放送局: MTV

プレミア放送日: 8/19/2003 (Tue) 22:30-23:00

製作: MTVネットワークス

製作総指揮: R. グレッグ・ジョンソン、ロイス・クラーク・カレン、ロッド・アイッサ

製作: ラリー・ルドルフ、ジョー・シンプソン、スー・コリンスキー

監督: キャセリーナ・ブルックス

出演: ジェシカ・シンプソン、ニック・ラシェイ


内容: カントリー/ポップ・シンガーのジェシカ・シンプソンと98°(98ディグリーズ) のニック・ラシェイの新婚生活を記録するリアリティ・ショウ。


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アメリカのリアリティ・ショウには多数のサブ・ジャンルがあるが、その中の一つにセレブリティものというジャンルがある。有名人の私生活に密着し、その一部始終を記録するというものであり、この中からMTVの「ジ・オズボーンズ (The Osbournes)」とか、E!の「ジ・アナ・ニコール・ショウ (The Anna Nicole Show)」というヒット番組が生まれてきた。この辺の事情は「ザ・レストラン (The Restaurant)」で結構詳しく書いたから、そちらの方を参照してもらいたい。


この分野、ツボさえはまればほとんど製作費なぞかけずに人気番組を手中にできることもあり、成功作の何倍もの数の失敗作が現れては消えているというのに、まだまだ手を変え品を変え、新番組が登場してくる。そのいちいちをチェックしている時間なぞ到底ないから、最近はこの手の番組はほとんど素通りしていた。


実際の話、この手の番組に出ているセレブリティは、セレブリティとはいっても、既に落ち目となったか、あるいは元々セレブリティというには語弊のある、セレブリティもどきという程度の似非セレブリティである場合が多い。本当に今が旬のセレブリティなら、この手の番組に出る必要なぞまったくない上に、こんな番組を作って身の回りにカメラ・クルーを常時はべらせるくらいなら、休んでいた方がましと当然思うだろう。


というわけで最近は、この種のセレブリティ密着型のリアリティ・ショウはすべてパスしていた。当然この「ニューリーウェズ」もほっておいてたのだが、最近、段々この番組が次の「オズボーンズ」、いや、そこまでは行かないにしても、次の「アナ・ニコール」くらいにはなりそうなヒット番組になる気配が濃厚になってきた。どうも番組主人公のジェシカ・シンプソンが、アナ・ニコールほどとは言わなくても、それに近いくらいのおつむ加減しかなく、彼女の白痴的言動が、一部では既に熱狂的なファンを生み出しつつあるという噂が伝わってきたのだ。


というわけで、既に2か月以上も前に放送された番組プレミアの録画テープをいそいそと探し出してきたのであった。もしかしたら既にもう消去してしまったかもしれないと思っていたが、運よく見つかった。いや、本当のことを言うと、消去してしまったのなら、それはそれでいいや、他にも見たい番組はあるしと、別に積極的に見たいとは思ってなかった。どちらかというと、テープがなければそれで見れない理由を自分自身に納得させられるので、できれば見つけたくなかったのだが、そういう時に限って、ふだんなら絶対に見つからないはずのテープがしっかりと出てくる。


「ニューリーウェズ」という番組タイトルが端的に示している通り、新婚ほやほや (結婚したのは昨年の10月だそうだ) の、カントリー系のポップ・シンガーのジェシカ・シンプソンと、98°のニック・ラシェイの私生活に密着する番組だ。二人の出会いは99年に、既にその時かなりの人気グループとなっていたボーイ・バンドの98°の前座として、シンプソンが歌った時に遡るらしい。二人はそれから交際を続け、無事昨年挙式にこぎつけた。


98°は数年前、実際にかなり人気があったし、シンプソンもたまさかではあるがMTVやVH1で見たことがある。私の歳でそうだから、ティーンエイジャー辺りではこの二人の知名度はかなりのもんだろう。しかし、私は元々アイドルとかにはあまり興味はない。シンプソンは、まあ、アイドルというよりは実力あるシンガーとして売り出したようではあるが、それでも、いかにもアメリカの田舎の発育のいいブロンドねーちゃんといった感じのシンプソンは、スレンダー・タイプのブルネットが好みの私には、少なくとも見かけの上ではまったくアピールしない。


それで別にほとんど期待せずに番組を見始めたんだが、これが意外に結構面白い。その理由は、自分でもスポイルされて育ったと告白するシンプソンと、その世間を知らない甘ちゃん加減に驚き、唖然とするラシェイとの対比にある。実際、シンプソンの甘ったれぶり、世間の知らなさぶりはかなりのもので、これは親は教育誤ったなとしか言いようがない。シャワーを浴びた後、バス・タオルを巻いて出てきて、そのバス・タオルがいつもどこかに落ちて捨てられたままになっていると、いけしゃあしゃあと言っている。うちではそれをママが黙って拾って片づけていたんだろう。


そんなシンプソンだからほとんど自分で炊事洗濯掃除をこなすことができず、洗濯物は山のように溜まり放題、冷蔵庫の中では食い物が醗酵しているという事態に陥る。そのうちにっちもさっちも行かなくなり、ついにシンプソンの洗濯物を片づけるためにヘルパーを雇う羽目になってしまう。時給20ドルも出して、洗濯物を片すだけに6時間もかかってしまうのだ。


一方のラシェイは赤の他人が寄り集まって結成したボーイ・バンド出身らしく、わりと苦労しており、自分のことは自分でこなすよう躾られている。引っ越しだって業者を雇わず、自分でトラックを借りて自分で運搬するのだ。それなのに自分の洗濯物を片すのに時給20ドルも出して人を雇うということが到底信じられず、いつもだらしないシンプソンにいらいらさせられているのだが、構わない、そんな女、ぶん殴ってしまえ。


というわけで、番組はほとんど常識を超えた言動で視聴者を楽しませてくれるシンプソンと、それに耐えるラシェイという図式で進行していく。しかし、時として、どうしてもこの女、バカかと、だんなであるラシェイですら思わざるを得ない事態が出来する。プレミアで最も笑わせてくれたのが、「チキン・オブ・ザ・シー (Chicken of the Sea)」というブランド名で知られるツナ缶を食べながら (わりとアメリカ人ってツナ缶を開けてそのまま食う奴が多い)、これってチキンじゃないよねと本気で質問するシーンで、さすがにわりとシンプソンの非常識な言動に慣れっこになっているはずのラシェイも、これには軽蔑の眼差しを向けるのを抑えきれなかった。


蛇足だが、「チキン・オブ・ザ・シー」というブランド名は、基本的に魚くさい匂いが嫌いな者の多いアメリカ (魚くさい=fishyという単語は、通常侮蔑的に用いられる) において、ツナを売るキャッチ・フレーズとして前世紀初頭に考えられたのだそうだ。要するに海のチキンというわけだ。日本で知られているメイジャーなツナ缶が「シー・チキン」というのも、「チキン・オブ・ザ・シー」の真似である。考えると、私もガキの頃、なんでツナ缶をシー・チキンというのか不思議に思ってたなあ。


ところでこの「チキン・オブ・ザ・シー」事件は、シンプソンのおつむ加減を広く知らしめる逸話として、瞬く間に全米中に流布してしまった。もちろんここで漁夫の利を得たのが、「チキン・オブ・ザ・シー」ブランドであることは言うまでもない。なんでもこのエピソード放送以降、売上げが急増したという話がまことしやかに伝わっていたが、このほど、同社スポークス・パーソンとしてシンプソンを起用する気があるという関係者の談話が公式に発表になった。ということは、本当にシンプソン効果があったんだろう。瓢箪から駒とはこのことだ。


さらに似たようなエピソードに、「バッファロー・ウィング」がある。こっちの方は照り焼きのような焼き方をした本物のチキンのことなのだが、今度はシンプソン、何を思ったかこれを本当のバッファローだとカン違いしてしまい、私はバッファローは食べないとのたまった。こいつ、バッファローにウィングがあるところを想像しなかっただろうな。いや、絶対したね。賭けてもいいぞ。


巷ではこのシンプソン語録ができ上がりつつあり、全国紙のUSAトゥデイでも、雑誌のエンタテインメント・ウィークリーでも、シンプソン発言を特集していた。既にシンプソンはシンガーというよりも、お笑いタレントとして全米中に知られつつある。また、同様の白痴的発言で一時注目を集めたアナ・ニコールの発言と並べ、さて、どっちがどの発言をしたか、なんてクイズを行っている媒体もあった。


しかし、シンプソンの「ニューリーウェズ」は、見ていて呆気にはとられたりはするけれども、アナ・ニコールの「アナ・ニコール・ショウ」を見ている時のような、不愉快な気分にはならない。それは、その態度が地のものか、第三者におもねっているものかの違いによる。バニー・ガール出身で、いつも媚びた姿態をとるのが癖になっているにしては既に年増としか言いようがないアナ・ニコールは、見ていて本気で吐き気がしてくるのだが、シンプソンは別に受け狙いでもなんでもない天然のボケなのだ。だから素直におかしい。このバーカ、と言ってげらげら笑えるのだ。


彼女はいかにも素直に育ったアメリカ娘という感じで、番組の第2回では、新アルバム製作中のラシェイについていってダンス・レッスンを見学したりするのだが、半分裸のようなゴージャスなねーちゃんたちがラシェイにぴったりとくっついてダンスしているのを見て、嫉妬するのを隠し切れない。本当に思っているのがそのまま表情に出ちゃうのだ。それでついラシェイに八つ当たりなんかしちゃうのだが、彼女、嘘つくの下手だろうなあと思う。でも、結構そういうのを見るのって楽しい。


ラシェイとシンプソンは当然好き合って結婚したわけだが、そこで物語が終わるラヴ・ロマンスやファンタジーと違って、現実はそうはならない。これからも人生という物語は続いていくのであり、その中ではどんなに好き合った者同士でも喧嘩もすれば嫌な面が見えることもある。シンプソンですら当然そのことはわかっている。しかも彼女は自分が甘やかされて育ったのを自覚しており、なんとか自分自身を向上しようとする姿勢が見える。だから応援しようという気にもなる。さもなければ、本当にとっくにラシェイから捨てられているところだろう。


しかし、番組を見ててまったく羨ましく思うのが、LA近郊にあるらしい二人の新居の豪邸だ。これ、賃貸だろうか購入だろうか、いずれにしても庶民の我々から見たら目ん玉飛び出るような金額であるのは間違いあるまい。白亜の2階建てで、いったい何部屋あることやら。しかもいちいちのスペースが広い。この若さでこういう家に住めるなんて、まったく羨ましい。確かにこれだけ広い家を散らかしてしまったら、他の人の手を借りないと到底掃除なんてできないだろうと思う。さて、シンプソンが親やヘルパーの手を借りずに、ラシェイと二人だけでこの家を切り盛りできる時は来るのだろうか。







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Newlyweds: Nick & Jessica

ニューリーウェズ: ニック&ジェシカ   ★★★

 
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