放送局: PBS

プレミア放送日: 1/14/2007 (Sun) 20:00-21:00

シリーズ・プレミア放送日: 10/10/82 (Sun)

製作: サーティーン/WNETニューヨーク

製作総指揮: フレッド・カウフマン

製作: ビル・マーフィ、ジル・クラーク

ホスト: リン・シェール


内容: 放送25周年を迎えた自然/動物系ドキュメンタリーの総集編。


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日本でいえばNHK教育に当たるだろう公共放送のPBS (Public Broadcasting System) には、わりと長寿番組が多い。視聴者もだいたい見る目的や見たい番組が決まっていることが多いから、頻繁に目先を変えた新番組を放送するよりも、放送する方にとっても見る方にとってもいつも同じ番組を定時に放送するというスタイルの方が理に適っている。


例えば、自然科学番組の「ノヴァ (Nova)」は1974年放送開始だし、偉人業績回顧の「アメリカン・マスターズ (American Masters)」は1983年、舞台/音楽中継の「グレイト・パフォーマンスス (Great Performances)」が1972年、子供のいる家庭に最も親しまれている「セサミ・ストリート (Sesame Street)」は1969年、現在のホーム・リニューアル番組の走りと言える「ディス・オールド・ハウス (This Old House)」は1980年放送開始と、4分の1世紀以上の歴史を持つ番組が朝にも日中にも午後にもプライムタイムにもごろごろしている。


シリーズを通したテーマがあるわけではない、映像作家重視のドキュメンタリー・シリーズとしては「P.O.V.」があるが、これだって1988年放送と、番組が始まってからほぼ20年近く経とうとしている。この種の番組では最も新しいと言える、インディペンデントの映像作家に発表の機会を与える「インディペンデント・レンズ (Independent Lens)」ですら、2002年放送開始だから既に始まって5年経つ。だいたいアメリカで製作されるドキュメンタリーと言えば、これらのPBS番組、それにHBO/シネマックスのドキュメンタリー番組を押さえておけば、ほとんど足りる。因みに私が先週書いた、アニー・リーボヴィッツのドキュメンタリー「ライフ・スルー・ア・レンズ」はPBSの「アメリカン・マスターズ」、サリー・マンの「ホワット・リメインズ」はシネマックス「リール・ライフ」枠で放送された番組だ。


読んで字の如くの自然/野生動物系番組「ネイチャー」は1982年放送開始であり、今年放送25周年の節目を迎える。25年やっているというのは相当の長寿番組のはずだが、PBSのその他の番組と並ぶと、まだまだ上には上がいる。しかしこのジャンルの番組としては、「ネイチャー」はやはり古株筆頭であろう。今でこそナショナル・ジオグラフィック・チャンネルという強力なライヴァル・チャンネルができてしまい、ディスカバリー・チャンネルもたまさか注目を集めるその種の番組を放送するが、それでも自然/動物系番組と言えば、長い間「ネイチャー」に勝るものはなかった。今でも定時席の日曜夜8時を、家族揃って「ネイチャー」を見る時間と決めている家庭は多かろう。


私は毎回新エピソードが放送される度に見るほど「ネイチャー」のファンというわけではないが、それでも興味あるテーマであればわりと見ている。例えば今でもよく覚えているエピソードに、おとなしそうに見えるカバが、ボス争いになると子供のカバを突付き殺すことすら厭わないという弱肉強食の非情さをとらえたエピソードなんてのがある。母カバの必死の防御もむなしく、数倍のガタイを持つボスカバに小突き回されて殺された子カバが水の上をゆるゆると浮かんで流れていくシーンなんてかなりインパクトあった。


あるいはニューヨーク、マンハッタンで、摩天楼を崖壁と見なし、階と階の間に巣を作って子育てに励んだ鷹のつがいの話「ペイル・メイル (Pale Male)」もよく覚えている。小鷹はやがて巣立ちの時を迎えるが、初めて空に向かって羽ばたこうという時、失敗して下に落ちれば、そこは無法イエロー・キャブが我先にと先を争って飛ばす5番街なのだ。そうじゃなくても観光客がうじゃうじゃ集う大都会で最初の飛行に失敗すれば、生き延びれる術はあるまい。これをやらなければ生きていけないが、失敗は即、死に繋がるという状況で巣から飛び出そうと羽をばたばたさせる小鷹を見た時には、思わず握ったこぶしに力が入った。その他にも、障害を持って生まれてきたニホンザルのモズの話だとか、最近では流行りのペンギンの話だとか、周囲の生物と共棲するアフリカの大きなイチジクの木の話だとか、自然や動物の話は見出すと結構止まらないものが多い。


そういう「ネイチャー」から選りすぐったエピソードをまとめた総集編が、今回のこの「ザ・ベスト・オブ・ネイチャー 25イヤーズ」だ。その内容はというと、:



・自然界の掟をとらえた6部作「トライアンフ・オブ・ライフ (Triumph of Life)」の中の一篇、「ジ・エターナル・アームス・レース (The Eternal Arms Race)」チータが獲物のガゼルを追い詰める; サカナに擬態する貝


・同じく「トライアンフ・オブ・ライフ」から「ザ・フォー・ビリオン・イヤー・ウォー (The Four Billion Year War)」孵化したばかりのカメ


・「ザ・レプタイルズ (The Retiles)」の一篇「アリゲーターズ・アンド・クロコダイルズ (Alligators and Crocodiles)」ワニが川を渡るガゼルや水牛、さらには川辺の鳥やカニをその強靭な顎に捕らえる


・「インディア: ランド・オブ・ザ・タイガー (India: Land of the Tiger)」から「モンスーン・フォレスツ (Monsoon Forests)」カメレオンがその長い舌を伸ばしてカマキリを捕らえた瞬間


・ 「サイレント・ロアー: サーチング・フォー・ザ・スノウ・レパード (Silent Roar: Searching for the Snow Leopard)」めったに人前に姿を現さないユキヒョウ (スノウ・レパード) を、その鼻息でカメラのレンズが曇るほどの近距離でとらえる


・ 「ア・ミステリー・イン・アラスカ (A Mystery in Alaska)」カモメが海中から姿を現したクジラの巨大な口に呑み込まれる瞬間をとらえる


・ 「カラハリ: ザ・グレイト・サーストランド (Kalahari: The Great Thirstland)」何百万羽の鳥がまるで蜃気楼のように一斉に羽ばたく


・ 「ディープ・ジャングル (Deep Jungle)」12インチの舌を伸ばして花の蜜を吸う蛾; ムーン・ウォークをするマナキン鳥


・ 「ネイチャー・オブ・セックス (Nature of Sex)」タツノオトシゴの子育て


・ 「グレイト・ホワイト・ベア (Great White Bear)」北極グマの生態


・ 「キングダム・オブ・ジ・アイス・ベア (Kingdom of the Ice Bear)」飛べない雛が崖の上から飛び降ちて親鳥の後を追う


・ 「クラウド: ワイルド・スタリオン・オブ・ザ・ロッキーズ (Cloud: Wild Stallion of the Rockies)」怪我をした子ウマを仲間が慈悲で殺してあげる


・ 「コンディション・ブラック」サーファーが完璧なウェイヴを追い求める


・ 「カトリーナズ・アニマル・レスキュー (Katrina's Animal Rescue)」ハリケーン・カトリーナのために家に残してきたネコを、戒厳令を無視して救出に帰る



等々、息を呑む決定的瞬間が目白押しなのだが、その中で私が最も印象に残ったのは、新種の薬の実験台にされた挙げ句、用なしにされたチンパンジーを再訪する「ウィズダム・オブ・ザ・ワイルド(Wisdom of the Wild)」と、再会したゾウをとらえる「ジ・アーバン・エレファント (The Urban Elephant)」の2本である。


新薬の開発には動物実験がつきものだが、数十年前まで、チンパンジーはその開発の最終段階の実験台にされていた。リンダ・コーブナーはそれらのチンパンジーの解放と安心して住める施設の建設のために奔走し、今回、25年前に研究所から救出したチンパンジーと再会する。コーブナーを覚えていたチンパンジーは、彼女をねぎらうように肩にやさしく手を回すのだった。


「アーバン・エレファント」では、様々な苦節、サーカス、経験を経て、やっと動物園ではなく檻のない施設で自由に生きることを許されたシャーリーが、そこで何十年も前にサーカスで一緒だったもう一頭のゾウ、ジェニーに再会する。ジェニーを目にしたシャーリーは、囲いをものともせずに激しく吠え、柵にぶち当たる。ジェニーを覚えていたのか。まさか、と半信半疑ながら柵を上げて一緒にさせてあげた二頭は、どう見ても再会を喜んでいるとしか思えなかった。これまでの空白の期間を埋めるかのように常に一緒に行動するシャーリーとジェニー。ゾウは忘れないという言い伝えは本当だったのだ。この2篇は、ほとんど涙なしでは見れない。


とまあ、弱肉強食が習いの自然界においては、弱いもの、怪我をしたものは、ほとんど即、死の運命が待ち構えている。だからこそそこにドラマが生まれる。また、あるものは自分が死んでも子は守ろうとする。それが種を守る本能だからだ。強いものは孤高を守って弱いものを餌にすることで生き延びるが、やがてそれだって老い、いつかはかつての自分より弱かったものの手によって玉座を追われることになろう。それでも彼らはこれまでそうやって生きてきたのだし、今後もそうやって生きていくに違いない。自然動物ものって、本当に見てて飽きんよなあ。 







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The Best of 'Nature': 25 Years


ザ・ベスト・オブ・ネイチャー: 25イヤーズ   ★★★

 
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