンテーションをすることが求められる。そのログ・ラインというのも「冗談で応募したCIAエージェントに合格した男の話」だとか、「研究施設から脱走を図る試験用ラットの話」とかいう無理難題めいたもので、それを面白おかしく、いかに興味を惹く題材であるかということをアピールしなければならない。


確かにそういうのも実際にこの業界で生きていく上には必要な技術であろうが、しかし映画製作はともかく、ピッチなんて生まれてこのかた一度もやったこともない者ばかりだろうに、初っ端から荷が重いという感じか。しかし、それをジャッジのブレット・ラトナーから、次の俺の作品のピッチをあんたが代わりにやってくれと言われるほどうまくやりこなすやつもいる。才能というしかない。しかし、大半は慣れないことに絶句したりとちったり、途中で自分でも何言っているかわからなくなったりして肩を落とすはめになる。可哀想に。結局ハリウッドに到着したその日のうちに参加者は36人に絞られる。


ここまでが番組第1回 (60分) で、番組第2回 (35分) で参加者はやっと実際の作品撮影に入る。それもまだ初対面の段階に過ぎない同じ参加者の中から3人でチームを組み、数分の短編を24時間以内に脚本、撮影、編集まで済ますというきつい日程で、ほとんどの者は寝る暇もなかったという感じだった。しかも参加者はほとんど行き当たりばったりでチームを組まざるを得ず、当然ただでさえエゴの強い演出家志望の者たちばかりの中で、意見の衝突や仲違いが起きないわけがない。エゴのぶつかり合いはリアリティ・ショウにつきものとはいえ、ストレス溜まるだろうなあ。ここでまた足切りがあり、参加者は24人に絞られる。


次のエピソードから、やっと参加者は自分だけの作品を自分の演出で撮ることになる。しかし、前の回で24人に絞られたはずの参加者が、番組第3回では既になぜだか18人になっており、残りの6人はいったいどこに消えたんだ? この点に関しては何の説明もなく、さもその6人は最初からいなかったかのように番組は進行して行った。後でFOXは「クリエイティヴ上の理由」と説明していたが、もちろんそんなのなんの説明にも釈明にもなっていない。実はこの段階で番組は既に視聴率の上では誰の目から見ても失敗であり、FOXおよびプロデューサーがエピソード数を減らすため途中辞退したい者を募ったんじゃないかという気がする。そいつらには金一封すら手渡されたのではないかと邪推するのだが、本当のところはわからない。


いずれにしても、これ以降生番組となる2時間枠の第3回ではその18人の数分の短編が上映され、翌日放送の1時間枠の第4回では視聴者投票によって、この18人からさらに3人減らされて15人となった。そして第5回からは1回につき5人ずつ短編を監督して発表し、翌日、視聴者投票によりその中から一人を追放する、ボックス・オフィス (興行成績) と題された結果発表のエピソードが放送されるはずになっていた。なっていた、というのは、結局成績不振で週2日放送を諦めたFOXは週一編成に切り換え、60分枠の作品発表の回に、その前週の結果発表もまとめて1本のエピソードにしちゃったからだ。それでも番組がキャンセルされないのは、ひとえにスピルバーグとバーネットというネイム・ヴァリュウの賜物か。


その追放者発表の仕方も、最初は獲得票数の少なかった3人を壇上に呼んでおき、番組の最後で誰が本当に追放されるかを発表するという体裁だったものが、翌週には番組の最初でいきなり追放者を発表してしまった。その次の週ではその発表が生放送中ではなく、それ以前に屋外に参加者を集めて発表した録画を放送していた。むろんそれには理由があり、誰が落ちて誰が残るかをできるだけ早く決めて、残った者に作品を撮る時間を与えるためだ。というのも、次の段階からは回毎にコメディとかホラーというテーマが与えられ、それに合わせて作品を撮るためで、全員に同じだけの時間を与える必要があるわけだ。いずれにしても試行錯誤を繰り返しながら番組が進行しているという感じが濃厚にする。


番組ジャッジは、これまでのところ毎回顔を出しているのはいつも中央に座っているキャリー・フィッシャー一人だけで、次に顔を出す頻度が高いのがゲイリー・マーシャル、さらにブレット・ラトナー、ジョン・アヴネット、ウィリアム・フリードキン、マイケル・ベイ、ウェス・クレイヴンなんてわりと大御所もゲスト・ジャッジとして参加している。この辺はハリウッド・スタジオを傘下に持つFOXの底力といったところか。フリードキンとかベイなんて、共に「バグ」、「トランスフォーマー」なんて自分の新作が公開されたか公開を控えているので、ほとんどそのプロモーションのつもりで出演をOKしたに違いない。クレイブンですら先月公開した「パリ、ジュテーム」に自分の撮った短編が入っている。それにしてもあのレイヤ姫も歳をとった。


ホストはプレミア・エピソードでは女流コメディアンのチェルシー・ハンドラーだったものが、第2回でいきなりホストがいなくなった。それで第2回はホストなしで番組が進行し、第3回からはCNNヘッドライン・ニューズ出身のアドリアナ・コスタが抜擢されている。こんなとこでも揉めていたか。コスタは私は初めて見たが、ハンドラーは女性専門チャンネルのオキシジェンで「ザ・チェルシー・ハンドラー・ショウ」という自分のコメディ番組を持っていたため、何度か見たことがある。ステュディオに観衆を入れてのモノローグ・ギャグで、中国人はイヌを食っているという差別ギャグをかまし、その直後、ステュディオ内の引き攣っている明らかに中国系の観客をカメラが映し出したシーンはいまだによく覚えている。そのハンドラーがついにネットワーク番組でホストか、これはぜひまた差別発言で番組を面白くしてもらいたいと思ったが、やはり無理があったようだ。


結局、ここまでの時点で明らかに番組は成功しているとは言い難い。一応エピソード数を短縮して意地で優勝者を決めるまではやるつもりみたいだが、視聴者数はジリ貧だし、今後上向きに転じる可能性もほとんどなさそうだ。「プロジェクト・グリーンライト」に続いて、「オン・ザ・ロット」もダメだったか。考えるにその理由としては、やはり映画監督という職業に関しては、人々が見たいのは既に腕に技術を持つ者の手によるできのいい作品であって、監督自体が熟練していく過程ではないということにあると思う。例えば現在タレント勝ち抜き番組で最も人気のある「アメリカン・アイドル」の場合、参加してくる者は素人とはいえ、皆玄人はだしにうまい。その既にセミ・プロ級の人間が、コンペティションによってさらに磨かれてうまくなっていくのを見るのが醍醐味なのだ。


ところが「オン・ザ・ロット」になると、まずたかだか2、3分の作品では、うまいのか下手なのかも実はよくわからない。それなりにうまいなと思う作品もあることはあるが、同じ人間によってすらでき不出来の差が激しく、誰が力があるのかよくわからなかったりする。ジャッジの論評も一定ではなく、論ずる人によって意見が割れる。当然視聴者にとってもそうだろう。その上、演出家というものはいきなり腕が上がるとか才能が芽を出すというタイプの職業ではない。以前、FOXとNBCが「ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ」と「ザ・コンテンダー」という勝ち抜きボクシング・リアリティを編成したことがあったが、両者ともまったく人気が出ずにぽしゃった。「オン・ザ・ロット」が人気が出ない理由も同じところにあるように思われる。


要するに、ボクサーとか映画監督とかは、本当に強いやつ、才能のあるやつはTVの勝ち抜きリアリティなんかに出なくとも自分自身の力で世に出てくるのだ。この辺が、たぶんTVに出なければずっと埋もれたままだっただろう才能を世に知らしめる「アメリカン・アイドル」や「アメリカン・ダンスアイドル (So You Think You Can Dance)」辺りと根本的に異なる。ところが才能あるアスリートや映画監督の発掘に関しては、なにもそれを勝ち抜きのTV番組なんかにする必要なぞない。そういう視聴者心理が、低い視聴率となって表れてくるのだと思う。


さらに番組の体裁として、「オン・ザ・ロット」には「アメリカン・アイドル」における口の悪いジャッジとして知られるサイモン・コーウェルのような存在がないことも、番組が盛り上がらない理由の一つとして挙げられる。「ロット」においては、ジャッジは現実の映画監督および俳優ばかりで、参加者が何か新しいことをしようとすると、一応評価する姿勢を見せる。むろんそれはそれでいいのだが、サイモンのように、それが効果がなければないと明言する者がいない。要するに、映画監督という同業者の立場から見るのではなく、プロデューサーの立場でそれが結果として効果があったかどうかを判断する者がいないのだ。少なくともジャッジには誰かきつい意見を吐けるプロデューサーを一人は据える必要があった。この種の勝ち抜きリアリティでジャッジの中にいつも必ず一人は英国人がいるのは、要するに彼らに毒舌家が多いからだ。


そしてさらにここで問題点を挙げると、たまさか述べられるそういうきつい意見も、多くの者の賛同を得るには至らないということがある。映画作品は歌ほど明確に誰の方ができがいいとか悪いとか決められるわけではない。そのため、結局見ていて自分の意見とジャッジの意見が同じになることはめったにないし、彼らの存在やコメントが「アイドル」のようには機能しない。ま、そういう意味では確かに誰であろうとその努力を評価しようという姿勢の方が「ロット」においては正しいあり方という気はしないではないが、マーシャルはともかく、フィッシャーの方はその意見の基準が一定せず、途中で自分の意見を変えたりしている。これではなあ。


さて、番組が成功しているとは到底思えないが、それでも恒例で優勝者を予測すると、私の意見ではずばり、既にプロ級のCG技術を駆使して毎回作品を作ってくるザック・リポヴスキーが、そのセンスと実力、人当たりのよさそうなキャラクターによって最も優勝に近い位置にいると思う。彼はハリウッドでも充分やっていける。ほとんどサイレントのスラップスティック的な義眼コメディや手術室コメディを撮ったウィル・ビガム辺りが次点といったところか。パン屋さんミュージカルを撮ったアダム・スタインもなかなかと思っていたんだが、その次のCGを利用した原始人ものは今一つと感じた。


実はもう落ちてしまったが、ブルックリン出身の、黒人の血が入っているジェシカ・ブリルハートは、カメラの後ろにおいておくのはもったいないくらいの美人だ。カメラ映えのする顔で初期のハリー・ベリーを彷彿とさせ、彼女は演出家ではなく女優になるべきと強く思った。たぶんそう思ったのは私一人じゃないはずで、誰かハリウッドやインディのプロデューサーが、彼女に女優の仕事をオファーすることを強く希望するものである。



追記 (2007年8月)

誰の目から見ても、たぶん本人ですら自分が本命と信じて疑っていなかったはずのザックが、たった一回失敗しただけで落ちた。ザックは今回、車の中で恋人同士がナヴィ・システムを利用して場所と時間を飛び越えて映画の中の世界に旅行するという、前回作った話の続編を作ったのだが、海賊が登場する今回の話で、これまでどんな題材でも完璧に処理してきたように見えるザックが、実はアクションはまったく撮れないということを証明してしまった。


あまりにも意外だったのだが、本当に素人、というか、他の誰が撮ってもあれよりはうまく撮れるんじゃないかというくらいまったくスピード感に欠ける演出で、見た直後から、これはもしかしたらザック、今週危ないかも、と女房と話していたのだが、本当にその通りになった。こういう勝ち抜きは毎週毎週が勝負だからたった一度のミスが命取りになるとは知っていても、それでもザックのファン層というものが既にできているはずだから首の皮一枚で残るんじゃないかと思っていたんだが、そうは甘くなかった。これで残っているのはウィル、アダム、サム、ジェイソンの4人になった。フロント・ランナーはウィルとアダム、穴がサムとジェイソンだろうが、さて、どうなるか。



追記 (2007年8月)

結局最後の方になると参加者もさすがに毎週毎週5分くらいの新作を撮るアイディアも時間もないようで、最後の2回はそれまでに自分が撮ってきたものの中から何本か選んでそれを元に投票するというシステムになった。そしてまずサムが落ち、ウィルとアダム、それにジェイソンの3人で最終回を迎える。ウィルはこの3人の中では最も安定して毎回標準以上の作品を提出してくるという感じで、ジェイソンが最もムラがあるが、面白い時は最も印象的な作品を作る。


アダムはその中間という感じだが、独創的なミュージカルなんてのもあった。この3人なら私が選ぶのはウィルかアダムだなと思っていたが、まずそのアダムが落ちる。そして勝ったのは‥‥ウィル・ビガムだった。ウィルはそのままリモに乗って会場を後にし、ドリームワークスのオフィスに向かい、そこで待ち受けているスティーヴン・スピルバーグに会って番組は幕となった。ウィルの初監督作は早ければ再来年くらいには公開されるだろうが、ザックだってそのうち絶対出てくると私は思う。   






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オン・ザ・ロット   ★★1/2

 
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