Octomom: The Incredible Unseen Footage  オクトマム: ジ・インクレディブル・アンシーン・フッテージ

放送局: FOX

プレミア放送日: 8/19/2009 (Wed) 20:00-22:00 (d)

製作: ピルグルム・フィルムズ&TV

製作総指揮: クレイグ・ピルグリム

出演: ナディア・スルマン


内容: 今年8つ子を出産したオクトマムことナディア・スルマン (Nadya Suleman) に密着する。


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アメリカでは今、出産がちょっとしたブームになっている。子供たちでサッカー・チームを作りたいと公言して憚らないアンジェリーナ・ジョリーのようなセレブリティ、そしてそれに続くハリウッド・マムの出産ラッシュが子供を持つことにある種のステイタスを与える一方、何も考えずにセックスしてできちゃった出産をするティーンエイジャーの例が後を絶たない。


すぐセックスするくせに基本的にカトリック教徒が多いアメリカでは、赤ん坊はできたら産むものと考える者が多いのだ。そこに中絶の考えは最初からない。その風潮をハリウッド・マムが後押ししているために、まだ高校も卒業していない未婚のシングル・マザーが、全米のあちこちで生まれている。


そこに目をつけたのがケーブル・チャンネルのABCファミリーで、昨年「ザ・シークレット・ライフ・オブ・ジ・アメリカン・ティーンエイジャー (The Secret Life of the American Teenager)」というティーン妊娠ドラマの放送を始めて、そこそこの人気番組になってしまった。MTVでは、「シックスティーン・アンド・プレグナント (16 And Pregnant)」という、そのような境遇のティーン・ママに焦点を当てたリアリティ・ショウも始まっている。


さらにTVでは、多子家庭にお邪魔するというリアリティ・ショウが一つのジャンルとして定着している。このジャンルで最も人気のあるTLCの「ジョン・アンド・ケイト・プラス・エイト (Jon and Kate Plus 8)」の夫婦ジョンとケイトは、たかだか8人の子宝に恵まれすぎた一般人に過ぎないのだが、今ではハリウッド・セレブリティもかくやという注目度を誇る。ただし二人は現在別れており、番組は11月から子供を引き取ったケイトと子供たちだけに密着するジョン抜きの「ケイト・プラス・エイト」になるはずだった。しかしそこにジョンがケチをつけて法的に番組製作の中止を要求するなど、今ではこの二人は泥沼だ。それにしてもジョンってこんなに性格悪かったのか。


いずれにしてもTLCは、今度は20人家族にお邪魔する「エイティーン・キッズ・アンド・カウンティング (18 Kids and Counting)」、12人家族に密着する「テーブル・フォー・トウェルヴ (Table for 12)」を続け様に編成、女性番組専門チャンネルのWeも、8人家族をとらえる「レイジング・セクスタプレッツ (Raising Sextuplets)」を編成するなど、大家族リアリティが増えてきた。おかげで現在、アメリカでは少子化問題など起こりようがない。


そして今、オクトマムだ。オクトマム (Octomom) というのは、8つ子 (Octuplets) を産んだママだからオクトマムという造語だ。私は最初、Octu-momと綴るものだとばかり思っており、実際そう綴っていた媒体も結構あったのだが、いつの間にかOcto-momでコンセンサスを得たようだ。


そのオクトマムことナディア・スルマンは、ほとんど一夜にして有名人となった。さすがに8つ子というのは広いアメリカでもめったに例はなく、死産なく8人全員が生まれたのは、これまでに一例が記録されているだけだそうだ。しかし、彼女にここまでスポット・ライトが当たったのは、単にそういう理由のせいだけではない。実はこの女性、既に6人の子の母であり、しかも前夫とは別れてシングル・マザーだったのにもかかわらず、さらに不妊治療を受け、今度は8つ子を懐胎してしまったのだ。


これが無責任とマスコミから叩かれまくったのは言うまでもない。ただでさえ片親で無職、子育ては今でもほとんど自分の親の協力を仰いでなんとかやりくりしている。当然既に公共の福利厚生の多大なる世話になっているのは間違いない。それなのにまた妊娠、今度は8つ子だ。いったい誰が面倒を見る? 14人の子を養う経済的基盤はあるのか?


上に挙げた番組でもそれくらい子がいたりする家庭もあるのだが、その場合、母親が何度も出産した後だと最初に生まれた子は既にティーンエイジャーとなっており、後から生まれてくる子の子育てに手を貸せるようになっている。だから特に金持ちではないが、皆で協力して暮らしては行ける。アメリカでは郊外に行けば、それほど裕福ではなくともかなり広い家が持てるからなんとかなる。


しかしオクトマムの場合、最初の6人の子は上は7歳から下は2歳児までという、最も手のかかる歳頃であり、その上さらに8人、どう考えても正気の沙汰ではない。彼女の母親も出てきて、今ですら子育てに大変なのにあの子はいったい何を考えているのかとTVカメラを前に苦情を言う始末なのだ。いったい、本当に、お前は何を考えているんだ。


こないだ読んだNY地域のフリー・ペイパーのメトロでは、今子供を産むと、その養育費は年間16,000ドルかかると試算していた。むろん子供の場合はもう一人増えたから養育費も2倍というわけではなく、二人目からはかなり少ない費用で済むだろう。親が同居でデイ・ケアの必要がないなら、特に大きな節約になるだろう。しかしそれでも、無職のシングル・マザーが一人では到底賄えまい。


実はオクトマム、アンジェリーナ・ジョリーに心酔するあまり、彼女のようになれる、あるいはジョリーと対等に勝負できるのは子供を産むことだけと、とにかくそのことだけに生き甲斐を感じて精進してきたらしい。それがどういう結果を生むかなんてまるで考えていなかったのだ。顔もジョリーに似せようと整形を施しているのも間違いないようだ。周りの迷惑なぞまるで考えず生きてきたその結果がこれだ。ほっとけばオクトマム、今に本気で自分の子供だけで片方11人の正式のサッカー・チームを2チーム作って対戦が可能ということになりかねない。既に自分の子供だけでバレーボール・チームを2チーム作って補欠まで用意できるし、ベイスボール・チームを2組作るのも射程距離に入っているのだ。


そしてTV番組としての「オクトマム」は、スルマンの出産シーンから、退院して自宅に戻り、子育てにてんやわんやする様をとらえる。これがTLCのこの手の番組のような、一応は健康的な興味を満足させるエンタテインメントとはなりようがないのは、ひとえに対象がこの、あまりにも独りよがりなオクトマムということに負っている。


番組は冒頭、病院で8つ子を産み、そのうちの二人だか三人だかを連れて自宅に帰ってくるオクトマムをとらえたシーンから始まる。その冒頭の出産シーンは、当然母体にも胎児にも負担の大きい出産だから、大勢の医師やナースが分娩室でつきっきりで対応している。そこで当然帝王切開だと思うが、ぽんぽんと子供をとり上げる。イヌかネコだかの出産みたいだ。


いずれにしても、そういうてんやわんやの戦場みたいなところにTVカメラまで入っているもんだから、足の踏み場もなく、ほとんどカメラマン (女性の声だ) とナースが一瞬触発になる。あんたは邪魔だどっかにいってくれ、いや、私は誰にも迷惑なぞかけていない、とやり合っている。生命がこの世に生まれる神聖な場という感じがまったくしない。


そしてオクトマムが退院してリムジンに乗って自宅に帰ってくると、そこには大勢のマスコミが待機している。そこで真っ当な母親なら当然子供のことを真っ先に考えて、子供の安全を第一に行動するだろう。ところがオクトマムはそうじゃないのだ。まああんなに人がたくさん、どうしよう、困ったわ、と、言っていることとは裏腹に、まったく困った風ではない。たぶん生まれて初めて自分が注目の的となって人が自分にカメラを向けていることが、嬉しくてたまらないようでにこにこしているのだ。たぶんその時の彼女は、子供のことなど微塵も考えていなかったろう。


正直言って、子供を守るべき母親がこういう反応をするのを見るのは、不快以外の何ものでもない。本気でむっとする。最初の数分で一緒に見ていたうちの女房は、私に不愉快だからヴィデオ止めてくれる? と頼んできた。私もまったく異論なかったのでその時点ではそこで止め、後で女房のいない時に早回し中心でざっと見てみたのだが、それでも充分この不快さは伝わってきた。本当にこの女、いったいなんなんだ。


後でちょっと番組関係をググってみたら、最初に開いたページがどこかの医者のブログで、不愉快で途中でTVを消したと、私たちとまったく同じことを言っていたので、私たちの反応が特別というわけでもあるまい。とにかく、これだけ見る人を不愉快にさせるというのは、これはもう才能というしかないだろう。あんたがこれまで男運がなかったのは当然だ。


本当に、TVを見てこれだけ不愉快な気分になったのは実に久しぶりだ。過去、MTVの「マイ・スーパー・スウィート・シックスティーン (My Super Sweet 16)」やE!の「ジ・アナ・ニコール・ショウ (The Anna Nicole Show)」のような、背筋に怖気が走るゲテモノ番組というのはあった。一時FOXが得意としていた、「ザ・モーメント・オブ・トゥルース (The Moment of Truth)」のような、倫理的道徳的に愚劣なリアリティ・ショウというのもあった。


しかしそれらの番組だって、これほど生理的な嫌悪感を誘引するものではなかった。気持ち悪くて吐き気がしたり、唖然とさせられたりはしたかもしれないが、ここまで不快な感情をあわ立てるものではなかった。しかし「オクトマム」の場合は、はっきりと怒りさえ覚える。この種の感情をTVを見て覚えたのは、たぶんコートTV (現トゥルーTV (TruTV)) の「コンフェッションズ (Confessions)」以来じゃないだろうか。


オクトマムは実はあまりもの世間の関心を買ったので、そこを見込んだTV番組製作会社により、彼女に密着するリアリティ・ショウ・シリーズの製作が既に決定している。しかしそのプロダクション会社だって、彼女がここまで不愉快な人物だとは想像していなかったに違いない。「オクトマム」は視聴率も大したことなかったから、これで気が変わって番組製作を断念してくれることを祈る。彼女に支払った契約金は大損になるわけだが。


上にも書いたが、FOXは頻度としては一時期ほどではないが、この手の低俗トンデモ系リアリティ・ショウを作らせたら右に出る者がない。あまりにも突拍子もないものを平気で出してくるので、むしろ私はそれを楽しみにしていたくらいだ。「セレブリティ・ボクシング (Celebrity Boxing)」なんてこの種のゲテモノ系としては最上の部類で、あまりにも愚劣なためにどうしても見たい気持ちが抑えきれないという番組だった。


それらの番組に較べると、「オクトマム」は数段落ちると言わざるを得ない。たぶん、私が、あるいは視聴者が見たいのは、ただの愚劣な人間ではなくて、普通の人間が意志に反して愚劣なことをしてしまう瞬間なのだと思う。そういう瞬間に思わず見せてしまう表情や反応の意外さ、突飛さ、ドラマ、そのようなものが見たいのだと思う。ただの愚劣な人間の素の愚劣さを見せられたくなどないのだ。FOXには反省してまた元のトンデモ系リアリティ・ショウの企画製作に精進してもらいたい。








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