ミスター・ロボット   Mr. Robot

放送局: USA

プレミア放送日: 6/24/2015 (Wed) 22:00-23:00

製作: アノニマス・コンテント

製作総指揮: サム・エスマイル、スティーヴ・ゴラン

出演: ラミ・マレク (エリオット・オルダーソン)、クリスチャン・スレイター (ミスター・ロボット)、カーリー・チェイキン (ダーリーン)、ポーシャ・ダブルデイ (アンジェラ・モス)、


物語: エリオットは昼はIT企業のオールセイフでサイバー・セキュリティ・エンジニアとして働いているが、夜は様々な場所をハッキングしたり夜のマンハッタンを徘徊していたりした。人とコミュニケイトするのが苦手で、精神科医にもかかっているが、結局医者のアカウントをハックしてプライヴェイトな情報を得てそれを妄想して、カウンセリングなぞ何も聞いていない。ある時、オールセイフの最大の得意先の大企業Eコープのコンピュータがハッキングされる。企業どころか国の屋台骨さえ揺るがしかねない状態に、エリオットは上司に連れられてプライヴェイト・ジェットに乗って本社に飛び、ぎりぎりのところで完全にシステムを乗っ取られるのを阻止する。その夜、サブウェイに乗ってういたエリオットにホームレスの男 (クリスチャン・スレイター) が話しかけてくる。男はエリオットが誰かを知っており、どうやらEコープにハッキングを仕掛けたのも彼のようだった。ミスター・ロボットというロゴが書かれたジャケットを身につけているこの男は、いったい何者なのか‥‥


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Mr. Robot


ミスター・ロボット  ★★★

「ミスター・ロボット」を放送するケーブル・チャンネルのUSAは、一頃はTNTと並んでベイシック・ケーブルを代表するチャンネルという印象があったが、近年は特にヒット番組に恵まれているわけではない。とはいえそこはアメリカを代表するチャンネル、編成する番組の質が悪いわけではなく、ここ数年USAが投入したドラマを新しい順に挙げると、ギャング抗争に巻き込まれた医者を描く「コンプリケイションズ (Complications)」、中東を舞台とするポリティカル・スリラー「ディグ (Dig)」、家庭崩壊の危機に遭った男が男娼に走る「サティスファクション (Satisfaction)」、一匹狼のはぐれ医師を描く「ラッシュ (Rush)」と、私が前回書いたUSAドラマの「グレイスランド (Graceland)」以降を見渡しただけでも、へえ、なかなかレヴェル高いなと思わず感心するクオリティの番組が並ぶ。


とはいっても、それらが人気番組として確立するかどうかはまた別の話だ。近年、FXやAMCの躍進により、競争が激化しているのは確かだが、それでもTNTの「リゾーリ&アイルズ (Rizzoli & Isles)」「メイジャー・クライムス (Major Crimes)」が常にケーブルの視聴率ランキングで上位にいることを考えると、USAが低迷しているという印象は拭い難い。


実は「ミスター・ロボット」も、クオリティは高いが視聴者を掴まえきれるかどうかというと、ちょっと難しいかもと思わせられる。不眠症的な腕の立つハッカー、エリオットが、巨大企業転覆を企む謎の男ミスター・ロボットの計画に巻き込まれていくという話だ。因みにその巨大企業のEコープ (エリオットはEvil Corp (悪の企業) と呼んでいるが) のロゴはどこからどう見てもエンロンと瓜二つで、意図していることを隠そうともしていない。


エリオットはとにかく人とコミュニケーションをとるのが下手だ。だいたい相手が何か喋っていると、それに耳を傾けずに自分勝手に何か考えている。番組ではそのエリオットが考えていることが彼の声として聞こえてくるが、当然その間は何かアクションがあるというわけでもなく、ヴィジュアル的には退屈だ。


それもあるのだろう、構図とか人の配置とかの一幅の絵としてのヴィジュアルにはかなり気を使っているのが見てとれる。「誰よりも狙われた男 (A Most Wanted Man)」のアントン・コービンがTVシリーズを撮ったらこうなるのではないかと思われるような、スタイリッシュな映像だ。


主人公のエリオットに扮するラミ・マレクがまた印象的な顔立ちで、特にあの、垂れ目なのか目と目が離れているのか三白眼なのか、なんとも形容のしづらい大きな目は、一目見たら忘れられるものではない。何を考えているか表情が読めず、実にエリオットにぴったり、というか、本人も実際こういう感じなんじゃないかと思えるくらい、役にはまっている。


ミスター・ロボットに扮するのがクリスチャン・スレイターで、近年はTVでNBCの「マイ・オウン・ワースト・エネミー (My Own Worst Enemy)」、FOXの「ブレイキング・イン (Breaking In)」、ABCの「マインド・ゲームズ (Mind Games)」等、ハイ・テクを使ったスパイや詐欺師みたいな役が多い。いかにも一癖ある、みたいな容貌になってきた。


エリオットのアパートはマンハッタンのチャイナタウンにある。そのため結構背景に漢字の看板が見えるショットが多々ある。主人公がチャイナタウンに住んでいるとなると、思い出すのは「リミットレス (Limitless)」のブラッドリー・クーパーだ。中国人以外がチャイナタウンに住むと、どうしても陰謀に巻き込まれやすいらしい。というか、チャイナタウンがいかにも多少後ろ暗いことをしている人間が住みそうな、胡散くさい場所であることは確かだ。


一方ミスター・ロボットの根城は、ブルックリンのコニー・アイランドのすぐそばだ。目の前に観覧車があり、番組第一回では当然の如くエリオットとミスター・ロボットがその観覧車に乗り込んで話をする。観覧車というものはそもそもゆっくりと回転する乗り物だ。スピードではなく、ゆっくりと動きながら高くまで行ってそこからの眺めを楽しむための乗り物だから、それも当然だ。そしてそのゆっくりとしたスピードが、いかにも番組が進行するテンポとマッチしている。正直、近年ここまで話がまったりと進む番組は、他に記憶がない。それでもこれは、いわばスリラーなのだ。


コニー・アイランドは歴史のある、つまり古い施設であるが、かといってジェット・ローラー・コースターのようなスピード感のあるライドがないわけではない。なによりもここには、サイクロンという、えらくスリルのあるローラー・コースターがある。とはいえサイクロンのスピードが実際に速いわけではない。そうではなく、古いがために車体にもレール、構造にもガタがきており、とにかく異様な音を立てて軋む。シートはガム・テープで補強されているし、シート・ベルトのようなものはなく、隙間だらけのバーがシートの手前に降りてくるだけで、こんなの、大きく揺れたら間から落ちて飛ばされそうだ。実際に走行途中で止まってしまい、消防隊員の手によってライドの途中で救出される客というのがニューズになっているのを、何度も見たことがある。


私もかつて一度だけ女房と一緒にサイクロンに乗ったことがあるが、とにかく、乗っている間中、いきなり壊れないだろうな、大丈夫だろうなと、生きた心地がしなかった。我々夫婦は二人とも結構この手のライドに乗っているが、文句なしに一番怖かった。普段ならわいわい喚きながら乗るところが、二人とも本気で命の危険を感じているので、黙ったままただしっかりとバーを握りしめて、前だけ向いて乗った。乗り終わったら手の平にじっとりと汗をかいていた。それ以来、二人共ジェット・コースターに乗ったことはない。乗りたいとも思わなくなった。あれは命知らずの上級者以上向けだ。こんな危険な乗り物がいまだに現役なのだそうだが、大がかりな改修工事でもしたのだろうか。


とまあ、そのサイクロンがエリオットとミスター・ロボットが乗っている観覧車の背景に見えるのだが、そういうスピード感のあるライドと番組は、相容れないのだった。いずれにしてもこういう特性を持つ「ミスター・ロボット」、カルトになりそうな気配が濃厚だ。爆発的人気番組にはならないと思うが、しかし気になる。











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