ミステリーズ・オブ・ジ・アバンダンド   Mysteries of the Abandoned

放送局: サイエンス

プレミア放送日: 4/20/2017 (Thu) 22:00-23:00

製作: ライク・ア・ショット・エンタテインメント

製作総指揮: ブルース・バージェス、ヘンリー・スコット

ナレーション: キャスパー・マイケルズ


内容: 世界中に点在する、現在では廃墟となった施設、建築、構造物の紹介。


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Mysteries of the Abandoned


ミステリーズ・オブ・ジ・アバンダンド  ★★1/2

廃墟というのは、好奇心を唆る。現代では特にそうではないかもしれないが、私が子供の頃は、家の近くに幽霊屋敷と呼ばれる廃墟廃屋の一つや二つは必ずあった。戦後既に20年以上経っていたが、私の生まれ育った場所は第二次大戦の激戦地だったこともあり、そういう謂われ、由来、怖い話のある場所や建物の数は、世界中のどの場所と比較しても決してひけをとらなかったろうと思う。今日本で公開中の「ハクソー・リッジ (Hacksaw Ridge)」の舞台は、家から歩いて行こうと思えばできない距離じゃなかった。


高校は東シナ海を見晴らせる高台にあったが、その隣りにも空き家となった二階建ての家が長らく放置されたままあった。ある時悪友らと肝試しと称して学校の帰りがけにその廃屋に忍び込んだことがある。ただの薄暗い、ガラクタが散乱しているだけの場所だったが、それでも結構ドキドキした。


近くには本当に歴史と由緒が付随してくる、国宝もしくは世界遺産級の歴史的な建造物や古墓、もしくは廃墟擬きがあり、今から考えると嘘みたいにセキュリティなぞないに等しかったりしたが、さすがにそういうところに忍び込もうとは私も友人も誰も考えてなかった。本気で祟られると内心思ってた節がある。それで近くの幽霊屋敷で満足してたところなんぞ、今考えると可愛いもんだ。


世界には、なんらかの理由でそういう廃墟化した建物、施設設備が至る所にある。規模の大きなそういう場所の多くは、その時の政府指導の大型プロジェクトや土木工事、金持ちが私財を投げうって建設を試みた工場、みたいな施設跡だったりする。だいたいそういう施設は郊外、端的に人のいない砂漠や森の中、無人島みたいな場所にあるが、中には今でも都心でそういう場所として存在し続けているのもある。


昨年、「ニューヨーク・シティ・ドローン・フィルム・フェスティヴァル2016 (New York City Drone Film Festival 2016)」で撮られていたグレイストーン精神病院施設なんて、この種の廃墟マニアには堪えられないと思う。勝手に想像妄想がどんどん膨らんでいく。つい最近もニューヨークとコネティカットの州境に近いポートチェスターという町の打ち捨てられていた元病院跡に近くの少年が忍び込み、空洞化したエレヴェイタ・シャフトに落ちて死亡したという事件があった。廃墟化した病院跡というのは、実はどこにでも結構あるようだ。


「ミステリーズ・オブ・アバンダンド」は、世界中に散らばるそういう場所を紹介し、なぜそうなってしまったかを説明するリアリティ・ドキュメンタリーだ。毎回3、4本のそういう廃墟を紹介する。番組第1回で採り上げられるのは、カリフォルニアのゴート・キャニオン鉄道橋、ウクライナのデュガ・ウッドペッカー、ドイツのプローラ・コンプレックス、そしてフランスのグラン・グーレイ道路だ。


ゴート・キャニオン橋はアメリカ-メキシコ国境近くの灼熱の山岳砂漠地帯を走る鉄道橋で、1932年に着工した。全長180m、高さ60mに及ぶ。酷暑乾燥地帯であり、土砂崩れや酷暑と戦いながらの建築は困難を極め、木造建築物のため火事の恐れは常にあったが、当時はそれでもこのルートに意味があった。しかし列車に変わる交通手段の発達や劣悪環境での維持費の問題、さらには地盤悪化による落石や地震、ハリケーンの影響等で危険と判断され、1976年をもって利用されなくなった。西部劇で橋を爆破なんてシーンがあると、ほとんどがこれをモデルにしていると思えるほど見覚え感がある橋だ。


ウクライナのデュガ・ウッドペッカーは、今度はかなりSFチックな建造物で、一見するとエイリアンとの交信を目的とした施設かと思う。冷戦時代のソ連が西側の大陸間弾道ミサイル飛来の早期発見を計画して建設した巨大なレーダーで、まるでウッドペッカーみたいなハム音を出すためにそう呼ばれるようになった。なんか、「ダイバージェント (Divergent)」の町境いの壁のようだと思っていたら、実際にデュガをモデルにしているそうだ。


これが現在見捨てられて使えないのは老朽化したためではなく、10km圏にチェルノブイリ原発跡があるからだ。チェルノブイリのメルトダウンはデュガが発生する電磁波のせいだったとする意見もあるそうだが、もちろん真偽は定かではない。それにしても冷戦時代って、本当に第三次大戦の可能性は低くなかったんだなと冷やりとする。


3つ目のドイツのプローラ・コンプレックスは、バルト海に面したリューゲン島にナチスが建造していた一大保養施設だが、第二次大戦が始まったため、完成の日の目を見ることなく打ち捨てられた。なまじ頑丈にできている上に規模が規模だけに、今度は簡単に更地にすることもできなかった。数kmに及ぶ鉄筋コンクリートの建物群は圧巻だが、戦後は刑務所や軍施設として一部が利用されただけで廃墟化した。現在、やっとリゾート・マンション化計画が具体化し始め、人が住み始めているので、廃墟でなくなる日も近い。


4番目のグラン・グーレイ (Les Grands-goulets) は、フランス南部の山間を走る道路で、要するにヒストリー・チャンネルの「アイス・ロード・トラッカーズ: デッドリースト・ローズ (IRT Deadliest Roads)」でトラックの運ちゃんがシルク・ロードを走らせていたような、古い道だ。19世紀に山肌を削ったりトンネルを掘ったりして作った道路で、乗り合い馬車がすれ違える程度という道幅なため、トラックが走れるわけもなく、場所によっては一歩間違えば谷底真っ逆様という、やはり「デッドリー・ローズ」に近い怖さがある。しかし風光明媚であることは確かで、観光名所であったものが、崖崩れ等により一部崩落し、2005年に閉鎖された。


番組第2回では長崎の軍艦島も採り上げられる。一つの島すべてが廃墟であり、世界を見渡してもほとんど他に例のない場所だ。その他、印象に残ったのがペンシルヴァニア州のキンズア橋で、森の真っ只中を跨ぐ橋が、途中でばっさりと切断されている。キンズア橋は19世紀後半に建設され、20世紀中盤に観光施設になった後、2003年に竜巻の被害を受けて半分以上が崩落、その後に残った部分を改修して観光施設にしたものだ。そのため、厳密には廃墟とは言い難い。


アメリカの首都ワシントンDCのすぐ近く、ポトマック湾には、何十隻もの木造の資材運搬船が沈んでいる。第一次大戦時の建築ラッシュの時に資材を運ぶために造船途中、戦争が終わり、用済みになったため、火をつけて燃やされ、そのまま沈められた。これまた異様な景観だが、その場に行っても上空から見ないと廃墟とわかりにくいのが難点か。その他、当然のことながらチェルノブイリもある。今、人が廃墟というと真っ先に思い浮かべるのはここだろう。福島原発も何年か後にはこういう風に回顧される場所となるのか。











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