ニューヨーク・シティ・ドローン・フィルム・フェスティヴァル2016   New York City Drone Film Festival 2016

放送局: AXS

プレミア放送日: 6/29/2016 (Wed) 21:00-22:00

ホスト: ランディ・スコット・スレイヴァン 


内容: 2016年3月4日から3月6日にかけて開催されたニューヨーク・シティ・ドローン・フィルム・フェスティヴァル2016の受賞作を放送。


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New York City Drone Film Festival 2016


ニューヨーク・シティ・ドローン・フィルム・フェスティヴァル2016  ★★★

ドローンの登場は、映像媒体の製作の仕方を大いに変えた。それまではヘリコプタか軽飛行機に頼るしかなかった空撮が、たった数百ドルの投資でいつでもどこでも好きなように撮れるようになった。機動力はさらに上がり、ヘリでは到底近寄れない場所に、接近したりくぐり抜けたりという芸当も可能になった。


ドローンの威力をよく示した例として、花火大会におけるドローンの活用がある。危険なためヘリの利用は論外の花火大会において、上下左右で炸裂する大玉花火を内側から見るという、これまで見たことのない映像に驚嘆した者は多いだろう。それ以外にも、人の目線だと思っていたものが、だんだん空高く上っていく、クレーン・アップならぬドローン・アップの移動撮影に驚いた者も多いはずだ。


そういうドローン撮影の機会や作品は近年爆発的に増え、ある映像作品の一部としてではなく、ドローン撮影のみによる短編も製作されるようになり、そういう作品を集めての映画祭も開催されるようになった。それがニューヨーク・シティ・ドローン・フィルム・フェスティヴァル、略称NYCDFFであり、昨年から開催されている。


起業家のマーク・キューバンはIT関係で財を成し、今ではABCの起業プレゼン・リアリティの「シャーク・タンク (Shark Tank)」のシャークの一人としてTV界でもよく知られている。そのキューバンが立ち上げたのが音楽・アート専門チャンネルのAXSで、NYCDFFはそこで放送されている。


昨年の第1回の大賞 (Best in Show) 受賞作品の、スーパーマンの視点から見た「スーパーマン・ウィズ・ア・ゴープロ (Superman with a GoPro)」は、ドローンを有効に使い、印象的な作品に仕上がっていた。とはいえそれくらいしか知らなかったので、今回は全ジャンルの受賞作品を見てみた。


冒頭のナラティヴ部門の「ザ・スモーリスト・エンパイア (The Smallest Empire)」は、文明もしくは争いの勃興・変遷を描くもので、印象的なイメージでよくできているとは思うものの、いかにもドローンで撮影されたものという感触はない。しかし、確かに高度な技術を駆使しているのは間違いなく、その辺りが評価されたものと思う。


その点、薄闇の中を全身にLEDライトをつけて発光しながら雪山のスロープを滑り降りるスキーヤーをとらえたエキストリーム・スポーツ部門の「アフターグロウ (Afterglow)」は、ドローンの機動力を充分駆使している。ただしこちらの方は、今度はGoProでとらえたスキーヤーの視点も欲しかったところで、しかしそうするとドローン撮影の趣旨から外れることになり、痛し痒しといったところ。この作品が今回の大賞を受賞した。


テクニカル部門ウィナーのミュージック・ヴィデオのアート・オブ・シェイズによる「オール・アウェイ (All Away)」は、ドローンを使った1シーン1ショット撮影だ。ドローンがその威力を十全に発揮するのは撮影が途切れない1シーン1ショット撮影においてであり、最も効果的にその威力を知らしめている作品と言える。昨年のOK Goの「アイ・ウォント・レット・ユー・ダウン (I Won’t Let You Down)」もこれで、こちらの方がテクニカル的にはもっと難しかったと思うが、エモーショナル的には「オール・アウェイ」に軍配が上がる。いずれにしてもドローンはかなりミュージック・ヴィデオと相性がよさそうだ。


建築部門受賞作の「グレイストーン・ライジング (Greystone Rising)」は、ニュージャージーの歴史的建造物グレイストーン・パーク精神病院が解体される様子を追ったもの。ただし解体される順ではなく、逆に更地となった病院跡から、逆回しで解体前までの病院を映し出す。これが、この更地にはあんな重厚な建物が建っていたのかという強烈な印象を与えることに成功している。グレイストーン病院は、一昨年から昨年末まで1年半をかけて解体された。歴史的建造物であるため、なんとか残せないものかと解体には反対の声も多かったらしいが、朽ちて廃墟化しているところも多い上に、精神病院のためにヘンに怖い幽霊話には事欠かず、かといって修繕の費用も捻出できず、どうにもならなかったらしい。グレイストーンの建っていたモリスタウンは、私の住むジャージーシティからはクルマで1時間弱といったところだ。知っていれば解体前に見に行ったのに。


他にもシルク・ドゥ・ソレイユが製作に関係した「スパークト: ア・ライヴインタラクション・ビトウィーン・ヒューマンス・アンド・クアドコプターズ (Sparked: A Live Interaction Between Humans And Quadcopters)」、水中でのサメと一緒のセルフィー「ザ・シャーク・ドローニー (The Shark Dronie)」、浜辺でのプロポーズの模様をとらえた「ドローニー・プロポーザル (Dronie Proposal)」等、印象的な作品が続く。


ドローンの出現の印象は、ステディカムが現れた時の興奮に似ているような気がするが、ドローンはステディカムよりも可能性という点ではまだまだ未知の応用例を秘めていると思う。個人的には、まずワンタッチでヘルメット着脱可のGoPro一体型のドローンの出現を期待する。エキストリーム・スポーツをプレイ中のアスリートの視点が、途中から空高く舞い上がる。既に色々と試している者もいるに違いない。










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