ナイトリー・ニューズ

放送局: NBC

最終回放送日: 12/1/2004 (Wed) 18:30-19:00

製作: NBC

ホスト: トム・ブロコウ


イヴニング・ニューズ

放送局: CBS

最終回放送日: 3/9/2005 (Wed) 18:30-19:00

製作: CBS

ホスト: ダン・ラザー


内容: 30年間続いた2本の長寿ニューズ番組の最終回。


_______________________________________________________________


ちょっと書きようがなくて上で最終回なんて書いちまったが、もちろんNBCとCBSを代表するワールド・ニューズ番組は現在でも続いており、両方共最終回なんかではまったくない。共に、20年以上も勤めてきたそのアンカー (これまたホストというよりもアンカーというのが正解だろうとは思うが、どうしてもホストと言ってしまいたくなる) が番組を去る、その最後の回という意味でしかない。


その二人、NBCの「ナイトリー・ニューズ」のトム・ブロコウとCBSの「イヴニング・ニューズ」のダン・ラザー、そしてこちらはまだ番組を辞めるわけではないABCの「ワールド・ニューズ・トゥナイト (World News Tonight)」のピーター・ジェニングスを合わせたネットワーク・ニューズを代表する3人が、アメリカにおけるワールド・ニューズを牛耳っていた時代は、CNN、そして現在ではFOXニューズ・チャンネル (FNC) の躍進によって、今でははっきり言って過去のものとなりつつある。


しかしワールド・ニューズと聞いて人が即座に思い出すのは今でもこの3人以外の何者でもなく、その知名度は現在でもなんら変わるものではない。今でもやはり、世界でこれぞという大きな事件があった時に人々がチャンネルを合わせるのは、どこから見ても右寄りのFNCではなく、やはり少なくとも公正な視点を心がけている、ネットワークの上記の3番組のうちのどれかだろう。


こういう歴史と定評のあるニューズ番組ではあるが、私はそれらの番組をほとんどまともに見たことはない。日本でもアメリカでもだいたい夕方6時台はニューズ番組を編成しているが、通常、この時間帯に働き盛りの年代がうちにいてニューズを見ていることなぞ、まずありえない。よほど楽な仕事をしているか、在宅ビジネスか、普通ではない時間帯の仕事をしているか、あるいは定年後の人間でもない限り、日本だろうがアメリカだろうが、この時間帯のニューズを見れるビジネスマンがそれほどいるわけがない。


それなのにこの時間帯にニューズが集中しているのは、TVができた半世紀前に、この時間帯にうちにいて、世界の動向を気にかけていた一般視聴者が多かったからに違いないが、今ではそれは無理な話だ。現在ではこの時間帯のニューズは、外で就業している一般成人男性より、うちにいる主婦業、あるいは在宅ビジネスマン向けとしての意味の方が大きいだろう。こうして視聴ターゲット層を少しずつ違えながら、ニューズ番組は今も昔もこの時間帯に放送されている。現在では、ビジネスマンのほとんどは夜10時か11時からのネットワーク・ニューズの方を見ているはずだ。


考えるに、今では特にワールド・ニューズは、アメリカ国内ではなく、アメリカ国外にいるアメリカ人のために放送されているんじゃないかと思える。衛星の発達により、アメリカ発信のニューズを世界中どこにいても見れる時代になりつつあるが、その時、アジアとヨーロッパとアメリカで時差を考えて放送することなどほとんど無意味である。こちらが昼ならどこかは必ず深夜や早朝なのであり、いちいちどこかの時間帯に合わせて番組を放送することに益はない。ワールド・ニューズ番組は、3大ネットワークにおいては伝統的に夕方6時半から7時まで編成されているが、今ではそれを動かす積極的な理由もないからそのままそこにいるというのが本当のところなんじゃないか。


実際、その時間帯にうちにいることなぞまずありえないワールド・ニューズ番組を、私はこれまでほとんど見るチャンスはなかった。その日のうちに見なければ意味をなさない毎日のニューズを、録画してまで見ようという気も起こらなかった。そして実際の話、CNN、CNNヘッドライン、FNC、MSNBC、CNBCからNY1のような地方ニューズ局まで、一日24時間いつもどこかでニューズをやっているという時代に、たとえネットワークの定評あるニューズ番組であろうとも、追っかけてまで番組を見る気になぞ到底ならなかったというのが正直なところである。当然、私のように考える視聴者は多く、というか、たぶん現代のほとんどの視聴者は私と同様なものの考え方をするだろう。その結果として、ワールド・ニューズはこの競争の時代において、毎年視聴率を落とし続けていた。


その中で最も頑張っていたのは、ブロコウの「ナイトリー・ニューズ」である。ブロコウは現在65歳で、66歳のジェニングス、73歳のラザーの三羽烏の中で最も若い。だが、「ナイトリー・ニューズ」は、「イヴニング・ニューズ」、「ワールド・ニューズ・トゥナイト」を抑え、常にこの3番組の中では視聴率ではトップだった。だいたい、常にトップに「ナイトリー・ニューズ」があって、そのすぐ下に「ワールド・ニューズ・トゥナイト」、ちょっと差があって「イヴニング・ニューズ」という図式が、この7、8年間というものほとんど変わらずに続いていた。


それ以前には、報道番組で定評のあるABCの「ワールド・ニューズ・トゥナイト」の方が人気があったのだが、それまでほとんど不変だったその図式を、ブロコウが塗り替えたのだ。ブロコウは三者間で最も若いだけでなく、また、実際にも若く見えた。私の目から見ると、最も歳をとっているのがジェニングスで、ラザー、ブロコウの順に若くなるように見えた。実際、ブロコウはそういう万年青年みたいな持ち味が売りであり、いかにもアメリカの平均的な国民の総意を代表するとでもいうような、お隣りの頼れるお兄さんみたいなところが人気の秘密だった。


一方、ジェニングスはもの静かなできた人間という感じで、彼が実年齢よりいつも上に見られていたのはそういった印象のせいが大きい。ラザーの場合だと、いつも何か世間を騒がせる発言をする問題児みたいなところがあり、そういうヴァイタリティのあるところが彼を若く見せている。ジェニングスとラザーとではラザーの方が7つも歳上なのだが、どうしても物腰の柔らかいジェニングスの方が歳上に見える。


60代中盤から70代というのは、一般的ビジネスマンの感覚から言うと、そろそろ引退を考える時という気は確かにするが、しかし、経験、技術、それに知名度というこれまでの積み重ねが大きく物を言うニューズ・キャスターという商売にあっては、必ずしもそうとは言えない。彼らはワールド・ニューズの、引いてはネットワークの顔なのであり、彼らが毎日同じ時間にブラウン管上に現れることは、既に国家的行事なのだ。つい先頃までABCのニューズ・マガジン「20/20」でアンカーを務めていたバーバラ・ウォルターズ女史だって今年74歳だが、それでも現役ばりばりで、「20/20」こそ引退したが、朝のトーク・ショウ「ヴュウ (View)」ではいまだに共同ホストを務めている。


少し話は逸れるが、今年のアカデミー賞受賞式で、そのウォルターズより一つ若いだけのクリント・イーストウッドが監督賞を受賞した時のスピーチで、その他の御大に較べれば、自分なんてまだまだ子供みたいなものとぶって受けていたし、FXの「ニップ/タック」では、60代のヴァネッサ・レッドグレイヴが実の娘のジョーリー・リチャードソンとセックスでも勝負していた。実際の話、現在では60代なんて引退を考える年齢でなぞまったくないのだ。


そういった中、昨年、そのワールド・ニューズでトップを独走するブロコウの突然の引退宣言は業界をかなり驚かせたと言っていい。73歳のラザーがまだまだやる気を見せている時に、トップを走っている65歳のブロコウが番組を辞める理由なぞさらさらなかった。結局、第三者からは一種のバーン・アウトだろうかと想像するしかないのだが、ニューズ・アンカー、それも世界中のニューズに始終目を光らせてないといけないワールド・ニューズのアンカーという業務がかなりの激務であろうことは想像に難くない。


また、いくらブロコウといえども、今後、人々がニューズをTVからではなく、インターネットから取得するようになるだろうという事態を避ける術はない。好きな時にアクセスでき、さらに速報性、リアルタイム性という観点から見ても、ニューズ報道におけるインターネットの優位は明らかである。これに対応するために、今後のTVにおける報道は、一目でわかるイメージ重視の簡潔な報道と、一方でより詳細な分析を求めるという風に二極分化していくものと思われるが、その時に、たとえブロコウが現在無敵であろうとも、将来にわたってそのことを保証するものは何もない。


さらに、それぞれが強烈なエゴ、押しの強さを持たなければ到底やっていけないこの職務において、後継者というものはなかなか育ち難い。その点、ブロコウの配下にブライアン・ウィリアムズという若手の存在がいたことは、ブロコウが早めの引退を決意した理由の一つにもなろう。ウィリアムズがいたことで安心して辞められるだろうし、また、今のうちにウィリアムズを三強の一角に忍び込ませておくことができる。NBCとしても文句はあるまい。


そのブロコウ引退の発表の後に、一つ業界を騒がせる事件があった。それが9月に起こった、ラザーが偽情報に踊らされた挙げ句、ブッシュ大統領が軍歴を詐称していると誤報道してしまった事件である。後日この情報を漏らした本人がこれは嘘だったと告白するに及んで、ラザーは窮地に立たされた。それでもラザーは、最後の最後まで失敗は認めつつも絶対に謝らず、情報は間違っていたかもしれないが自分のしたことは間違っていなかったと言わんばかりの態度をとり続けた。このくらいのエゴの強さがないと、ネットワークのニューズ・アンカーなんて務めてられないんだろう。


とはいえ、これでラザーの経歴に大きな傷がついたことは間違いない。そしてたぶんこの事件が引き金となったんだろう、ラザーも「イヴニング・ニューズ」を降りることを発表する。ラザー自身は、ブッシュ経歴詐称の誤報道による引責が自分が番組を辞める理由ではないと否定したが、少なくともその一端がこの誤報道にあったのは誰の目にも明らかである。たぶんあらゆるところから圧力がかかったに違いない。


第一、番組プロデューサーが何人もそのせいでクビになっているのに、この疑惑の報道の最終決定時に大きな発言権を持っていたはずのラザーが何のお咎めもなしでは、それこそラザーの経歴に疑惑の目も向こうというものだ。また、ラザーは、CBSで他にも長寿ニューズ・マガジンの「60ミニッツ」でも共同アンカーを担当している。いざとなれば、「イヴニング・ニューズ」がダメでもこちらがあるさ的な気持ちもあったのではなかろうか。


さて、そんなこんなで、まずブロコウの「ナイトリー・ニューズ」の最終回が12月1日に放送された。内容自体はいつもと変わりなく、戦争後初の選挙が間近に迫ったイラクの最新情勢や、戦争で受けた負傷のせいで四肢の切断を余儀なくされたり、後遺症のある米軍人のリハビリテーションのニューズを中心として構成され、番組の最後にブロコウが、これまで長い間ありがとうと、簡単なお別れのスピーチを述べて自分の最後の放送に終止符を打った。20何年間がたったこれだけで終わり? と思えるくらい淡々としたもので、そのあっけらかん加減が、逆にプロという感じを濃厚に感じさせた。


一方、ラザーの「イヴニング・ニューズ」の最終回は、年が変わって3月に放送された。こちらの方は最近の石油価格の暴騰が最初のニューズで、最後のニューズは9/11再訪みたいな感じで、いかにも最終回を意識しているなという印象を受けた。実際その後、CBSはラザーのキャリアを回顧する1時間の特番「レポーター・リメンバース」を製作してプライムタイムに放送しており、えらくまた持ち上げているなという感じがした。ラザーの最後のスピーチも、ブロコウのスピーチに較べて心持ち長く、しかもやたらと間をとって、「私はここで、勇気という言葉を使いたいと思います」なんて非常にもったいぶった言い方をしており、こういった受けを狙うところが、確かにこの男の特長だよなと思わせた。


現在では「ナイトリー・ニューズ」はウィリアムズがつつがなく跡を継いでおり、一方、「イヴニング・ニューズ」はラザーの代わりにボブ・シファーが暫定ホストを務めている。最終的には複数ホストが交互に務めるという案が優勢のようだが、まだどう転ぶかわからない。「ナイトリー・ニューズ」は今でも視聴率では三者間でトップだが、「イヴニング・ニューズ」はジリ貧という感じで、最低記録を更新したりしているところを見ると、近々のうちになんらかの梃入れは避けられないだろう。また、間隙を縫ってジェニングスの「ワールド・ニューズ・トゥナイト」が、「ナイトリー・ニューズ」との差を詰めてきており、ウィリアムズも必ずしも安泰というわけでもなさそうだ。


とまあ、短期間にいろいろあった米ネットワークのワールド・ニューズ業界であるが、それでも、いずれにしてもいつかはホスト交代というような変化は避けられないわけで、三つのうち二つまでがホストが辞めるという事態になっても、私はだからといって、特になんらかの感慨を持っていたわけではなかった。結局ほとんど見ていない番組だし、関係ないや、みたいな気持ちが強かったのは事実である。


ところが、そういう変化の真っ最中に、その、最後の砦であるはずのジェニングスが、番組内で自分が肺ガンにかかっていることを告白した。最近ジェニングスはめっきり老け込んだように見えて、しかも痩せてきているという印象は受けていたから、病気ということ自体が特に青天の霹靂といったわけでもなかったのだが、それでも、第三者が体調悪そうだなあと思っているのと、本人の口からガンの告白を聞くのとでは雲泥の差がある。


とはいえジェニングスは、今後、病気療養は避けられないとはいえ、番組を辞めると宣言したわけではない。しかしそれでも、視聴者の胸に、ジェニングスもたぶん長くはないだろうという印象を植えつけた。ここへ来て3強が全員辞めるか、結局そうなる可能性が大きいことが明らかになったのであり、さすがにこれには私も動揺してしまった。いくらなんでも3人とも一斉に辞められることに対しては心の準備ができていない。それにしても、自分のガンの告白をさも他人事のように飄々と述べるジェニングスも、やはりプロだと思わせた。


さらに、伏兵というわけではないが、ネットワークのワールド・ニューズという点ではこの3人に勝るとも劣らぬ貢献度を持つABCの深夜ニューズ・マガジンの「ナイトライン (Nightline)」のテッド・コッペルまでもが、今年度末の契約切れをもって番組を去ることを発表した。忘れていた! そうだ、コッペルの契約は今年で切れるんだった。しかも、3年前にネットワーク幹部によって番組を辞めさせられそうになったという経緯を持つコッペルが、自分のプライドにかけても契約を更新しようと考えることなぞありうるわけがなかった。3強どころかネットワークの4強のワールド・ニューズ・アンカーが、全員一斉に辞めてしまう (いや、だからジェニングスは辞めるとは言ってないわけだが)。こんなことがあってもいいわけ?


本人たちが共闘していたり意図したりすることなど何もなかったのにもかかわらず、こうして一気に一つの時代というものが刷新されてしまう。不思議だがこういうことが起こる時というものは起こるものであり、それが時代の流れというものだろう。彼らが次世代のアンカーに代わってしまえばしまったで、すぐそれに慣れてしまうと思うが、それでも、一つの時代が終わったという感じはどうしてもつきまとう。たぶん、近い将来において過去を振り返った時に、2005年という年は、ニューズ界におけるインターネット以前と以降といった境い目の年、ニューズ・アンカーという個人が重大ニューズを伝えた最後の年として記憶されることになると思う。今後、視聴者はますますインターネットを利用してワールド・ニューズを取得するに違いなく、絶大なる影響力を持っていた過去のニューズ・アンカーという存在を歴史の中に眺めることになろう。



追記 (2005年8月)

今春、肺ガンの告白をして以来番組を休み、闘病生活に入っていたジェニングスの訃報が、夜、CBSのニューズを見ているといきなり飛び込んできた。現在ではガンに冒されているとはいっても、発見さえ早ければかなりの確率でガンは克服できるものという認識が一般に浸透している。そうやってヤンキースのマネージャー、ジョー・トーレも、元NY市長ジュリアーニも、ツール・ド・フランス7連覇のランス・アームストロングも、それぞれガンを克服して一線に復帰してきた。


そのため私は、ジェニングスがガンに冒されているとはいっても、それがすぐに彼の死に結びつくものとは考えてもいなかった。むしろ、彼はまた近々のうちに全快して職場に戻ってくるものだとばかり思っていたのだ。それがまさか、こんなに早い段階で彼の死を迎えようとはまったく予想もしていなかった。彼はまだたったの67歳なのだ。そんな歳、現代では壮年としか言わないだろう。先ほどキッチンで一人煙草を吸いながら、私もそろそろ本気で禁煙を考えないといけないな、などとしみじみと思ってしまった。





< previous                                    HOME

 

Nightly News   

ナイトリー・ニューズ   ★★1/2

Evening News   

イヴニング・ニューズ   ★★1/2

ダン・ラザー

トム・ブロコウ

ピーター・ジェニングス

 
inserted by FC2 system