ベン (ニコラス・ケイジ) は世界を股にかけるトレジャー・ハンター。幼い頃祖父から聞かされたフリー・メイソンの秘宝を発掘することを悲願としている。そういう彼に出資しているのがハウ (ショーン・ビーン) だが、南極で難破した船を探索中、ベンをなき者にしようとしたハウの画策により、ベンとジャスティン (ライリー・プール) は危ういところで一命を取り止める。アメリカの独立宣言時の誓書を狙っているハウに先んじるため、ベンは協会のアビゲイル (ダイアン・クルーガー) と接触を図るが、当然アビゲイルはベンの言うことに耳を貸さない‥‥


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「ザ・ロック」以来定番となった感のある、ディズニー提供、ジェリー・ブラッカイマー製作、ニコラス・ケイジ主演の家族向けアクション・アドヴェンチャー大作の新作。見る前からほとんど作品の印象は予想できるのだが、それでも見てしまうのがこういう定番映画の醍醐味でもあり楽しさでもあるから、ここは御託は並べず、黙ってただ一時楽しむためだけに劇場に足を運ぶ。


それにたとえ最終的に見た後の印象がその他の同系の映画とほとんど同じになってしまおうとも、やはり何人もの製作者が頭を捻ってあれこれいろんな新機軸を打ちだそうと躍起になっているわけだから、少なくとも見ている間は楽しいのは事実である。たとえ周りに座っているのがガキや家族連れやカップルばかりであろうとも、たまにはこういう映画を見てスカッとしたい。


ではあるのだが、17歳以下のガキは成人の同伴が必要のR指定だった「ロック」、「コン・エアー」、13歳以下には不適切な表現があるとするPG-13の「60セカンズ」と続き、今回は子供には不適切な表現があるとするが、基本的にはガキだろうが誰だろうが誰でも見れるPG指定で、どんどんケイジ出演作がガキ向けになっていくのはなぜだ。別にPG指定だから作品が必ずしも幼稚だというわけではないが、しかし、それでもなあ。最近見たPG作品って、あれか、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」「スカイ・キャプテン」があるか。やっぱ、あまり大人向けとは言えないよなあ。


つまり「ナショナル・トレジャー」では、作品中に多少なりともHなシーンはまったく出てこない。せいぜいがキス・シーンだけなのだ。また、多少ともヴァイオレンスが絡むと途端にレイティングが厳しくなるアメリカ映画界において、この映画は、アクション映画とはいえ、人と人とが徹底的に殴り合ったり、大袈裟に血を流したりするアクション・シーンはないことを既に明確に示している。派手なカー・チェイスもなく、もしかしたら何も爆発すらしないかもしれない。いくらブラッカイマー-ケイジ作品とはいえ、これでは本当に大人が見て楽しむことができるのか、一抹の不安がよぎる。


とはいえケイジは不思議な俳優で、こんなに子供/家族向け映画で重宝されておきながら、わりと大人向けの作品にもしっかり出ている。こういうガキ向け作品に出る一方でかなり切れた危ない一面も合わせ持っており、その系統の極北がデイヴィッド・リンチの「ワイルド・アット・ハート」だろう。一方の「いい人」的印象が最も強く前面に出ているのが、「あなたに降る夢 (It Could Happen to You)」と言えるかもしれない。その点で、芸幅はかなり広い。 


フランシス・フォード・コッポラの血縁という血筋のよさもあり、元々アイドル的売り出され方をして出てきたのだが、その方面ではそれほどぱっとしなかった。結局、危なさと優しさが同居しているケイジの持っている魅力と可能性に最も早くに目をつけ、開花させたのは、コーエン兄弟の「赤ちゃん泥棒 (Raising Arizona)」まで待たなければならない。「赤ちゃん泥棒」では、はっきり言うとケイジが演じているのは犯罪者なのだが、それをケイジというキャラクターが演じると、まるで悪いことをしているようには見えないという、奇跡的に完璧なキャスティングとなっていた。子供のためなら何をするかわからない危ないケイジと、子供のためになんでもしてやるという優しいケイジが同居しており、以降ケイジが演じた役のすべての萌芽がここにある。やはりコーエン兄弟は偉いと言わざるを得ない。


最も子供向け作品に力を入れるディズニーの場合、出演者のバック・グラウンドやスキャンダルに気を使うのは当然である。それなのにたとえ役の上とはいえども犯罪者や危ない人間を多く演じ、私生活でもスキャンダルとは言えないまでもかなりゴシップ欄を騒がせてきたケイジが、ディズニー作品で多用されているという事実は、考えてみるとほとんどあり得ないことのように見える。ケイジ以外では、ほとんどこのような経歴を持つ俳優がディズニーで重宝されている例はない。本当に稀な俳優だ。 


ケイジ以外では、いつでもこんな役ばっかしのショーン・ビーン、「トロイ」で、絶世の美女ヘレンという役どころでありながら大した出番のなかったダイアン・クルーガーらが出ている。が、それよりも私の印象に残ったのはハーヴィ・カイテルで、これまで何度も繰り返している同様のミス・キャストにしか見えない役柄なのに、それでも彼が出てくるとさもありなんと納得してしまうのはなぜだ? 彼が刑事として出てきた役で、これまで失敗しなかった作品を探す方が難しいと思い、今回もやはり浮いていると思うのに、それでも彼が出てくると心なし安心してしまう。彼も昔は切れた役ばかりだったのに。 


しかしこの手のガキ向け作品って、見てる時はそれなりに楽しんでエキサイトして、まあ一応満足って感じで劇場を後にしたはずなのに、2、3日経って印象を書こうとすると、もうほとんど何も憶えていないことに自分でも呆れるばかり。歳とって記憶力が減退したせいばかりとも思えない。そのくせ冒頭のクリストファー・プラマーなんて、もういいお爺ちゃんを地で演じられる歳になったかとか、ラストの方でさり気なく刑事に指輪を見せるカイテルの指がやけにずんぐりむっくりでどっちかっつうと労働者階級の指だなあとか、どうでもいいことはしっかりと憶えてたりする。


一方こういう、アクションでありながら子供も大人もターゲットにする作品って、実はすごく作り手にとっては難しいだろうというのはよくわかる。ちょっとでも派手にしたり血を流したりしたら即座にPG-13かもしくはR指定になってしまい、PG-13はともかく、ガキの入場には大人の同伴が必要になるR指定だと、興行的にかなりのマイナスを覚悟しておかなくてはならない。一方、PG-13とPGの差は特に大きいとも思えないが、それでもPG指定になってしまう「ナショナル・トレジャー」のアクションが、現代的指標から見れば、かなり抑えたものであることは確かだ。それにしても本質的にそういう家族向け勧善懲悪物語で、どことはなしにモラル的に崩れているのに主人公として出てきて活躍してしまうケイジって、やはり不思議な役者である。






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National Treasure   ナショナル・トレジャー  (2004年11月)

 
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