ベン (ニコラス・ケイジ) の遠い祖先が実はリンカーン大統領暗殺に関係していたという話がウィルキンソン (エド・ハリス) によってもたらされる。しかもウィルキンソンの持っていた証拠となる本の切れ端が示唆するその可能性は、非常に高かった。しかもその話は隠された巨大な財宝の隠し場所にも関係があった。ベンは既に追い出されて別居状態にあったガール・フレンドのアビゲイル (ダイアン・クルーガー)、ライリー (ジャスティン・バーサ)、そして父のパトリック (ジョン・ヴォイト) と共に遠い祖先の濡れ衣を晴らすべく、そして巨万の富をつかむべく再度立ち上がる‥‥


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前回の「ナショナル・トレジャー」は、実はどちらかというと公開前まで特に注目されていたという印象もなかったのが、あれよあれよという間に興行収入を増やし、2004年一番のスリーパー・ヒットとなった。家族向け映画は、だいたい家族4、5人以上が一緒に見るので、当たるとでかい。ディズニー製作映画の強みはまさしくそこにあるのだが、それだけでなく、実際に楽しく見れるツボをちゃんと押さえてくる作品が多い。家族向けといっても完全に子供向けだと少なくとも私のような癖のある映画ファンが見る気にはまったくならないわけだが、そういう人間にも見てみたいと思わせるところが、「ナショナル・トレジャー」の強みだ。


前作は実は、どうせガキ向けなんでしょ、そんなの見ないとつまらなさそうにしていた女房をほっといて、私一人で見た。その後しばらくして、ディズニーだからたぶんスターズ・チャンネルで放送されたわけだが、たまたま他に見たいのもないからというのでそれを点けっぱなしにしていたら、いつの間にやらカウチに女房が座り込んで食い入るように見ており、結局最後まで見ていた。やはり面白かったのだ。


それなのに、では今回はどうすると訊いたら、やっぱり一人で見に行ってと言う。あんた、前作がTVで放送された時はあんなに食い入るように見ていたじゃないか、面白かったんだろ、と言うと、え、私前作見たっけ? と本気でのたまう。要するに「ナショナル・トレジャー」の長所も欠点もそこにあるんだなと思わざるを得なかった。見ている時は確かに面白く熱中させるのだが、見た後すぐ忘れちゃうのだ。


実際、前回見た時の私もそうだった。見た後数日経って感想記を書こうとマックの前に座ると、げっ、ストーリーが思い出せないと慌てたことの方が、映画それ自体より強烈に印象に残っているくらいだ。それでも、まだ見たこと自体は覚えているだけましか。金出して劇場まで行って見るという行動が入ると、一つのイヴェントとして覚えやすくなるだろうし、こうやって見た後の記録をとっていると、脳裏に刻まれやすくなる。


しかもこのシリーズは、いかにもうまくアメリカ人の愛国心をくすぐる。世界の大国として自他共に認めるアメリカであるが、そこを突かれたら弱いというウィーク・ポイントの一つが、その歴史の浅さにある。ほぼ記録に残っていないアメリカン・インディアンの歴史を除くと、アメリカが歴史に顔を出すのは15世紀のコロンバスによる大陸再発見以降であり、国として独立したのは18世紀も後半、たかだか200歳強の若造でしかない。


これは実は、アメリカ人の最も突かれたくない部分である。日本や中国、フランス、英国等の歴史ある国と比較されると、どうしても見劣りがしてしまうのだ。日本人が当たり前のように無事故 (645年) の改革大化の改新、なんて嫌々ながら年号を覚え込まされるのを、うらやましいと思って見ているのがアメリカ人だ。だいたい、アメリカ人には計算に弱い一方で南北戦争以降のアメリカの歴史に異様に詳しいやつがごろごろしていたりするが、これは自分たちに歴史のないコンプレックスの裏返しの発露だろうと思う。


「ナショナル・トレジャー」は、そういうアメリカの弱い部分をおだてて持ち上げてくれる。アメリカには、ほら、こんな歴史もあるあんな歴史もある、隠された財宝もあるよ、というわけだ。もちろん本当にトレジャー・ハンターになろうと思ったら、アメリカ国外に目を向けないといけないのは、そもそもアメリカ製の「インディ・ジョーンズ」が証明している通りなのだが、それをどうしてもアメリカ国内でやりたい、やったらどうなるのかを体現したのが、「ナショナル・トレジャー」に他ならない。


前回だってオープニングはやはりアメリカ国外の辺境で始まり、クライマックスはお膝元のニューヨークでクライマックスを迎えたとはいえ、そのポイントであったフリーメイソンの秘宝はヨーロッパの財宝であり、マンハッタンの教会は、その隠し場所になったに過ぎない。本気でフリーメイソンの宝を題材に映画を撮ろうと思ったら、その宝探しより、なぜその宝がマンハッタンの教会の地下深くに眠ることになったのかの経緯を描く方がよほど面白いものができそうな気がする。


今回パリ、ロンドンと舞台が飛ぶのは、やはり国内だけじゃ寂しかろうと思った製作者のサーヴィスだろう。しかしロンドンのカー・チェイス、銃撃戦は、視覚的には楽しませてくれるが、「ボーン」シリーズじゃあるまいし、あんたらは秘密エージェントでもなんでもなく、立場としては一介の一般市民だろうに、どうやって銃器をロンドンに持ち込んだんだ、それを携帯して外を歩いているのか、しかもいきなり市街で発砲して銃撃戦、カー・チェイスに持ち込むか、と突っ込みどころ満載なのだが、しかし、それでも見ている時は楽しいのは事実なのだ。携帯のカメラが使えないベンが、わざと暴走して街路に備え付けの監視カメラに映り、紋様を政府のカメラに撮らせて後でハッキングしてその映像を回収する、なんてのは、やはり無条件に楽しい。


一方、今回は話のそもそもの発端をリンカーン暗殺にまで遡るが、それこそが世界歴史上はアメリカという国の発祥地点だ。それ以前だとアメリカは混沌とし過ぎている。アメリカを舞台としての宝探しをテーマにした場合、これ以上昔には遡れないだろう。自然と一緒に暮らしていたアメリカン・インディアンが、財宝をどこかに隠していたなんてのは想像しにくい。結局今回は、財宝がラシュモア山の地下深くに埋蔵されていたという話になる。話が途切れなく展開するので、いったいこれ、誰の財宝なんだったっけと筋を追えてなかったりするのだが、しかしむろん話のポイントはそこにはないので、作品を楽しむことの妨げにはならない。


いずれにしても、そういう隠された財宝の発掘、歴史ロマンをテーマにした場合、日本なら当然聖徳太子や平安京平城京くらいまでは遡る必要があるのは言うまでもない。英国ならアーサー王伝説と無関係ではいられないだろう。そうすると、それらは「ナショナル・トレジャー」というよりは伝奇ファンタジーの様相を強く呈することになる。実は近年の「ベオウルフ」や「ナルニア」、日本の陰陽師関係の作品こそがそれなのであって、「ナショナル・トレジャー」と出てきた発想、経路はほとんど同じなのだという気がする。


つまり「ナショナル・トレジャー」は、国内で「ロード・オブ・ザ・リングス」が撮れなかったアメリカの返答なのだ。伝奇ファンタジーという要素はアメリカを舞台とすると撮れないので、そこを一応はロジカルな推理仕立てにし、現代的なガジェットを詰め込み、アクションでカヴァーしたのが「ナショナル・トレジャー」に違いない。実はファンタジーものには今ではほとんど食指を動かされない私にとっては、CGだらけのファンタジーよりも、こういう実写アクションの方が断然楽しめる。既にアメリカ国内の財宝はもう残ってないような気もするが、そこはそれ、17世紀にマヤ、アステカの財宝がメキシコを経て北米大陸に流れ込んでいたという設定はそれほど無理なく捏造できるだろう。というわけで、既にもう「リンカーン暗殺者の日記」の内容はほとんど忘れているのだが、それでも次作が楽しみなのだった。







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ナショナル・トレジャー  リンカーン暗殺者の日記  (2008年1月)

 
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