放送局: ABC

プレミア放送日: 9/29/2005 (Thu) 21:00-22:00

製作: ビッグ・ライト・プロダクションズ、タッチストーンTV

製作総指揮: フランク・スポトニツ、ダニエル・サックハイム

共同製作総指揮: ミシェル・マクラーレン

製作: ロリ・エッタ・タウブ

クリエイター/脚本: フランク・スポトニツ

監督: ダニエル・サックハイム

撮影: クラーク・マシス

美術: ウォルデマー・カロノウスキ

編集: クリストファー・ネルソン、クリストファー・クック

音楽: マイケル・ワンドマッカー

出演: スチュアート・タウンゼント (カール・コルチャック)、ゲイブリエル・ユニオン (ペリ・リード)、エリック・ジャングマン (ジェイン・マクマナス)、コッター・スミス (トニー・ヴィンセンツォ)


物語: 一軒家に住む妊婦が行方不明となり、惨殺死体となって発見される。最初は夫が疑われるが、その妹夫婦も襲われ、幼い娘がさらわれたことから、犯人は別にいることが確実となる。LAのビーコン紙の記者ペリは、上司ヴィンセンツォの命により、新しく配属されたコルチャックと共同で事件調査に当たる。コルチャックが明らかに以前から事件に詳しいことに不審を抱いたペリはコルチャックの身元を調べ、彼がヴェガスで元花形記者として将来を嘱望されていた矢先に、妻殺しの罪で逮捕されていたという事実を発見する‥‥


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今季、昨年編成され大ヒットしたABCの「ロスト」を真似て、柳の下の二匹目のどじょうを狙った数多くの同様の超常ドラマ群が投入された。もちろんただ「ロスト」をそっくりそのまま真似るわけにはいかないから、そこはそれ、多少の新味が加えられており、視聴ターゲット層も番組によって微妙に異なっていたりする。


その結果、驚いたことに、こんなに同工異曲の番組ばかりで共倒れにならなければいいがと案じていたこちらの心配をよそに、結構どの番組もそれぞれにコアの視聴者を獲得して頑張っていたりする。「ロスト」ほどの成功番組が出現するにはいたらなかったが、明らかな失敗番組もなかったことは、現時点でこの種の新番組においてキャンセルされた番組が一本もないということからも明らかだ。何やかや言いつつ、視聴者というのはこの手の番組が好きであり、いつの間にやらかなり番組毎の視聴者の住み分けができているのだ。


実際、見てみるとどの番組もそれなりに面白かったりする。毎シーズン、必ず何本かはある明らかな失敗作というのがなく、どれも一定のレヴェルには達しており、そのことがそれぞれ特定の視聴者に受け入れられている理由になっているのだろう。元々この種の番組のアイディアのストックは充分あったところ、「ロスト」の大成功によって陽の目を見やすくなったというのがどうも本当のところのようだ。


その中で、たぶん「ナイト・ストーカー」が最もダークな雰囲気を持っているという意見に異論を挟む者はいないと思う。同じABCの「インヴェイジョン (Invasion)」、CBSの「クリミナル・マインズ (Criminal Minds)」、FOXの「キラー・インスティンクト (Killer Instinct)」あたりもかなりダークな雰囲気を持つ番組で、実際テイストもかなり似通っていたりするのだが、「ナイト・ストーカー」は、ダークという印象において他の番組から頭一つ抜きん出ている。その上、一話完結のシリーズといえどもそれぞれの謎や事件が完全に解明されるわけではないところがまた、他の番組と一線を画している。「ロスト」の後釜番組というよりは、「X-ファイルズ」の後継番組という感じなのだ。


その理由が、そもそものオリジナル番組である1974年放送のABCの「ナイト・ストーカー (Kolchak: The Night Stalker; 邦題: 事件記者コルチャック)」にあるのはもちろんだ。要するに今回の「ナイト・ストーカー」はリメイクなのであり、直接に「ロスト」の影響を受けているわけではない。また、そのオリジナルの「ナイト・ストーカー」のさらに大元は、シリーズの2年前に放送された同名TV映画にある。要するにそれが話題になったのでシリーズ化されたわけだ。様々な奇々怪々な出来事を追う記者コルチャックが遭遇する事件を描いたこのシリーズは、1シーズン放送されただけだが、充分カルト受けした。


この「ナイト・ストーカー」が「X-ファイルズ」に与えた影響は疑いようがなく、そして実際に新「ナイト・ストーカー」プロデューサーのフランク・スポトニツとダニエル・サックハイムが「X-ファイルズ」のプロデューサーであったことを考えると、旧「ナイト・ストーカー」→「X-ファイルズ」→新「ナイト・ストーカー」という経路は歴然としている。新「ナイト・ストーカー」が今シーズン、最もダークなドラマであるということは当然なのだ。


むろん今回の「ナイト・ストーカー」がリメイクだとはいっても、オリジナルの設定をそのまま芸なく踏襲してはいない。オリジナルの主人公コルチャックは、よれよれのくたびれたうだつの上がらない中年事件記者として設定されていたが、新「ナイト・ストーカー」では、コルチャックは30歳前後のハンサムな青年だ (演じるのは「コール (Trapped)」「LXG」のスチュアート・タウンゼント。) その上、今回は超自然現象を信じるコルチャックと対をなす同僚記者として、現実主義者のペリ (ゲイブリエル・ユニオン) というパートナーが加えられている。明らかに「X-ファイルズ」のスカリー/モルダーと対をなす人物設定だ。


プレミア・エピソードでは、LA郊外の町で連続して女性が無残な姿で殺傷されるという事件が起きる。新しくビーコン紙に転職してきたコルチャックは、それらの女性がみな妊娠していたという内部情報を知っていた上に、個人的に事件に深い関係があるようだった。実はコルチャック自身、同様の事件の被害者で、何者とも知れぬ化け物に襲われ妻を殺害されたという過去があった。FBIはいまだにコルチャックを容疑者として疑っていたが、なおも怪事件は止むことなく続いていた。


実はこのプレミア・エピソードのできは大したことはない。最後に姿を現すその怪物というのは、ただ単にでかい犬だかコヨーテだかにしか見えず、せめてもう少しはおどろおどろしい怪奇猟奇的な化け物にしてもらいたかった。前半あんなに引っ張ってこれだもんなあというくらいにしか思えない。話としては、では、その怪物がなぜ妊婦ばかりを襲ったのか、そもそもこいつはいったい何なのだという種明かしが一切されないところに特色がある。オリジナルの「ナイト・ストーカー」もそうだったようだし、「X-ファイルズ」もかなりそういう謎のまま終わるエピソードというものはあったから、ちゃんとその辺の伝統は受け継がれているというところか。もっとも、視聴者としてはかなり消化不良ではある。


一方、こういう話の作り方がいい方向に出たのが第2話で、この回の冒頭では、我が子のベイスボールの試合を見に来ていた円満な家庭の仲のよさそうな夫婦の夫が、いきなり、妻をベイスボール・バットでめっためたに殴り殺す。ショッキングな出だしで視聴者の興味を惹こうというのは定石ではあるが、これくらい理不尽でダークであっと言わせる展開はさすがにめったにない。その上、さらにこの種明かしも、マインド・コントロールされていたというなんだかよくわけのわからないものだったのだが、ただ単純に、視覚的面白さ、意外なストーリー展開という点では、確かに思わず最後まで惹きつけられて見てしまったとは言える。


特にこの回以降、番組は絵作りまで非常にダークになっており、ビーコン社内部がやたらと暗い。もちろんそれは外がLAの明るい陽光に照らされているため、その対比で暗く見えるということもあるのだろうが、平気で登場人物の顔を露出不足にする。ほぼ壁全面が窓であるため、暗く潰れて浮き上がる人間とのコントラストが利いて絵にはなるとは言えるが、特に黒人のユニオンの顔なんか、ほとんど潰れてしまって見えない。現在ではデジタルTVが普及して、HDTVだと結構それでもよく見えたりするのかもしれないが、私んちのブラウン管の32インチのTV画面ではほとんど表情なんか見てとれない。「ロスト」もかなり潰れるシーンが多かったりするのだが、早くHDTVに買い換えないと、満足にTV番組を楽しむことができないという時代がすぐそこまで来ているようだ。


さて、では、こういうダークな新「ナイト・ストーカー」が視聴者をつかまえることに成功しているかというと、今のところ特にそうだとは思えない。これは何よりも、内容の暗さがネガティヴな反応を引き起こすことを考慮したとしか思えないABCの判断により、番組開始時期が9月最終週と他の番組より気持ち遅れて始まったこと、それに合わせた番宣を手控えたようにしか見えなかったこと等が、まず第一の理由として挙げられる。その前週始まった「インヴェイジョン」の、これでもかというような圧倒的なCM攻勢を目の当たりにした後では、番組に対する力の入れ具合の差が火を見るより明らかだ。たぶん暗すぎるとしてマスコミから叩かれることを怖れたんじゃないだろうか。番組として大成功するよりも、コアのファンをつかんでいつでも安定した視聴率を上げることを優先したように見える。


結局、新「ナイト・ストーカー」は、旧「ナイト・ストーカー」のリメイクというよりは「X-ファイルズ」の新ヴァージョンといった方が近い。どうせその方向に向かうのならば、逆に、番組としてはもっとダークにした方が他の番組と差別化ができてましだというのが私の意見だ。それでなくとも似たような番組が山のようにあるわけだから、そうでもしないと新「ナイト・ストーカー」が生き延びていく道はないように見える。と考えていた矢先、「ナイト・ストーカー」は一時放送が棚上げにされるとの情報が。今の段階ではまだそのままなし崩し的にキャンセルされるとは思わないが、それにしてもヒット番組の製作は難しい。



追記 (2005年12月)

結局「ナイト・ストーカー」は視聴率不振を理由に11月末にキャンセルが発表されたが、ほとんど間を置かずしてSF専門のサイ・ファイ (SciFi) チャンネルが後を引き継ぐことを表明、番組は継続されることになった。「ナイト・ストーカー」は製作自体もABC系列のタッチストーンTVであるが、サイ・ファイはABCのライヴァルであるNBC系列だ。それでも番組自体がポシャるよりは、たとえライヴァル・チャンネルに身売りしても生き延びた方がいい。実際の話、番組はサイ・ファイでの方が向いているような気がしないでもない。さて、「ナイト・ストーカー」は新天地で無事ファンを開拓することができるだろうか。






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Night Stalker

ナイト・ストーカー   ★★1/2

 
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