かつてカジノ王テリー・ベネディクト (アンディ・ガルシア) を見事に引っかけ、大金をせしめたオーシャン (ジョージ・クルーニー) と11人の仲間たちだったが、テリーはついにオーシャンたちの居所を突き止め、彼から奪った金に利子をつけて返済を迫る。オーシャン一味はアムステルダムで大がかりな金庫破りを試みるが、しかし、そこには同時にラスティ (ブラッド・ピット) に個人的遺恨を持つインターポールのイザベラ (キャサリン・ゼタ-ジョーンズ) や、オーシャンをライヴァル視するヨーロッパ一の盗賊ナイト・フォックス (ヴァンサン・カッセル) が待ち構えていた‥‥


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大ヒットした「オーシャンズ11」第2弾は、今度はラスヴェガスではなく、舞台をヨーロッパ、アムステルダムに移して、今度は11人から一人増え、12人となったオーシャンとその仲間たちが活躍する。最初、私はてっきりゼタ-ジョーンズが12人目になるのだとばかり思っていたから (カッセルとゼタ-ジョーンズなら、キャスティング上、どう見てもゼタ-ジョーンズが12人目になるしかあるまい)、じゃあ、インターポールに勤めるイザベラ (ゼタ-ジョーンズ) が裏切るのか、こんなばればれなキャスティングなんかしてもいいのかと思っていたら、12人目というのは、オーシャン (クルーニー) と結婚したテス (ジュリア・ロバーツ) のことを指しているのだそうだ。なんだ。ま、いずれにしても紅一点になるわけだが。 


と、そう納得していたら、こないだ見た「レイト・ショウ」で、マット・デイモンがゲストとして招かれ、ホストのデイヴィッド・レターマンとお喋りしていて、レターマンが、で、12人目というのはロバーツのことなんだよね? と訊いたところ、デイモンが、実はそれがなかなか異論があって、実はオレもよくわからないんだ、とかいうようなことを言っていた。事前に内容をばらすことを控えるんじゃなくて、本当に本人も知らない、というか、製作者サイドですら、それぞれ12人目が誰だか異なる意見を持っていたらしい。で、ソダーバーグのことだ、それもまた面白いと思って、12人目が誰かという判断は見た者に任せりゃいいじゃないかと思っていたフシがある。いかにもソダーバーグが考えそうなことだ。


この種の犯罪者を扱い、犯罪者を悪者じゃない主人公として描くいわゆるケイパーものは、昔から洋の東西を問わずあるわけだが、日本でそういう主人公を描くと、ねずみ小僧のような、どうしても湿り気のある作品になってしまう。それに較べると欧米作品はからっとしてくるのだが、特に風土として湿度の低いアメリカ西海岸、端的に言ってギャンブルの街ラスヴェガスを舞台とすると、その種の作品が、悪いことがまったく悪いことに見えない、勧善懲悪という概念をまったく無視した小気味よい作品として成立することを可能とする。そもそもの作品の成り立ちとしての「オーシャンズ11」は、この、ヴェガスという街自体が重要なキャラクターの一人なのであり、ヴェガスという街がなければはじまらなかった。


それが今回はほとんどヨーロッパのアムステルダムを舞台として話が展開するわけだが、運河の街アムステルダムが舞台となると、画面が当然水気を帯びてくる。実際、オーシャン一味の犯罪の一つは、運河から水面下に潜って行われるのであり、これではどちらかと言うと「ミニミニ大作戦」である。つまり、「オーシャンズ12」では、ヴェガス的ドライさが北欧的ウェットな環境に置き換えられても成立するのか、あるいは、微妙に異なる作品になったのかということが興味の焦点であることは言うまでもない。


「ミニミニ大作戦」は、面白くはあったが、最後で金を出してくれたミニ・クーパーにおもねりすぎたことと、強引にハリウッド的クライマックスを捏造しすぎたことで、多少収まりが悪かったという嫌いはどうしてもあった。さらに「オーシャンズ12」の場合、12人ものハリウッド・スター (ま、実際にはスターと言えるのはその半分強だが) をどうさばくかという問題もある。


要するに「11」も「12」も、作品としての最大のうまさは、出演者の序列のつけ方にある。ジョージ・クルーニーがボスであることは当然として、今回、クルーニーの妻として登場するジュリア・ロバーツをどう処理するか、ブラッド・ピットとマット・デイモンの位置づけはどうするか、さらに今回は、キャサリン・ゼタ-ジョーンズ、ヴァンサン・カッセル、さらにはアルバート・フィニーからブルース・ウィルスまで登場する。洋の東西のバランスを考慮して、さらに虚構と現実を織り交ぜて各々の俳優に見合った役を与えるのは、楽しくも難しい作業であるに違いない。


その中でも、私が今回思わず首肯したのは、マット・デイモンである。なぜだか「ボーン」ものによって唯一無二の暗殺者なんて、見かけの上から言うとほとんど納得できない役が当たり役になってしまったデイモンが、ここではどうしてもブラッド・ピットに及ばない半人前のコン・マンとして登場し、なんとか自分も一人前であることをアピールしようとする。もう、私の印象から言うと、デイモンはジェイソン・ボーンなんかよりこちらでの青二才役の方がどんぴしゃりだ。そのくせしてちゃっかりおいしいところを持っていく。デイモンをこういうふうに味付けした演出のソダーバーグも、デイモンがなぜ孤高の暗殺者なんて役が当たっちゃったのか、不思議でしょうがないに違いない。


その他にも、カップルとしてのクルーニーとロバーツの絵としての収まり具合も非常にいいし、ライヴァルとなるカッセルのキザっぷりも悪くない。あのダンスは、話としての突飛さはともかく、面白かった。あれ、吹き替えなしで本人がやっているのだろうか。ゼタ-ジョーンズは、綺麗なのかブスなのかよくわからない。角度によっては、お、可愛いと思わせた直後に、なに、このブスと思わせる。今回は、時々、ヘンにロリータっぽい可愛い表情を見せるが、彼女って成熟した美貌で売ってたんじゃなかったっけ? とはいえ、最近の出演作って、「トラフィック」にしろ「シカゴ」にしろ、特に美貌で印象に残るわけではない。彼女も不思議な女優だ。とにかくあれもこれも、カメオ出演のセレブも含めた全体の絵としてのバランスのとりかたが職人芸で、実にうまいなあと思わせる。それもこれも、やはり軸としてのクルーニーの存在がちゃんと効いているからだろう。あるいはそれを過不足なく演出できるソダーバーグの腕こそを誉めるべきか。


と、なかなか今回も楽しませてくれる「オーシャン」であるが、今回、あまり批評家受けがよくない理由としては、まず、オーシャン一味が再集合した原因が新たな大仕事のためではなく、ほとんど使い切って残ってないベネディクトから盗んだ金を返さなければならないためという、ちょっとしょぼい理由であることが一つ。そのため、「12」では時間をかけた大仕事をこしらえることができず、前半と後半で中くらいの盗みの計画が二つ挟まるのだが、「11」で、たった一つの究極の目的のためだけにありとあらゆる手段と策謀を用い、その目的に向かってすべてのベクトルが収斂していったあの興奮と、宴の後の放心に太刀打ちできないのは、これはもうしょうがあるまい。


しかし、そのため、逆に言うと今回は、追い込まれながらも臨機応変に危機に対応するプロフェッショナルたちの、気張るところからは距離を置いた駆け引きや反応を見るという楽しみが増えたのであり、それをはしゃぎ過ぎとして貶す批評家がいるのもわからないではないが、しかし、そんなこと言わないで楽しめばよいのではないか。そのための楽しみどころは満載なのだ。


一つ不満があるとすれば、オチ、というか最後の引っかけがちょっと軽すぎたかなとも思ったが、前作とのバランスを考えると、これまたこれでいいのかもしれない。なんとなくあと15年後に、クルーニー-ロバーツの早熟な長男を軸にした、「オーシャンズ13」ができる布石がちゃんと打たれているという気がする。現実にロバーツが生んだばかりの双子の女の子を起用しても、それはそれでまた面白いものができそうだ。そん時はいきなり「オーシャンズ14」になるのだろうか。


ところで、私はモーター・スポーツ、特にF1が結構好きでよく見ているのだが、今年のモナコ・グランプリの時、「12」とプロモーションの提携を行ったジャグアは、本番走行でクリスチャン・クリーンの運転するマシーンのノーズにダイアモンドを埋め込んで走らせるというスタントを行った。このレースを見た者なら憶えているだろうが、クリーンはなんと最初のラップでタイヤ・ウォールに激突、時価いくらか見当もつかないダイアモンドがそのショックでどこかへ行ってしまった。とはいえそういうジャグアの個人的な事情のためにレースを中断するわけにも行かず、結局レース終了後もダイアモンドは発見されなかった。どこかの誰かが見つけてポケットにしまった可能性は非常に高い。


実は、私は、そのモナコ・グランプリが「12」のストーリーに絡んでくるものだとばかり思っていたので、レース中に消えたダイアモンド、こんな映画みたいなことが (いや、映画なんですけどね) 本当にあってもいいのか、これがいったいどういうふうに話に絡んでくるのかと、期待に胸を膨らませて「12」を見に行ったのだが、作品はほとんどアムステルダムから離れず、モナコGPのモの字にも触れていなかった。なにが不満かって、それこそが最も不満であった。







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Ocean's Twelve   オーシャンズ12  (2004年12月)

 
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