Ocean's Eleven

オーシャンズ11  (2001年12月)

フランク・シナトラを筆頭とする、「ラット・パック」として知られる不良中年軍団が大挙して出演した60年の「オーシャンと11人の仲間」のリメイク。今、乗っているスティーヴン・ソダーバーグがジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモン、アンディ・ガルシア等錚々たるハリウッドAクラスの俳優を集めて製作した。 よく考えたら、ソダーバーグはこないだの「トラフィック」もリメイクだった。ま、ソダーバーグだからそんじょそこらのリメイクとは一線を画した作品に仕上がるだろうということはわかってはいるが、さて、どういう作品に仕上がったか。


刑務所を仮出所したオーシャン (クルーニー) は、ヘビー級ボクシングのタイトル・マッチが行われ、大量の札束が動くその日に、ラスヴェガスの3つのホテル/カジノを持つハリー (ガルシア) からその現金を強奪する計画を立てる。オーシャンは、その道の達人ダスティ (ピット) やスリのライナス (デイモン)、爆破のエキスパート、ロスコー (ドン・チードル) ら、その道のプロをかき集め、念入りに計画を立てる。しかし彼らが知らなかったことは、実はハリーとつき合っているのがオーシャンの前妻のテス (ロバーツ) で、今回の計画は、オーシャンの意地という意味合いもあった。計画に夾雑物を入れると失敗すると考えたダスティの判断により、最後の最後になってメンバーはオーシャンを計画から外し、残りのものだけで計画を実行に移す。果たして計画は成功するのか‥‥


冒頭、クルーニーが登場するオープニングがまるで「エリン・ブロコビッチ」のジュリア・ロバーツの登場の仕方と同じで、苦笑させられる。ピットは先々週ロバート・レッドフォードと共演の「スパイ・ゲーム」を見たばかりだというのに、もう次の作品が公開。そのピットと「ザ・メキシカン」で共演したロバーツ、ソダーバーグ作品の常連となったドン・チードル、マット・デイモン、さらにデイモンと一緒なのは盟友ベン・アフレックではなくて弟のケイシーの方、その他、往年の名優エリオット・グールド、黒人コメディアンとして今、飛ぶ鳥落とす勢いのバーニー・マック等、いやあ、戦争映画でもないのによくもこれだけ揃えたもんだと感心する。


クルーニー、ロバーツ以外にも、「トラフィック」でいいとこのボンボン役でいい味出していたトファー・グレイスがまた出ている。しかも今度は「ダット・セヴンティース・ショウ」に出ている本人として出ているだけでなく、「ドーソンズ・クリーク」のジョシュア・ジャクソンまでもが本人として、賭けトランプに興じるバカ者たちという役どころで出ているところがなんともおかしい。グレイスはソダーバーグ映画と相性がいいという感じを受ける。やがてソダーバーグ作品で主演することになるだろう。


その他、現在のWBCとIBF世界ヘビー級チャンピオンのレノックス・ルイスまでもが本人として登場する。もちろんこういうのに本人が登場するのは本当っぽい効果があるし、どこからが虚でどこまでが実かなんて現実と虚構の境目が曖昧になってくらくらする面白さがある。それにソダーバーグはいつぞやのインタヴュウで自分がミーハーであることを告白していたから、セレブリティを使う楽しみを抑えきれないんだろう。今にソダーバーグ作品にマドンナが出演するかも知れない。


しかしこの映画、見たやつによると結構がっかりしたという意見が多い。期待度が大きかったやつほどぼろくそに言っている。せいぜいがまあまあかな、という程度だ。特に批評家の意見になると、ほとんど誉めているのを見ない。誉めていたのはエンタテインメント・ウィークリーくらいだ。ソダーバーグだし、皆、極上のテイストを期待していたわけだ。軽いノリの犯罪映画ということで、以前クルーニーが主演した「アウト・オブ・サイト」と比較するコメントをよく目にしたが、そっちの方がよかったという意見が多い。確かに私も期待しており、悪く言うつもりはないが、はっきり言って今回は、悪かないけど中の上といった程度である。相変わらずうまいとは思うんだけどね。


実はこの映画が封切りになった翌12月8日、私は絶対どこかがやってくれるに違いないと踏んでいたオリジナルの「オーシャンと11人の仲間」を、クラシック映画専門のケーブル・チャンネル、TCMが放送した。私はオリジナルを見ていなかったから、比較しながら両方とも楽しんだ。その印象から言うと、作品自体のまとまり自体は今回の方が上だと思う。しかし、オリジナルはそのできはともかく、既にクラシック、というか、カルト化している。ソダーバーグ作品の方は古典になるとは到底思えない。それはなぜか。


結局オリジナルの方は、あれは本当に仲間うち映画で、何人もの登場人物が入れ替わり立ち替わり出てこようとも、その核であるフランク・シナトラの位置は微動だにしない。どこから見ても彼が主役なのだ。たとえ他の登場人物がスクリーンに登場しようとも、全員これはシナトラの映画だということを理解しているため、シナトラを中心に物語が動くのがはっきりわかるのだ。これが心地よいのである。


作品としては冗長で、見ながらもっとタイトな演出ができないのか、とか、もっと構図を工夫できなかったものかねえと思ってしまうシナトラ版がカルト化していまだに見る者が絶えないのは、ひとえにこの見てる時の心地よさに由来しているのは間違いないだろう。私は、サミー・デイヴィスJr.が初めて登場する時、いきなり彼にフル・コーラス歌わさせたのには本当にびっくりしてしまった。ディーン・マーティンだって結構歌うチャンスがある。物語を紡ぐという観点から見ると、まったく逆効果にしか見えないこういうのが、しかしこの作品では逆に魅力となっているのもよくわかる。


ところが今回は、一応ジョージ・クルーニーが主役ということになってはいるのだが、やはり観客はピットやロバーツ、デイモンが出てきたら気になるだろう。 私は別にクルーニーにカリスマがないとはまったく思わないが、それでも他の登場人物がクルーニーを立てながら演技しているようには見えない。皆、自分のやるべきことをこなしてはいるが、結局はそれだけで、しかもクルーニーとは関係のないところでそれぞれの見せ場があったりする。もちろんシナトラ版にも脇役によるそういうシーンは随所にあったが、それらはすべてシナトラを軸として機能していたという印象が違う。どこかしら能率を重視する現代という刻印が今回ははっきりと印されているような気がする。私は本当に、別に今回の映像化がつまらないとか、できが悪いとかは思わないのだが、シナトラ版とクルーニー版のどちらをとるかと訊かれれば、やはりシナトラ版をとると答えざるを得ないだろう。あれは欠点があるからこそ愛される作品に仕上がっていた。


それでも、さらにソダーバーグ/クルーニーの弁明を試みるとするならば、今回は、一応リメイクということになってはいるが、大まかなプロット以外はオリジナルとはまったく別の作品であるということが言える。だから、本当はオリジナルと比較することにほとんど意味はないのだ。やはり今回は、スター総出演の、言わばガラ映画として楽しめれば充分じゃないのか。ソダーバーグの意図もそこにこそあったように思う。オリジナルと比較されるのがわかりきっていて、しかもあれだけの新しいプロットを考えるのは、やはり大したものだ。


蛇足ながら作品とは別の印象を述べると、私は一昨年休暇でラスヴェガスに行き、作品の中にも登場するMGMグランドに泊まったりもした。ラスヴェガスというのは実に人工的な街で、車でラスヴェガス入りすると、本当に砂漠の真ん中にこの街が突如として出現するのを目の当たりにするのだが、その時に受けた印象がいまだに強烈に残っている。多かれ少なかれ、高層ビルの立つ都会はその様な印象を与えるものだが、砂漠のど真ん中で、しかもけばけばしい極彩色のネオン・カラーがひしめくラスヴェガスを、特に夜遠くから眺めると、どの都会とも違う強烈な印象を残す。


本当に周りが砂漠で何もないために、人工と自然とか、持つもの持たざるものという比較や差異が何層倍にも誇張されるのだろう。例えばニューヨークのマンハッタンのスカイ・ラインを眺める時に受ける、金持ちも貧民もすべてをひっくるめて内包しているというような、歴史の大きな懐の中に入るような感覚を、ラスヴェガスからはまったく受けない。ラスヴェガスから受ける印象は、やるかやられるか、のるかそるかである。敗者は、ラスヴェガスから出ていかなければならないのだ。


もちろん、そういう印象はラスヴェガスがギャンブルの街だということを知っている前知識から来ることも多いとは思うし、それに今ではラスヴェガスは健全な家族の娯楽の街と化しているが、それでも世界でこの街だけが強烈にそういった印象を感じさせる街であるということは誰も否定できまい。私はラスヴェガスを舞台にした映画を見る度に、その印象を思い出し、どこかしらそういった街の匂いをとらえているシーンがないものかと探してみたりするのだが、これがわりと見当たらない。「バグジー」がどことなくそういった雰囲気をまとっていたかなという程度である。


で、実はソダーバーグならギャング映画としてだけでなく、そういう身体にまとわりつくような街の気配を演出できたんじゃないかなと、まあ、自分勝手にそういうものを期待していたわけだ。そしたらソダーバーグがやりたかったことは全然別のことであったわけで、もちろんそれがいいとか悪いとかじゃないんだが、おかげで私の中で妄想のヴェガスがまた膨らむのであった。







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