Olympus Has Fallen


エンド・オブ・ホワイトハウス  (2013年3月)

北朝鮮による挑発は何も今に始まったことではないが、しかしなんともタイミングとしてはこ の 上ないくらい絶妙という時期に公開されたのが、「エンド・オブ・ホワイトハウス」だ。なんせ北朝鮮のテロリスト一味がホワイトハウスに攻撃を仕掛け、大統領を人質にとってホワイトハウスの地下深くに立て籠もるという、本来ならば言語道断、ほとんど荒唐無稽に近いシチュエイションに、一応の現実味を与えることに成功している。 

 

カン (リック・ユーン) 率 いるテロリスト集団が、素性を偽って韓国の首相のシークレット・サーヴィスとしてホワイトハウスにおける米韓首脳会談にセキュリティとして堂々と乗り込ん でくる。会談の真っ最中にホワイトハウスの外では一味の仲間が襲撃を開始、急を突かれたホワイトハウスは防戦に追われ、大統領は韓国首脳もろとも地下のバ ンカーに避難する。 

 

しかしそれは実は陽動で、カンは最初から難攻不落のバンカーに大統領を人質にとって立てこもるという算段だった。ホワイトハウスの中から、アメリカ中のミサイルに発射指令を与え、世界中に動揺と恐怖と破壊をもたらそうというカンの本当の狙いは何か‥‥ 

 

バンカーで本性を現したカンは、本気であることを見せるために、いきなり韓国首相を射殺する。最近のハリウッド映画やTVは、視聴者の裏をかくためならなんでもする。他国の首相を殺してしまうのは、自国の大統領を殺すのよりもっと倫理的にはまずいという気もしないではないが、それよりも先に、事故とはいえこちらもファースト・レイディを死なせており、これでイーヴンか (何が?) 

 

それに、アメリカ大統領だって絶対安全ではない。大統領がこの手のアクションもので最初に殺されたのは、いったいどの作品だったか。確かFOXの「24」でエア・フォース・ワンが撃墜されたが、それに乗っていた大統領は死んだんだっけ? その後、既に大統領ではなくなっていたものの、元大統領のパーマーは暗殺された。「デイ・アフター・トゥモロー (Day After Tomorrow)」では、死ぬシーンこそないが、大統領は死んだことになっている。ABCの「スキャンダル (Scandal)」で大統領が暗殺されるのも時間の問題だ。 

 

‥‥と並べてみて、あれ、やっぱり現職大統領が絵として殺されるってシーンは、さすがにハリウッドでもこれまでになかったんだっけ? と思った。私がどこかで見逃しているだけかもしれないが。そういや日本では、総理が暗殺される伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」が映画化されている。一国の首脳とはいえ決して安泰ではないのは、ハリウッドだけの話でもないか。 

  

話は、人質として捕らわれている大統領を救出すべく、獅子奮迅の働きをするマイクを中心に描く。閉じられた場所で活躍する主人公を描くアクション作品というと、これはもう「ダイ・ハード」に他ならない。しかしそれをホワイトハウスでやるってか。 

 

一方、大統領付きのシークレット・サーヴィスだったマイクがホワイトハウス内部を知り尽くしており、そのことを有利な材料として敵の裏をかいていくという展 開自体には無理がなく、いくらなんでも北朝鮮が、国の総力を挙げてもホワイトハウスに奇襲をかけることが果たして可能かということはともかく、いったん話に入り込めば、楽しめるのは確かだ。 

 

マイクを演じるのはジェラルド・バトラーで、時々ラヴコメにも出ているが、やはりこういう武闘派が最も似合う。昨年、ABCの「ミッシング (Missing)」で攫われた息子を奪還するために八面六臂の活躍をしたアシュリー・ジャッドが、ここではファースト・レイディで、しかも最初の方であっさりと死んでしまう。現実にもジャッドはこないだ選挙に出馬するのしないので話題になっていたから、ジャッドのファースト・レイディというキャスティングには、相応の真実味がないこともない。 

 

マイクの妻リアを演じるラーダ・ミッチェルは、現在、地下犯罪組織に関係して誘拐された自分の子供たちを守る母親という、「ミッシング」でジャッドが演じたのと似たような役どころをABCの「レッド・ウィドウ (Red Widow)」で演じている。大統領を演じるのがアーロン・エッカートで、彼も「サンキュー・フォー・スモーキング (Thank You for Smoking)」で既に政治の世界は経験済みだ。 

 

大統領と共にバンカーで人質となるルースを演じるメリッサ・レオは、愛国的な政治家として印象を残し、儲け役。元マイクの同僚で、韓国のセキュリティとして働くようになったフォーブスを演じるディラン・マクダーモットは、一昨年のFXの「アメリカン・ホラー・ストーリー (American Horror Story)」以来、こういう癖のある役の印象が強まった。演出は「ザ・シューター (Shooter)」のアントワーン・フクア。 

 

この映画、正直言ってかなり荒唐無稽なのは否めず、好意的な評もほとんど目にしないのだが、私は結構楽しんだし、人も結構入っていた。そこそこのヒットになっているのは間違いないだろう。‥‥なんてことをちんたら書いている時に、ボストン・マラソン爆破テロ事件が起きた。どんなにセキュリティを厳しくしても、100%の安全を獲得することは難しい。しかも市街地で激しい銃撃戦を展開するなんて、映画まがいのシーンが現実に起こった。一般市民がスマフォで撮ってYouTubeにアップした市街戦なんてのを見ると、あながちボストンだろうがD.C.だろうが起きる時は起きる、なんて思ったりもする。


さらに続けてAPのツイッター・アカウントがハックされ、ホワイトハウスがアタックされてオバマ大統領が怪我をしたというデマがまことしやかに流された。人々が信じて噂を広まらせるよりも早く対応策がとられたため大きなスキャンダルにはならずに済んだが、こうなるとホワイトハウスもデマやアタックから無傷ではいられない。もしかして北朝鮮が自国の核ミサイルを云々なんて挑発している時に、実は裏でアメリカ上陸を画策しているなんて話、まったくないとも言えないんじゃないかという気にもなってくる。 










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マイク (ジェラルド・バトラー) は大統領 (アーロン・エッカート) を警備するシークレット・サーヴィスで、大統領の信任も厚かった。しかしある時、雪山で大統領夫妻を乗せたクルマがスリップし、マイクは大統領はなんとか助けた出したものの、ファースト・レイディのマーガレット (アシュリー・ジャッド) を乗せたクルマは凍結した川に落ち、マーガレットは命を失ってしまう。以来、大統領とマイクの間には溝ができていた。 

朝鮮半島問題解決のために、韓国の首相がホワイトハウスを訪れる。しかしそのセキュリティは、北のテロリスト・グループの一味だった。会談中にテロリスト・ アタックを受けた大統領は、韓国首相と共に地下避難壕に降り、外部からのさらなる攻撃をシャット・アウトする。しかしそれこそテロリスト一味が望んでいたことだった‥‥


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