放送局: G4

プレミア放送日: 10/3/2006

アメリカン・ニンジャ・チャレンジ放送日: 11/14/2007 (Wed) 20:00-23:00

製作: 東京放送


内容: 東京放送の「SASUKE」および「KUNOICHI」を30分枠に編集して字幕つきで放送。


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「ニンジャ・ウォリアー (Ninja Warrior)」すなわち東京放送の「SASUKE」は、2006年秋からアメリカでも既に放送は始まっている。しかし私は最初その話を聞いた時、どうせまた日本製アニメの吹き替えだろうと早合点して、特に注意を払ってはいなかった。「ドラゴンボール」や「ナルト」の延長線上にある、格闘技系、サムライ/ニンジャ系アニメの人気はいまだに高く、「ニンジャ・ウォリアー」のオリジナル・タイトルが何かは知らないが、どうせまたその系統の番組だろう、そこまで押さえておくほど私は暇ではないと思ったのだ。


ところが、夏場あたりからこの「ニンジャ・ウォリアー」の噂をたびたび耳にするようになった。それによると、どうもこの番組、アニメではないらしい。そうではなく、現在スパイクTVが放送している「風雲! たけし城」こと「MXC」と同じ文脈で語られており、同様に面白いという話だ。なに、もしかして、これってお笑い体力勝負系? と思ってほとんどなんの期待もなく合わせてみたチャンネルで、私たち夫婦は見事にはまってしまった。元々「MXC」も結構見ており、一時は週末暇があれば「MXC」というくらいよく見ていた。この手の番組にはまる素地はもとより充分にあったのだ。


「ニンジャ・ウォリアー」を放送しているG4は、一言で言うとオタク向けチャンネルだ。ゲーマー向けの番組が朝から晩まで編成されており、私のように別にPCゲームにあまり興味がないという輩には、普通ほとんど縁がない。むろんだからこそアニメや日本のオタク文化とは共通項が多く、G4が「ニンジャ・ウォリアー」を編成しているのはわからないではない。チャンネルを代表する番組の一つであるゲーム業界最新情報紹介番組の「アタック・オブ・ザ・ショウ (Attack of the Show)」は、番組開始時に「テレビ番組の攻撃」という日本語タイトルまで入る。


G4はわりと新し目のチャンネルということもあり、デジタル・チャンネルではだいたいどこのケーブルでもチャンネル数は3桁で、私の住むクイーンズのRCNケーブルでは、147というチャンネル数をあてがわれている。通常チャンネル数が一桁台のネットワークしか見ないという視聴者なら、いまだにG4というチャンネルそのものを知らない者も多いだろう。因みにうちの女房がまさしくそのタイプで、PBSの13以降のチャンネル数などほとんど覚えていなかったのだが、その彼女が現在13より上で唯一覚えているチャンネルが、このG4の147なのだ。


彼女にTVのリモートを持たすと、まず1から13まで順繰りに上がっていって面白いものを探せなかった場合、いきなり次は147に飛ぶ。その間のすべてのケーブル・チャンネルは無視かよ、と、なんとなく業界の人間にシンパシーを感じてしまうのだった。ブラヴォーの「プロジェクト・ランウェイ」だけはベイシックのケーブル・チャンネルでも毎週見ているのに、やはり39というチャンネル数は覚えられず、毎週「プロジェクト・ランウェイ」はなんチャンネルだった? と私に訊いてくる。それでも147だけは覚えているところが、中毒者続出の「ニンジャ・ウォリアー」人気を物語っていると言える。


東京放送のオリジナルの「SASUKE」は毎週のレギュラー番組ではなく、不定期の特番として製作されている。G4はそれを一話30分の番組として編集し直して放送している。特に順番にこだわっているわけではなく、数年分飛んだり戻ったり、第2ステージの途中で終わっても次放送されるエピソードがその続きとは限らない。それでも面白く見れるところが番組の人気の所以だろう。再放送も含めてほとんど毎日放送されているから、いつかはその続きも見れる。


一方でオリジナルの体裁に忠実なのが、出演者や実況アナウンサーの発言だ。「MXC」の場合は吹き替えで、たけし軍団がしゃべっているセリフとはまったく異なるオリジナルの英語を捏造して上から被せていたが、これには賛否両論あった。むろん日本人である私にとっては、意訳とすら言えないまるっきりでたらめな英語を被せられるよりは、字幕にしてもらった方がありがたいと思っていたのは言うまでもない。


どうやらアメリカ人でもあのしゃべりをうざったいと思っていた者は多かったようで、「ニンジャ・ウォリアー」においては基本的に日本語のセリフには手をつけずにすべて字幕に置き換えられ、英語による紹介は番組冒頭やコマーシャル明け等のポイントとなる区切り部分に限られている。あのいかにも日本のプロレス中継的な、意味があるようでなさそうなアナウンサーの実況もちゃんと訳が出る。どうしても意味不明なところは飛ばしているが、結構真面目に訳しており、この発言をなんと英訳しているのかと予想する楽しみもある。


番組体裁における唯一の不満は、コマーシャル明けに一瞬見せるティーザーで、これから挑戦者が挑むステージ部分を一部見せてしまうことにある。例えば、ミスター・ニンジャ・ウォリアーのヤマダが第2ステージに進み、それをこれからやるというところで、その前にその第2ステージの何番目かの障害物である天秤棒を担いでのショルダーウォークに挑戦しているところを先に見せて欲しくなんかない。要するにその前の障害物は既にクリアしたことを教えていることにしかならないからだ。なんでこんな、興を削ぐような真似を平気でしてしまうのか理解に苦しむ。


「ニンジャ・ウォリアー」では「SASUKE」だけでなく、「KUNOICHI」も同じ枠で放送されている。私もおかげですっかりミズノさんのファンになってしまったが、いったいいつの「KUNOICHI」でか、わりと痩せぎすの子が顔面から壁にぶつかっていくという痛いシーンがあった。G4はよほどこのシーンが気に入ったのだろう、番宣用に使っている。糸の切れたマリオネットみたいに顔面から壁に正面衝突するのだ。何度見せられても痛いと思う。「のだめカンタービレ」ならここで横に吹き出しが入って「うがっ!」という感嘆詞が入るところだ。この番宣を見せられるたびに、ああ、こんな末代までの恥になるようなシーンを何度も何度も見せられて、私がこの子じゃなくて本当によかったと毎回思う。


さて、その「ニンジャ・ウォリアー」、スパイクにおける「MXC」同様のカルト的人気を集めだし、現在ではチャンネルを代表すると言っても差し支えないくらいの人気を誇る。再放送がほとんど毎日あるし、朝から晩まで「ニンジャ・ウォリアー」マラソンまで編成され始めた。ここにいたってG4は、この人気を利用しない手はないと考えた。そこで誰でも真っ先に考えるのは、リメイク権を購入してのアメリカ版「ニンジャ・ウォリアー」の製作だろう。


とはいえ同様のことを考えてスパイクの製作した自社版「MXC」がいかにつまらなかったは、さすがにG4も知っていたようだ。特にこのようなキッチュな味付けがミソのリアリティ・ショウの場合、現地版を製作しようにも無理があったりする。それが人気の元であるオリジナルのテイストがリメイクされる段階で雲散霧消してしまい、できあがったものは面白くもなんともない場合が往々にしてあるのだ。


そこでG4がとった方法は、いまだに不定期に製作されている現地オリジナル版にアメリカ代表を派遣して、他の現地挑戦者共々「SASUKE」に挑戦させようというものだった。G4はキャンペーンを企画して応募者を募り、ホームページにて応募ヴィデオを公開、ユーザ投票によって3人にまで絞り、その3人を西海岸に招集して最後のテストを行い、そしてアメリカ代表に決まったのが、コリンとブレットという二人共20代前半の若者だ。優勝はコリン、次点がブレットで、最初東京派遣はコリンだけかなと思っていたのだが、特別計らいでブレットの派遣も認められた。


G4はその最終選別の模様を逐一ホームページおよび自社番組内で報告、「アメリカン・ニンジャ・チャレンジ」を執拗に盛り上げた。我々夫婦がこれにものの見事に乗せられたのは言うまでもない。コリンとブレットがアメリカ代表に決まったのが夏、秋には東京放送が製作する最新「SASUKE」に派遣され、今度はほとんど日本と同時期にG4でも、彼等が参加する「ニンジャ・ウォリアー」が放送されると聞いて、その時を心待ちにしていた。


放送当日はG4は3時間枠で「ニンジャ・ウォリアー」を提供、まず最初の30分で、二人がアメリカ代表として選ばれるまでの経緯を報告する。次の30分が、東京に渡った二人が「SASUKE」収録当日までをどのように過ごしたかの記録だ。千葉県印旛沼のシラトリ・ブンペイの家にお邪魔して私設セットで「ニンジャ・ウォリアー」対策を練ったかと思えば、彼等が泊まっているホテルを訪れたのは、「SASUKEオールスターズ」のナガノ、ヤマモト、タケダらで、当日を前に日米の代表同士で親交を深める。そうやって盛り上げておいて、次の1時間30分でついに最新版の「SASUKE」、つまり「ニンジャ・ウォリアー」がいよいよ放送だ。


しかしそれにしても、毎回難しくなっていく「ニンジャ・ウォリアー」、今回は特に、あのジャンピング・スパイダーは距離が遠くなって角度も大きくなってないか? あれはちょっと、クリアするのはほとんど無理なんじゃないの、とTV画面を見ているだけで思う。実際ほとんどの者は、そこまでは結構楽々とこなせてきた者でも、だいたいがここで脱落している。ありゃあ難しいよ。サーモン・ラダーなんて、見ているだけで手の平にまめができて筋肉が攣りそうだ。あれを成功させるやつがいるというのがすごい。


結局、期待のコリンとブレットの二人共ジャンピング・スパイダーで涙を呑んだ。特にブレットは日本人と比較しても体格は小さい方のため、かなり不利だったろう。うちの女房なんて、そこまでで充分乗せられているために、ほとんどオリンピック決勝に挑む陸上選手の応援並みに緊張して、手の平に汗をかきまくりながらTVに集中していた。残念だったね。


ブレットはわりと小さめでハンサムで愛嬌があって巻き毛のブロンドとかなり芸能人ぽく、日本の女の子受けしそうだ。実際当日は、特に緑山入りしたブレットに女の子の視線が集まっていた。彼は星条旗をあしらったパンツを穿いていたのだが、ある女の子にそれが欲しいと懇願され、その場で脱いで手渡していた。アンダー・パンツを穿いてなければどうなったことやら。


番組は放送枠の最後の30分枠をまとめに使い、アメリカに帰ってきたコリンとブレットの「SASUKE」体験を回顧する。このスペシャル企画は充分話題を集め、元をとったようで、G4はすぐに次の「SASUKE」にもアメリカ代表を派遣することを決め、現在既に応募者を募っている。もちろん視聴者としてはこちらに異存はない。


周知のようにアメリカでは現在、脚本家組合 (WGA) がスト継続中で、特に年末辺りからネットワーク番組は再放送が格段に増え、年が明けた現在ではドラマやシットコムに関する限り、目ぼしい番組の新エピソードの放送はほとんどない。それで勢いネットワーク以外のチャンネルで何か面白い番組をやってないか探す機会が増えるのだが、そういう時、まず真っ先に頭に思い浮かぶのが「ニンジャ・ウォリアー」というのが習慣になりつつある。それはうちの女房も同じで、「今日は『ニンジャ・ウォリアー』やってないのー?」と言うのが最近の彼女の口癖だ。まだ見てないエピソードはあとどれくらいあるだろう。


最近、東京の鬱の人をとらえた「ダズ・ユア・ソウル・ハヴ・ア・コールド?」だとか、主人公の身体が麻痺してしまう「潜水服は蝶の夢を見る」だとかヒース・レッジャーの過失死だとか、そんな話や番組や映画ばかり見たり聞いたりする機会が多く、もう勘弁してくれとかなり切実に思っていた。そういう時に思う存分笑わせてくれる「ニンジャ・ウォリアー」は、実は気分を前向きにしてくれるのにかなり効果がある。私にとっての現在の「ニンジャ・ウォリアー」は、9/11直後の「フレンズ」同様の、心身リラックス効果が高いのだった。こういう番組がほぼ毎日編成されていることにほとんど感謝していたりする。 






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ニンジャ・ウォリアー (SASUKE/KUNOICHI)   ★★★

 
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