Ocean’s Eight


オーシャンズ8  (2018年6月)

一番残念なのは、「オーシャンズ8」が前「オーシャン」シリーズとほぼなんの関係もないことだ。主人公デビー・オーシャンは「オーシャン」の核であったダニー・オーシャンの妹ではあるが、彼女は前シリーズに登場することはなかったし、そもそもダニーに妹がいたことすら知らなかった。今回そのダニーが登場することもない。というか、ダニーは既に死んだことになっている。 

 

これには正直言って歯軋りを禁じ得ない。前「オーシャン」フランチャイズが「オーシャンズ13 (Ocean’s Thirteen)」でひとまず区切りをつけ、新シリーズが始まるということには異議はない。前シリーズからは時間も経っているし、かつての仲間たちもそれぞれ新しい道に踏み出していることだろう。 

 

となると、新フランチャイズが始まるなら、当然新しい仲間たちが必要となる。その時、その核となるのは、当然ダニーとテスの子どもたちであろう。言い換えるなら、テスを演じたジュリア・ロバーツの3人の子どもたちであるはずだ。私見では既にこれは10年前に約束されていたことであり、現在子どもたちはまだロウ・ティーンだろうとはいえ、やってやれないこともないだろう。というか、今できないならあと10年待てばいいだけの話だ。既に10年待った。あと10年なんか屁でもない。 

 

しかし今回、「オーシャンズ8」が女性版「オーシャン」であると聞いて、とすると、ロバーツの子で確か女の子は3人の子の内一人だけだったはず、どうするつもりだろうと思った。あるいは、まだ生まれたばかりのはずのジョージ・クルーニーの双子の一人も確か女の子だったはず、そちらも利用するか、しかしちょっと無理があり過ぎないかと、様々な妄想が頭を駆け巡る。 

 

それなのに、実は今回の「8」は前シリーズとはまったく関係ない、登場人物も重ならないと聞いた私の落胆は理解してもらえるかと思う。私と同じような展開を期待した映画ファンは世の中に大勢いるはずなのだ。「オーシャンズ14」が本当にできると本心から期待していたわけではないが、それでも新シリーズが始まるなら、やはり最低限オリジナルに対するリスペクトというか言及や目配せは期待するなというのが無理な話だ。前3作を演出したスティーヴン・ソダーバーグが製作に携わっていながら、こういう暴挙を許してしまう。このやり場のない憤りをいったいどうしてくれよう。 

 

だいたい、「オーシャンズ8」という、この「8」という数字からして気に食わない。なんで「8」なんだ。本来あるべき「14」でも本卦帰りの「11」でもない。「8」である納得できる理由はちゃんと提示されているんだろうな。 

 

等々、謂われもない鬱憤を胸に抱えたまま、それでも見に行ってしまうのが、映画好きの哀しい性なのだった。仮にもタイトルに「オーシャンズ」とついているからには、たとえ疑問や苦言提言もろもろの言いたいことがあろうとも、そのまま見過ごすということは到底できない。 

 

上映が始まると、現在捕まって刑務所に服役中の今回の主人公、ダニー・オーシャンの妹であるデビー・オーシャンが、なんとか保釈になろうとインタヴュウを受けている。そのデビーが、囚人服を着ていながらしっかりと化粧していることにまず違和感を覚える。刑務所って、化粧できるのか? これが本人にとって重要なインタヴュウであることはわかるが、しかし就職のインタヴュウとは違うだろ? 

 

と、不服な点がまず目につくが、一方でそもそもの「オーシャンズ11 (Ocean’s Eleven)」の冒頭の出だしも、刑務所に入れられているダニーの保釈のインタヴュウから始まっていた。その轍をちゃんと踏んでおり、今回はその正当な嫡子であることの宣言と見えないこともない。 

 

さらに話が展開し始めると、やはり楽しんでしまう。今回のメインの仕事はメトロポリタン美術館、通称メットのガラ・パーティで使用されるカルティエのネックレスを盗もうというものだ。一応1億5千万ドル相当とされているが、はっきり言ってそんなの言い値であって、1億ドルだろうと10億ドルだろうと、そう言われればこちらは飲むしかあるまい。 

 

いずれにしてもこのガラ、毎夏のニューヨークの風物詩みたいなもので、数多くのセレブリティが、ほとんど仮装行列的奇抜な衣装で登場することで注目を集める。本来ならデザイン・ブックの中でだけしかお目にかかれない、あるいは映画の中でしか見たことのない、あるいはロイヤル・ウェディング以外では目にすることのない、奇想天外な衣装を、セレブがここぞとばかりに着飾って登場する。被りものも多い上に、裾はほとんど箒化していたり歩きにくそうな靴だったりと、ほとんどの者は一人では歩けそうもない。半分はギャグにしか見えないが、それでも見た目に楽しいことは確かだ。 

 

実際に今回の主要メンバーの一人であるハッカーのナイン・ボールに扮したリアーナが、メット・ガラに呼ばれてレッド・カーペットの上を歩いているのを見たこともある。5mくらい裾引きずって歩いていた。サンドラ・ブロックやケイト・ブランシェットもその経験があっても不思議ではない。こういう、虚々実々の思わせ振りなはったりはいかにも「オーシャンズ」らしく、その点で伝統を踏まえているとは言える。 

 

もちろん飾り立てる宝石類もここぞとばかりの一点もの、豪奢なものが借り出される。そこにカルティエの門外不出のネックレスが登場するのはさもありなんと思え、説得力がある。本当にそういうネックレスがあるかどうかは知らないが、この際それは問題ではない。思い出せば「オーシャンズ12 (Ocean’s Twelve)」でも、F1走行でジャグアのノーズにダイアモンドを埋め込んで走らせるなんてプロモーションがあった。こういう派手さも「オーシャンズ」の楽しみの一つだ。 

 

それでも、結局出てくる面々は全員初出だから、これまでの「オーシャンズ」との類似や比較を求めても意味のないことではある。その中で、実は前「オーシャンズ」と関わりのある重要なキャラクター、それも正キャラクターが二人、今回も出ている。もちろんジョージ・クルーニーでもジュリア・ロバーツでもブラッド・ピットでもマット・デイモンでもない。一人はカジノ王ルーベン (エリオット・グールド)、そしてもう一人が、あの、ヴェガスの金庫破りに大きく尽力した、軟体男イェン (シャオボー・クィン) が、今回カメオ登場して場をさらう。実は今回最も漁夫の利を得たというか、印象に残ったのは、私にとってはイェンの活躍だった。まだ現役で活動してたんだな、しかも最も身体的に過酷なこの動きをまだ維持してたんだなと、感慨深いものがあった。 

 

果たして「オーシャンズ9」が製作されるかは現時点では未定なようだが、その布石は打たれているとは言える。一方で、シンガーが本業のリアーナが、製作されるとしてまた出るかはやはり微妙だ。というか、今度こそロバーツの子どもたちが出てくるべきではないのかとも思う。今後の展開を期待しながら待つことにしよう。10年後でも構わない。 











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刑務所に服役中のデビー・オーシャン (サンドラ・ブロック) は、刑務所でネコを被りまくってなんとか保釈を手に入れる。娑婆に出たデビーは相棒のルー (ケイト・ブランシェット) に会い、刑務所でずっと暖めていた計画を打ち明ける。それはメトロポリタン美術館のガラ・パーティで女優のダフネ・クルーガー (アン・ハサウェイ) に貸し出されることになっている、時価1億5千万ドル相当のカルティエのネックレスを頂戴しようというものだった。デビーとルーは借金で後ろに手が回らないデザイナーのローズ・ウェル (ヘレナ・ボナム・カーター)、芽の出ないジュエリー・デザイナーのアミタ (ミンディ・ケイリン)、ハッカーのナイン・ボール (リアーナ)、摺り師のコンスタンス (オークワフィナ)、バッタ屋のタミー (サラ・ポールソン) らを仲間に引き入れ、荒唐無稽にすら見える計画の実現に向けて動き出す‥‥ 


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