Nocturnal Animals


ノクターナル・アニマルズ  (2016年11月)

つい先頃「メッセージ (Arrival)」で見たばかりのエイミー・アダムスが主演の「ノクターナル・アニマルズ」は、今度は母性に溢れた「メッセージ」の役柄からがらりと変わり、情より自分のキャリアを優先させるビジネスウーマンを演じるサイコ・ミステリだ。 

 

演出は6年前 (もう6年前になるのか) の「シングルマン (A Single Man)」以来の監督2作目となるトム・フォード。今回もスタイリッシュな映像は変わらず、その上現実と虚構が交互に展開する構成で、さらなる眩惑世界を提出する。原作はオースティン・ライトの「トニー・アンド・スーザン (Tony and Susan)」で、早川から「ミステリ原稿」という邦題で出版されている。 

 

原作では主人公のスーザンは平凡な家庭の主婦という設定だそうだが、デザイナーのフォードとしては、それは我慢がならなかったようだ。それはわからんではない。主人公を何着ても様にならないお腹の出始めた田舎の平凡な主婦という設定にしてしまったら、自分が服をデザインする楽しみがまるでなくなってしまう。ここは何がなんでもアート関係か、上流育ちのお洒落な女性にする必要がある。 

 

というわけで平凡な主婦から成功したアート・ディーラーへと出世したスーザンが映画の冒頭、自分が企画した展示会でお披露目しているのは‥‥、デブだ。それもほぼ裸の超大デブの女たちだ。 

 

これには度肝を抜かれた。映画が始まった途端に見せられるのが、完璧デブ女たちの裸体を晒した展示会で、老若交えた超ど級の大デブ女たちが、ゆらゆらとおっぱいや弛んだお腹やケツを振り回して人々の視線を集めている。テーブルの上で女体盛り的観賞物になっている者もいる。もしかしてデブ専なら目くるめく夢のような世界なのかもしれないが、一般的には腰が引ける。しかしどうやらこの展示会はすこぶる成功しているらしい。いずれにしても、このつかみはすごいと言わざるを得ない。 

 

ビジネスでは成功しているスーザンだが、私生活はお世辞にも満足できるものとは言い難かった。夫のハットンは浮気しており、娘は既に成長して家を出ている。スーザンには心を許して話し合える相手はいなかった。そんな時に前夫のエドワードから、小説の草稿が送られてくる。最初は愛し合っていた二人だったが、ロマンティストのエドワードと現実派のスーザンでは結局うまく行かず、ほとんどスーザンがエドワードを捨てるような形で別れていた。 

 

小説はエドワードの分身と思える男トニーが、妻、娘と共にクルマに乗ってロード・トリップに出かけるところから始まる。しかし途中、トニーたちはならず者たちが乗るクルマに絡まれ、妻と娘を拉致されてしまう。トニーだけはなんとか逃れて翌朝近くの民家にたどり着き、助けを求める。トニーとシェリフのアンデスは、昨夜のエドワードたちの行動をたどる‥‥ 

 

近年は、アメリカでクルマで事件に巻き込まれる時はいきなり撃たれることの方が多いのだが、ねちねちと幅寄せして迫ってくるこういう嫌がらせの方が、相手がどう出てくるかわからないだけに、やられる方はもっと怖いだろう。トニーに扮するのはジェイク・ジレンホールで、マッチョな役も「ナイトクローラー (Nightcrawler)」みたいな悪役もできるが、根が真面目そうであるだけに、こういう被害者をやらせるとはまる。 

 

中盤以降、小説を書いたエドワード本人もスーザンの回想の形で登場するが、それもジレンホール自身が演じている。そのため、小説の登場人物のトニーとスーザンの夫だったエドワード、それにスーザン自身も加わることにより、だんだん小説と現実の境い目が曖昧になってくる。これはエドワードが書いた小説なのかそれともスーザンの妄想なのか。 

 

職務に忠実なのか自分のやりたいことをやっているだけなのか、粘着質のシェリフを演じるマイケル・シャノンも結構怖い。この人はヘンに善人ぶらないで切れさせると、凄味が増す。暴漢のマーカスを演じるアーロン・テイラー-ジョンソンは、「アベンジャーズ (Avengers)」ではスーパーヒーローの一人だったのに、悪い男役も悪くない。上辺は巧いことを言いながら浮気しているスーザンの夫のハットンに扮するアーミー・ハマーも、嫌味ないい味出している。 

 

実は最も微妙な配役なのが、主人公のスーザンを演じるエイミー・アダムスだ。つい先日見た「メッセージ」がよかっただけに、こちらはちと浮いているというか、役にぴたりと合っているという印象を受けない。アート・ディーラーにしては素が庶民的過ぎるというか。「プラダを着た悪魔 (The Devil Wears Prada)」のメリル・ストリープみたいで、上手なんだけれどもちょっと違うという感じ。あるいは、そういうミスマッチ的な感触を意図的に出しているのかもしれない。いずれにしても、なまじっかのホラーよりよほど怖い作品。 

 










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アート・ディーラーのスーザン (エイミー・アダムス) は、ビジネスパーソンとしては成功していたが、夫のハットン (アーミー・ハマー) は身持ちが悪く、結婚生活はほとんど破綻していた。ある日スーザンは前夫のエドワード (ジェイク・ジレンホール) から小説の草稿を受け取る。エドワードは優しかったが感傷的過ぎて、結局二人は別れることになった。エドワードの小説は、自分の分身と思えるトニーという男と妻、娘を描いていた。トニーが運転して3人はロード・トリップに出かけるが、途中、夜、ならず者の3人組が乗るクルマに絡まれる。トニーたちのクルマは強制的に停められ、トニーは妻と娘がさらわれるのを止める手立てはなく、一人だけやっとのことで逃げ出し、翌日、警察に助けを求める。定年を間近に控えたシェリフのアンデス (マイケル・シャノン) は、トニーと共に昨夜の足跡を辿る‥‥


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