放送局: NBC

放送日: 5/3/2007 (Thu) 20:00-20:40

プレミア放送日: 9/20/2005 (Tue) 21:00-21:30

製作: 製作: アミーゴス・デ・ガルシア・プロダクションズ、20世紀FOXTV

製作総指揮: グレッグ・ガルシア、マーク・バックランド

共同製作総指揮: ボビー・ボウマン、バービー・アドラー

製作: ジェイソン・リー、マイケル・ペニー

共同製作: ダニエル・サンチェス-ウィツェル、カット・リッケル、ジョン・ホバーグ

監督: マーク・バックランド (プレミア・エピソード)

クリエイター/脚本: グレッグ・ガルシア

撮影: フェリックス・パーネル

編集: ジャネット・アシカガ

音楽: デニー・ラックス

美術: グレゴリー・メルトン

出演: ジェイソン・リー (アール・ヒッキー)、イーサン・サプリー (ランディ・ヒッキー)、ナディーン・ベラスケス (カタリーナ)、エディ・スティープルス (ダーネル・ターナー)、ジェイミ・プレスリー (ジョイ・ターナー)、グレッグ・ビンクリー (ケニー・ジェイムズ)


物語: 「ゲット・ア・リアル・ジョブ (Get a Real Job)」

宝くじに当たったことからそれまでのけちな犯罪者の道から足を洗い、これまでに自分がしてきた数々の小さな悪事の償いをしようと決心したアールは、今日も小さな善行に勤しんでいる。弟のイーサンと共に大型家庭用品店で働き始めたアールだったが、販売の業績は上がらず、同僚店員からの嫌がらせは後を絶たない。一方、ジョイはダーネルを後に残して出奔する計画を立てる‥‥


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NBCの「マイ・ネーム・イズ・アール」は一昨年から放送が始まっている。「フレンズ」終了以降、代わりに投入したスピンオフの「ジョーイ」の成績がぱっとせず、「ウィル&グレイス」も一時ほどの人気はないという状況下で、NBCは特に高い人気があるわけではないが安定している、「スクラブス」的な、従来のステュディオ収録のシットコムとは異なる30分コメディの開発に突破口を見出さんとした。


まずBBCの同名タイトルをリメイクした「ジ・オフィス」は、これも特に高い人気を示したわけではないが、エミー賞を受賞したことを見てもわかるように、少なくとも批評家からは評価されている。とはいえBBCアメリカでオリジナルの「オフィス」を見れる時にわざわざ作ったリメイクなんて、私は金輪際評価しようという気にはなれなかったが。


その後NBCが投入したのが「マイ・ネーム・イズ・アール」で、昨秋はさらに「30ロック」を編成、後に火曜、水曜と分散して放送されていたこれらの番組を、かつて栄華を誇った木曜夜にまとめて編成するに至って、NBCは本気で30分コメディに将来を託しているのだなと思わせた。このほど発表されたばかりの今秋の新シーズンの番組発表では、木曜夜に8時「アール」、8時半「30ロック」、9時「オフィス」、9時半「スクラブス」と30分コメディが4本連続で並び、その他の時間帯には30分コメディどころか従来的シットコムすら1本もない。ここまで徹底して30分枠にシットコム無視で挑んでいるのは、ネットワークではNBCだけだ。


これがほんの数年前には、「フレンズ」、「サインフェルド」、「フレイジャー」、「ウィル&グレイス」等でアメリカのシットコム界をほとんど牛耳っていたNBCのラインナップとは到底信じ難い。タイム・マシンで数年前に遡り、あと数年後にはNBCはシットコムを全部諦めるんだよと視聴者に言っても、信じる者は一人もいないだろう。今、NBC発表の編成表を現実に目の前にしても、俄かには自分の目が信じられないくらいだ。これらの番組が、批評家受けはよくても特に高い視聴率を示しているわけではないからなおさらだ。NBC責任者のジェフ・ズーカーって、こんなにものわかりよかったっけ?


観客を入れてのステュディオ撮影であるシットコムと、実質他のドラマ番組と撮り方はまったく一緒である30分コメディでは、当然のことながら見た印象はまったく異なる。限られた空間、連発されるギャグ、観客の笑い声といったものが特徴のシットコム、ストーリー性を重視した、シングル・カメラ撮影の30分コメディでは、同じコメディ番組とはいっても、まず笑う回数が決定的に違う。とにかく客/視聴者を笑わせることに主眼を置くシットコムでは、実際にかなり笑えたりする。全盛期の「フレンズ」や「Hey! レイモンド」を見て、爆笑したことのない視聴者はほとんどいないと思う。時にはほんとにお腹を抱えて涙を流すくらい笑ったりするのだ。


しかしこれが30分コメディになると、せいぜい見ててくすりとしたりするくらいで、ややもすると一度も笑うことなく番組が終わってしまうということもよくある。シチュエイションでにやりとさせたり、皮肉が利いていたりするためだが、こういうギャグやオチが中高齢者よりも若い視聴者の方にアピールするのはもちろんだ。NBCが考えていることも、当然そこにある。


ところでNBCは、一昨年、人気ドラマの「ミディアム」を3D放送するというギミックで話題を提供した。3Dドラマが毎週あってもたぶん見ようという気にはならないと思うが、たまに3Dで番組が放送されるというと、つい見てしまう。普段ならまったく見る気のしない子供向け作品でも、それが3Dというだけで、つい「スパイキッズ 3D」を見に行ってしまうようなものだ。


そしてNBCが今回試みたのが、30分コメディの「マイ・ネーム・イズ・アール」を匂いつきで放送するというものである。もちろんTV画面から実際に匂いが漂ってくるわけではなく、「ミディアム」の時と同様TVガイド誌と提携し、付録としてついている匂いシートを利用する。番組放送中、あるポイントが来たら匂いシートをこすって、ストーリーに関係した匂いを立たせるという仕組みだ。NBCの宣伝はこれを「スクラッチ・アンド・スニフ (scratch and sniff)」エピソードと呼んで盛んに宣伝していた。


しかし「ミディアム」の時はNBC/TVガイドもかなりバックアップして、雑誌の値段も通常の半額の99セントに設定されていたが、今回は割引なしだった。さらに雑誌の定価自体が、当時の1ドル99セントから現在は2ドル49セントに値上げされているため、雑誌を定期購読していない人間にとっては割高という感じは否めなかった。たぶん、私のようにこういうイヴェントがあるから今回だけ雑誌を買おうと考える奇特な人間はあまりいないんだろう。


今でもディズニー・ランドやユニバーサル・スタジオ、アイマックス等でほぼ恒久的に見れる3D作品とは異なり、匂いつき映画/TV番組はほとんど聞いたことがない。しかし前例がないわけではなく、かのジョン・ウォーターズの「ポリエステル」は、「オドラマ (Odorama)」と呼ばれる今回と同形式の匂いつき映画だったそうだ。そいつは知らなかった。そのウォーターズ、実は昨シーズンに「アール」にゲスト出演していたそうで、その時に番組製作者のグレッグ・ガルシアがオドラマを番組に使うというアイディアを得た。因みにウォルターズは現在、かつて愛し合ったもの同士が憎しみ合うようになって殺しあうようになるまでをドキュドラマで描く、コートTVの「'ティル・デス・ドゥ・アス・パート ('Til Death Do Us Part)」にホストとして出演しており、異様に番組とマッチして効果を上げている。


さて本題の「アール」だが、TVガイドについてきた匂いシートには、1番から6番まで番号が打たれており、番組中に画面右下に数字が点滅したら、その番号の部分をこすって匂いを嗅ぐ。実は最近、私はポール・ヴァーホーヴェンの「ブラックブック」を見たのだが、と、こう書いただけでカンのいい者ならぴんと来ると思うが、あの映画では主人公がクソまみれになるというシーンがある。それを見ながら、うえーつ、本当に匂ってきそうだとびびっていた。それで今回そのことを思い出して、まさかそういうやばい匂いもあるんじゃないだろうなと危惧したわけである。結果から言うとさすがにめしを食いながら見ている者もあるだろうTV番組でそういう危険な賭けに出るわけにはいかなかったようで、杞憂に過ぎなかったわけだが、しかし、「ポリエステル」にはおならの匂いとか、その手の匂いもあったそうだ。さすがウォルターズ恐るべし。


今回のエピソードで最初に登場した匂いは、アメリカに住んでいる者、あるいは沖縄出身の者ならお馴染みのクッキーのオレオの匂いで、要するにおやつの時間という設定だ。その他にも、シナモン・ドーナツだとかスナックだとか基本的に食べ物の匂いが多いのは、当然それが匂いと強烈に結びついている上に、話に組み込みやすいからだろう。登場人物の一人が腹減ったと一言言えば、すぐに何か食べるシーンに直行できる。さらに、匂いシートをよく見ると、協賛スポンサーはオレオと書いてあるではないか。なんだ、このエピソード、スポンサーの商品を番組内にさりげなく出すという流行りのプロダクト・プレイスメントの一環でもあったのか。


そういった食べ物以外では、職場で芳香スプレーを撒き散らすのがあった。後でそれを香水とカン違いした客がいい匂いだわねともらすセリフがあったりするが、これなんかは確かに実際に匂いを嗅いでいた方が納得しやすいギャグではある。さらに、登場人物の一人、ジョイがダッチ・ワイフを購入してダーネルにプレゼントするというシーンでは、ジョイが新車の匂いでしょ、と説明をつけ加える。実際に匂いを嗅いでみて、なるほど、新車の匂いか、先にこの匂いがあったのでそういうセリフになったのか、いや、やはりそういう設定にあわせて匂いを作ったのだと思うが、確かに新車に特有の、あの独特の匂いがした。


で、実はこのエピソード、後半になると、匂いシートは半分は既にこすり済みだ。話が展開するに連れてまだこすっていない番号をこすって新しい匂いを立たせないといけないのだが、どうしても隣りの番号の匂いも微かにする。それでできるだけ鼻をシートに近づけてその番号の匂いだけを嗅ごうと強めに息を吸い込んだりするものだから、たった30分しかない番組の後半の方では、なんだか気分が悪くなってきた。


実際、匂いというものは気分と非常に密接に関係していて、あまり色んな匂いだとか強い匂いを嗅ぐと気分が悪くなるのは、誰でも経験していることだろう。ついでに言うと、うちの女房なんかはそれこそ新車に特有の車の匂いに弱く、そのため車に長いこと乗っていると、別の意味で車酔いする。それがこのエピソードではその新車の匂いつきだ。あまり敏感な人向けとは言えないなというのが、今回の番組を見ての率直な感想なのであった。それにしても「ポリエステル」を見た観客には病人は出なかったのだろうか。  







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My Name Is Earl

マイ・ネーム・イズ・アール   ★★1/2

 
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