Non-Stop


フライト・ゲーム (ノン-ストップ)  (2014年2月)

我らが中年の星リーアム・ニーソンの新作は、「アンノウン(Unknown)」のジャウム・コレット-セラと再度タッグを組んだ、「96時間 (Taken)」シリーズや「ザ・グレイ 凍える太陽 (The Grey)」同様の、やはりオヤジ活劇だった。「ザ・グレイ」公開時に、あと何年こういう役ができるかみたいな発言をしていたが、まだまだニーソンに対するこの手の需要は続きそうだ。


ニーソンがこういう役にキャスティングされやすい最大の理由は、なんといってもその体格、一見強面の外見にある。とはいえ6.4フィート、190cm超えの身長は体格のいい欧米人俳優の中でもさらにでかい方で、共演者と同じフレームに収まることが多い映画の場合、相方とのバランスがあり、でかいということは特にメリットにならない。個人競技のスポーツじゃないのだ。でかすぎる身体を人並みに見せないといけないため、いつも少し前屈みで首を縮めているという印象があった。


そのため、ニーソンは昔から役柄では苦労してきた。主演でも一匹狼やはぐれ者的な印象の役が多かった。特に初期の頃のニーソンの代表作「ダークマン (Darkman)」は、そういうアウトサイダー的な印象が最も濃厚に出た異色快作だった。あれがなかったら、そのまま図体のでかいだけの俳優として終わってしまっただろうという気がする。


逆に同じくアクション俳優のトム・クルーズが、こちらは5.7フィート、167cmと、アジア人の中に入っても高い方ではないため、やはり共演陣、特に女優との絡みの場合、絵作りに苦労する。一時期奥さんだったニコール・キッドマンがクルーズと別れた時、これでまたハイ・ヒールが履けると、いっそさばさばした様子だったのを覚えている。でか過ぎても小さ過ぎても苦労する。逆に言えば、そういう明らかなハンデを乗り越えていまだに一線で活躍している彼らの実力、運、持久力を誉めるべきだろう。


ところでそのニーソン、その図体して、これまで演じてきた役は実は結構女々しいというか、過去を引きずる男が多い。「グレイ」では妻の死から立ち直れない男で、今回は実は飛行機が怖くて離陸の時は娘がくれたお守りを手離せない。そんな男がエア・マーシャルなんかやるか。あるいは、もしかしたらそういうでかい身体にセンシティヴな面も併せ持っているという点も、彼の人気の要因の一つかもしれない。


ところで現在ニーソンも住んでいるニューヨークの市長は、今年からビル・デブラジオというイタリア系白人になった。奥さんは黒人で、いかにもニューヨークらしい。そのデブラジオがまた、歴代NY市長史上最も長身だ。こちらも190cmを超えている。デブラジオは、近年動物愛護精神に反しているとして、名物のセントラル・パークの馬車による観光を廃止しようとしている。それに待ったをかけたのが、誰あろうニーソンだ。


ニーソンは馬車に特別な思い入れがあるようで、馬が虐待されている事実はないとして、真っ向からデブラジオと対立した。ニーソンは現状を見せてあげるとデブラジオを招待しているが、デブラジオは今のところ応えていない。こんなでかい男が二人同じカメラ・フレームに収まることを考えただけで暑苦しい。プロレスだと映えるだろうが。


映画の話に戻って、飛行機アクションものは要するに空を飛ぶ密室アクションであり、うまく作ればかなり濃密なスリル・サスペンスを醸成できる。「エグゼクティブ・デシジョン (Executive Decision)」、「エアフォース・ワン(Air Force One)」、「フライトプラン (Flightplan)」「スネーク・フライト(Snakes On a Plane)」等、玉石混交ではあるが、飛行機ものは見る者をそそる。サスペンス映画でもないくせに胃がきりきりするほど緊張させた「そして、ひと粒のひかり (Maria, Full of Grace)」もあった。コメディだが密室的サスペンス醸成を狙った「アイム・ソー・エキサイテッド! (I'm So Excited!)」なんてのもあったが。


一方、空を飛ぶ飛行機とはいっても、見せ場は逃げるところのない密室という部分にこそあり、スピード感にあるのではない。「エアポート80 (Airport 79)」で、コンコルドが舞台になるからマッハで飛ばさなくてはということで、ではどうしたかというと、客室のデジタルのスピード・メーターがマッハ表示になり、皆さん、マッハです、わあーっという展開になった時には、この監督が演出する作品は二度と見ないと心に誓った。外に速さを比較実感するものがない飛行機の場合、速さを見せるにはそれなりの演出が必要だ。


一方、必ずしも速さを体感させるわけではなく、アクションもほとんどなく、ただ主演のクリント・イーストウッドがコクピットに座って時々唇を歪めるだけの映画「ファイヤーフォックス (Firefox)」が、ただそれだけでえらく手に汗を握らせたという例もある。「ノン-ストップ」の場合は、機内に主人公を脅迫する何者かが潜んでいるというフーダニットのミステリものでもある。見せ方は色々だ。


「ノン-ストップ」はアクション・ガラ映画だからして知られた俳優が大挙して出ている。ジュリアン・ムーアは、以前ニーソンとアトム・エゴヤンの「クロエ (Chroe)」でも共演している。アクションではなく恋愛サスペンス的ドラマだ。アンソン・マウントは、この顔、見覚えがあるんだがどこで知っているのか思い出せないと思っていたら、AMCの「ヘル・オン・ホイールズ (Hell on Wheels)」の主演の彼だった。どんなに主演でも西部劇で無精髭を生やしてカウボーイ・ハットを被っている臭そうな男と、髭剃ってスーツ着て目薬を点す男が同一人物とはよもや思わないのだった。他にもPBSの「ダウントン・アビー (Downton Abbey)」のミシェル・ドッカリー、ネットフリックスの「ハウス・オブ・カーズ (House of Cards)」のコーリー・ストール等、最近アメリカTV界の話題をさらった番組に出ている俳優が出ている。


「それでも夜は明ける (12 Years a Slave)」でオスカーを獲得したルピタ・ニョンゴは、急遽代理で振り替えられてきた、ナンシーを補佐するフライト・アテンダント役で、時々思い出したようにしか出てこないところを見ると、出番がかなりカットされていると思う。これがアカデミー賞後に製作編集されていたなら、もっと出番もあって名前も前面で推されただろうに。自身がオスカーを獲ったわけではないが、「それでも夜は明ける」、そして昨年の「アルゴ (Argo)」と、2年続けてアカデミーの作品賞受賞作品に出ているスクート・マクネイリーもいる。


しかしこの映画、今月、クアラルンプールから北京に向けて離陸した後消息を絶ったマレーシア航空370便の事件が先に起こっていたら、無事公開されたかどうか疑問だ。あれにはアメリカ人も3人乗っていた。事件が起きたのが3月8日で、アメリカ、およびヨーロッパの主要な国では、映画は2月最終週に公開されている。マレーシアでこそ公開は未定なようだが、シンガポールでは2月に公開済みだ。中国人が乗客の3分の2を占めていたことを考えると、中国で映画が公開される可能性はあまりないような気がする。










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エア・マーシャルのビル・マークス (リーアム・ニーソン) は、私生活はうまくいかず、今ではほとんどアル中に近い生活を送っていた。NYからロンドン行きの旅客機に乗り込んだそのマークスのスマートフォンに、何者かからテキストが送られてくる。それには指定の口座に1億5,000万ドルを振り込まなければ、20分毎に乗客を一人ずつ殺すと予告されていた。マークスは同僚のハモンド (アンソン・マウント) と共に犯人を燻り出そうとするが、実はハモンドは麻薬を密輸しようとしており、トイレの中で格闘になった挙げ句、マークスはハモンドの首の骨を折って殺す。しかしテキストを送ってきた犯人はハモンドとは別人で、さらに次のテキストが送られてくる。マークスはフライト・アテンダントのナンシー (ミシェル・ドッカリー) や、隣りの座席に座っていたジェン (ジュリアン・ムーア) の協力を得て犯人を特定しようとするが、逆に乗客の目には、マークスがいかにもハイジャックしているかのように映る。そして二人目の犠牲者が出る‥‥


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