Mrs. Eastwood & Company   ミセス・イーストウッド・アンド・カンパニー

放送局: E!

プレミア放送日: 5/20/2012 (Sun) 22:00-23:00

製作: ブニム-マーレイ・プロダクションズ

製作総指揮: ディーナ・イーストウッド、ジル・ゴールズチェイン

出演: ディーナ・イーストウッド、フランチェスカ・イーストウッド、モーガン・イーストウッド、オーヴァートーン (Overtone)、リサ、クリント・イーストウッド


内容: クリント・イーストウッドの妻ディーナと娘たちフランチェスカ、モーガン、その周りの人々に密着するリアリティ・ショウ。


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Mrs. Eastwood & Company


ミセス・イーストウッド・アンド・カンパニー   ★★1/2

最初この番組の話を業界ニューズ・レターで目にした時は、自分の目を疑った。冗談じゃなく、衝撃だった。クリント・イーストウッド。クリント・イーストウッド。現在世界最高峰の映画監督クリント・イーストウッド? あのクリント・イーストウッドと家族に密着するリアリティ・ショウだってか? あの、クリント・イーストウッド? 本当にイーストウッド? イーストウッドがリアリティ・ショウなんかに出るの?


実はこの思い込みは正確ではない。番組はタイトルが正確に示している通り、主人公はクリントの妻ディーナ、および娘たちであって、番組は基本的に彼女らの生活に密着するリアリティ・ショウだ。カメラはイーストウッド邸内部に入り込むとはいえ、基本的に新作撮影の準備で常に忙しく、家を空けていることの方が多いクリントは、番組の主要出演者ではない。ああ、びっくりした。


とはいえこういうカン違いを起こしたのは私だけではなく、番組製作のアナウンスがあった時は、結構業界を賑わせていた。むろんどれもが、リアリティ・ショウというジャンルとは最も縁のない人物の代表と思えるクリント・イーストウッドという固有名詞が、現実にリアリティ・ショウ新番組というリストに現れたことに、驚きと戸惑いを隠せないものだった。それがクリント本人というよりは妻と娘たち主体で、クリント自身は、もしかしたら画面に登場することもあるかもしれないという可能性が示唆されただけで、人々はほっと胸を撫で下ろしたのだった。


先入観としてはまったくあり得そうもない企画であるクリント・イーストウッドに密着するリアリティ・ショウというアイディアは、しかし、よく考えるとあり得ない話ではないという気もする。なんとなればイーストウッドという名前とその作品から受ける印象を代表するものは、その懐の深さ、受容力、寛容さであって、たぶんもしかしたらクリント本人は、そういうリアリティ企画に対しても、別に特に先入観なぞなく、当たり前に自然に接するかもという予想も成り立つからだ。もしかしたら、気軽に、じゃ、やってみるかという話にならないとも限らない。


少なくとも、自分の妻子がリアリティ・ショウに出ることに関しては反対していないからこそ、今回の番組企画は実現した。別にクリントにとって、リアリティ・ショウだからといって、そこに特別の垣根はない。映画だろうがTVだろうが、ひょいひょいとこちらの予想を軽く飛び越えていく人材が、クリント・イーストウッドという存在なのだ。ハリウッドきっての重鎮という存在でありながらこの身軽さ。


実際、番組中で、娘のモーガンは、うちのパパは誰に対してもオープンだというような主旨の発言をしていた。さもありなんと思う。クリント・イーストウッドという存在に対して、向こうが意識してなくても、勝手にこちらの方で虚像を作り上げて近寄りがたい畏れ多い存在にしてしまうのだ。


番組では家族が、クリントが所有しているレストランで食事をとるというシーンがある。そこに現れたのは、誰あろうクリント・イーストウッドその人だ。おお、やはり顔出すくらいは全然平気でするんだな。しかし周りの一般客の方が遠慮して、ディーナに対して、クリントにサインをお願いしても平気だろうかと尋ねるのだ。ディーナは、私に訊くんじゃなくて、本人が眼の前にいるんだから本人に訊けばいいのに、とさも不思議そうだ。しかし、いや、その客の気持ち、わかるぞ。クリント本人になんか、畏れ多くて簡単に近づけるか。彼は天上人なのだ。眼を合わせることすら憚られる。平民はサインをもらったら、平伏してさささと引き下がるのみ。


一方、実際問題として、クリント・イーストウッド自身が登場するシーンは、そんなに多くない。第1回の特別出演は、妻へのサーヴィスみたいなもんだろう。番組は、基本的にディーナと二人の娘、フランチェスカとモーガンに密着するリアリティ・ショウなのだ。


ティーンエイジャーのフランチェスカとモーガンは、フランチェスカがブロンド、モーガンはブルネットだ。フランチェスカの母親はその時クリントと一緒だったフランシス・フィッシャーであり、モーガンの母はディーナで、二人とも母親の特質を譲り受けている。


また、継子のフランチェスカにも自分の娘のモーガンにも分け隔てなく接しているのを見てもわかるように、ディーナはかなり開けっ広げな性格で、ほとんど裏表がない。そのわかりやすさ、ある意味ピュアな点が、クリントと合うんだろう。結局クリントが最終的に選んだのはそういう人なのだな。


ところで、一時あれだけ騒がれたソンドラ・ロックとクリントとの間には子供はいないのか。ロックとはかなり揉めて別れたみたいだからな。たとえクリントみたいな存在でも、情に流されて身内を主演に使って作品に撮るようなことになると、ろくなことにならない。


番組ではディーナがオーヴァートーンというボーイズ・グループをプロモートするのもとらえる。オーヴァートーンは、クリントがモーガン・フリーマン主演で「インビクタス (Invictus)」を撮った時、ディーナが南アフリカで発見したグループで、彼らの音楽が気に入り、アメリカでデビューさせようと連れてきた。番組では彼らの活動の模様もフィーチャーされる。


番組第1回の主要な話題は、モーガンがへそピアスをしたいというのを止めさせようと画策するディーナと手伝いの韓国系のリサ、そしてカミングアウトするかどうかで悩むオーヴァートーンのエディと、リーダーのエミールを中心に展開する。


年頃の娘らしく、モーガンは母のディーナと同じことをするのを格好悪いと言って嫌がる。それを見越してリサはディーナに、あんたがへそピアスをやればモーガンはもうその気はなくなるよと言ってプッシュする。結局ディーナがへそピアス、リサが付き合いで鼻ピアスをしてモーガンの前に現れ、モーガンは以来へそピアスのへの字も言わなくなった。しかしリサ、こいつ、気に入らない鼻ピアスを指で思い切り引き抜いていたが、これまた強烈な性格。ディーナだってかなり血を出しながらへそからピアスを引き抜いていた。


一方オーヴァートーンのエディは、ゲイなのだが、カミングアウトするべきかどうかで迷っている。アメリカにはゲイのミュージシャンやセレブリティなんて腐るほどいるのに、やはりそれでカミングアウトするかどうかはセンシティヴな問題のようだ。特にこういうボーイズ・グループの場合、カミングアウトするかどうか、あるいはカミングアウトするにしても、そのタイミングが非常に重要であるらしい。


実際、移り気なティーンエイジャーの女の子が主要ファン層だろうから、なんらかのきっかけやタイミングで人気が上下するのは大いに考えられる。とはいえ、こうやって番組でばらしていたら、今さらカミングアウトもないだろう。あるいは、番組放送前には既にカミングアウトしているという予定で、公にしているのかもしれない。それとも本当にこれが初ばらしか。


番組では、そうやってエディが悩んでいるのに、リーダーのエミールが特に気にしてないようなのに腹を立てたフランチェスカとディーナの弟のドミニクが、エミールのクルマに悪戯して騒ぎを大きくする。因みにドミニクの妻ジェイドの旧姓はマルクスで、彼女は、かのマルクス・ブラザースの一人、グルーチョ・マルクスの孫だ。それしてもハリウッドってそういう世界なんだな。


特になんの期待もなく見始めた番組だが、実は裏表のないディーナの性格は、例えばブラヴォーの「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ‥‥ (The Real Housewives of…)」フランチャイズに出てくる、目立ちたがりのどうでもいいおばさん連中よりはよほど好感が持てる。娘たちも可愛いし、オーヴァートーンがどうやってアメリカでボーイズ・グループとしてメイジャーになるかを模索する様子も結構教務深い。たまさかクリント自身が見れるのも得した気分。今度はピアノを弾いてくれ。


しかし正直言って、もし、本当に、クリント・イーストウッド本人にカメラが密着し、どのようにして彼が新作を企画し、発展させ、製作するかを徹底的にとらえるリアリティ・ショウが製作されるとするなら、それはもう、万難を排してでも見る。PPVであってもペイTVであっても、いくらだろうが払って見る。その可能性はたぶん万に一つもないだろうとは思うが、もし実現したら、と思わず空想の世界に耽ってみるのだった。









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