My Happy Family


マイ・ハッピー・ファミリー  (2022年10月)

既に5年前の作品である「マイ・ハッピー・ファミリー」を見ようと思ったのは、ニューヨーク・タイムズで隠れた佳作として推薦されていたことと、これがジョージア映画ということにある。 

 

ジョージア映画って、これまでほとんど見たことがない。近年で覚えているのは、地方を回って物々交換取り引きをする商人を描いた短編の「物ブツ交換 (The Trader)」くらいで、わりと評判になった「みかんの丘 (Tangerines)」も、見たいと思いつつまだ未見だ。 

 

知っているジョージアンというと大相撲の栃の心と、そして実は、かれこれ一昔前に私たち夫婦が今住んでいるコンドミニアムの一室を買った時に仲介したエージェントの女性が、ジョージアンだった。 

 

人種の坩堝であるニューヨークでも、それでもジョージア出身の人間と会ったのはその時が初めてで、自己紹介をした時、ジョージアと聞いてとっさに頭の中に世界地図が思い浮かばず、ジョージア、ジョージア‥‥、いったいどこだっけ、と思って話を濁したのがまだ強く記憶に残っている。 

 

ウクライナ戦争を見るまでもなく、黒海周辺のあの辺は地理的に何かと微妙だ。ジョージアは北をロシア、南をトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンに囲まれて、それだけでもうきな臭いというか、いかにも政情不穏という臭いがぷんぷんする。だいたい、あそこは世界地理的には何地方というんだ? 東ヨーロッパでも中央アジアでもなさそうだし、中東とも違う。西アジアという呼び方はあったっけ? なんとなく世界から置き去りにされたような場所という感じで、だからこそいまだに物々交換商人が存在している。 

 

「マイ・ハッピー・ファミリー」の主人公マナナは、大家族を一人で切り盛りしている教師だ。私も南のあまり所得の高くない地方の出身だからわかるが、そういうところって、なぜだか働かない大の男が多い。そしてよく働く女性がそういう怠け者を支えている。もちろん働かない男はいい歳してぐーたらしてと文句言われるが、それでもそれで社会が回っている。あれはいったいどういうシステムなんだろう。 

 

マナナの家族も似たようなもので、というか、ほとんど彼女一人で働いて大家族を支えている。おじいさんおばあさんはしょうがないとしても、旦那もいい歳した息子も働いているようには見えない。やはり女性の成人した娘だけが、もしかしたら何か職に就いているように見えないこともない。 

 

それなのに、マナナの夫は昔浮気して、実はよそにマナナの知らない息子がいたことが判明する。さらにマナナは、同居している娘の夫が浮気している現場を目撃する。そしてやはり無職の息子は、いきなり妊娠しているガールフレンドを家に連れてきて、結婚して一緒に住むと言い出すのだ。 

 

これで切れない人間は、やはりあまりいないだろう。というか、よくこれまで我慢してきたものだ、あっ晴れ、とすら言いたくなる。マナナが一人で住みたいと思うのは当然だろう。しかし彼女に寄りかかっている家族には、それがわからない。 

 

たぶんマナナが独立計画を誰にも相談せずに一人で進めてきたのは、誰からも理解されず、家族だけでなく友人知人皆から反対されることをわかっていたからだろう。それに、家を出て一人で住むといっても簡単に訪れることができない遠いところに引っ越すわけではなく、転居先はバスで数分といったところだ。もしかしたら徒歩圏内かもしれない。家族に何かあったらすぐに帰れる場所なのだ。 

 

要するに、マナナとて家族と完全に袂を分かつ気があるわけではない。ほんのちょっとだけ、自分一人だけの時間が欲しいだけなのだ。そのくらいの贅沢なら許されてもよかろう?  それなのにマナナの弟はマナナにヘンな虫がつかないよう手を回してマナナ近辺を見張らせてマナナを怒らせる。やっぱり誰もマナナのことをわかってくれない。それでもマナナにとっては一つ前進なのだ。 

 




 









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ジョージア。教師をしている中年女性のマナナ (イア・シュグリャシュヴィリ) は、両親、働いていない夫、同様に仕事していない息子、娘夫婦らと同居している大家族だ。マナナ一人で大家族の面倒を見ているような感じで、今日はマナナの誕生日で、実はマナナが本当に欲しているのは身体を休ませる休養だというのに家族は勝手に友人知人を招き、マナナを休ませてくれない。実はマナナはそういう生活にうんざりしており、家族に内緒で一人で住むためのアパートを契約していた。家を出るというマナナの爆弾発言に皆右往左往してマナナを翻意させようとするが、マナナの決心は固かった‥‥ 


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